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フリーライターはビジネス書を読まない(44)

有名企業の専務がストーカー!?

畑中から預かった原稿を自宅へ持ち帰って、じっくり読んでみた。よく書けているが、そのまま本にするには、やっぱり文章に難がある。
全体に共通語で書いてあるけれど、ところどころに大阪弁の言い回しが混じっている。たぶん本人は気づいてない。

それにしても、内容が凄まじい。売れない私家版を出すより、有名人のゴシップばかり書きなぐっている週刊誌にでも売り込んだら、波及効果でひと財産稼げるんじゃないかと思った。

あんまり詳しく書いたら個人名を特定されてしまう恐れがあるから、慎重に書き進めないといけない。

登場人物は畑中と、某有名企業の専務(当時)・T氏である。創業家の出だから、いずれ代表取締役になる人物だ。
ある会合で、畑中はT氏に見染められる。男女の仲になるまで、多くの時間はかからなかった。

しかし、付き合いが長く深くなるほど、畑中はT氏の異常な性癖を知り、嫌悪感を抱くようになる。ときには生命の危険を感じるほどの、激しいプレイだったという。
畑中は別れを決心する。
「うまくいけば将来手にするであろう莫大な富を捨てざるを得ないほど、身の危険を感じていた」と書いてある。

ところが、T氏が別れ話に納得しない。T氏を避け続ける畑中の自宅や事務所への無言電話、1日に無数に送られてくるメール、復縁を迫る手紙が毎日届くなど、あの会社の専務ってそんなにヒマなのか。

畑中はとうとう精神を病んでしまう。その影響からか、道を歩いていて急に失禁したこともあるという。
T氏のストーカー行為は一時より減ったものの今も続いていて、畑中も精神科に通院しつづけているらしい。

畑中は、自分が受けてきた心身への被害を公表して、T氏を社会的に抹殺しようと考えているのか?
畑中の原稿が、事実をありのまま書いている確証はない。畑中が創作したストーリーかもしれないのだ。だからといってT氏のところへ行って、
「あんたストーカーしてますの?」と訊くわけにもいかないし。
さて、どうしたものか……。

しかも、これをリライトするとなれば、けっこうな金額になる。
当時、リライトの相場は400字詰用紙1枚あたり3,500円。大阪の出版社からときどき請けるリライト案件は、この相場に沿っていた。
畑中の原稿が600枚として、3,500円をかけたら210万円か……。数字だけ見たら魅力的だが、畑中が納得して払ってくれるだろうか。

もしもT氏が「事実無根だ」と畑中を提訴でもしたら、出版に協力したことで私も巻き込まれかねない。もっとも契約書に「内容にはいっさい責を負わない」の文言を入れておけばいいのだけれど、それは私と畑中との契約であってT氏には関係ないのだ。
危機管理として、この案件は断るべきか。事務所で話したときの畑中の様子だと、もう出版する気マンマンだった。
原稿料をもっと高く吹っかけるか。向こうから断ってくれたら降りやすい。

そんなことを考えていると、畑中からメールが届いた。
「報酬の件」とタイトルがついている。
開けてみる。

「お見積もりを出してくださる前に、こちらの希望をお伝えしておきます。7万円でお願いします。司法書士の書類作成でも、それくらいです。パソコンをいじるだけだから、充分だと思います」と書かれてあった。

パソコンをいじるだけとは、またずいぶんな言い草だな。しかも司法書士の事務仕事と同列にとらえている。

ふだんの私なら、教育的指導を返すところだ。が、今回は違った。畑中の見当違いなんかどうでもいい。断る口実ができた。

「ご希望されておられる原稿料が、当方が予定している数字と大きく離れているため、今回は見送りたいと思います。お預かりしている原稿は、早急に宅配便でお返しいたします」
メールを返信して、原稿も送り返した。たぶん、もう二度と会うことはないだろう。

その後、あの原稿が出版された様子はない。他のライターに頼んだとしても、見積もりは変わらないはず。きっと「なんでそんなに高いのよ!」と揉めているのかもしれない。

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