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フリーライターはビジネス書を読まない(13)

場違いでダサい録音機材

ネットで知り合って、リアルに会うこともなく、それでいて文字だけのやり取りでそこそこ親しくなった人との初対面は、不思議な感覚だ。
初めて会うのに、お互いの近況をよく知っている。この感覚は、パソコン通信からインターネットに変わった今も変わらない。

「銀の鈴」で合流して、一応、型通りの挨拶をして名刺を交換した。
「じゃ、行きましょうか」と促され、地下鉄をどう乗り継いだのかさっぱり覚えていないけれど、目的地の駅で降りて地上へ上がったら、街の様子は喧騒な東京のイメージとは違っていた。
比較的落ち着いた印象で、編プロは地下鉄の駅の、ほぼ真上に建つ雑居ビルの一室だった。

ここでスタッフをひととおり紹介される。10人ほどのスタッフが働いていて、20代後半から30代ばかり。社長は42歳だった。言っちゃ失礼だが、東京駅で初対面の印象から50歳くらいかと思っていた。

ちなみに10人規模というのは、編プロでは大きい部類に入るそうだ。

ここで、これからインタビューする証券アナリストが書こうとしている本の趣旨について説明を受ける。
その趣旨に沿った話を引き出すのがインタビューの目的で、社長がどんなタイミングでどんな質問をして話を聞き出すか、横でよく聞いておくようにとのことだった。

新宿にある出版社は、ビジネス書を主に制作・出版していて、はじめて5項目だけ書かせてもらった本と、そのあと成り行きで1冊まるまる書くことになった金融の本の版元でもあった。
編集者に会うのも、もちろんこの日がはじめてだ。

著者を待たせないように、約束の時間より少し早めに出版社に着いた。応接室に通されて、編プロの社長から、今回のミッションを担当する女性編集者を紹介される。
ここでまた型通りの挨拶と名刺交換を済ませ、あとは著者となる証券アナリストを待つばかり。

その前に録音の準備をしなければならない。8,000円で急遽購入した安物のラジカセと、これまた安物のカラオケマイクをテーブルに広げる。
迂闊にもほどがあるけれども、ラジカセに入れるバッテリーを買い忘れていることに、ここにきて気が付いた。
恐縮しながらコンセントを借りる。

編プロの社長は、さすがに慣れている。マイクロカセットレコーダーを用意していた。私のラジカセとカラオケマイクだけが、この空間には、どう見ても場違いでダサいのだった。

(つづく)

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