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フリーライターはビジネス書を読まない(12)

はじめてのインタビュー
何をどう準備したらいいのやら

原稿を書いてお金をもらうようになり、職業を尋ねられたとき「ライターです」といえるようになった。まだ食えるようになってないけど。
そして今度は、インタビューをやることになった。

「証券アナリストが初心者向けの株式投資をやさしく解説する内容です」
東京にある編プロの社長から聞いたのは、若手の証券アナリストがいて、儲けさせてもらった取り巻きの人たちから「先生にも、そろそろ本の1冊くらい出してもらいましょうや」という話が出て、出版社に企画を持ち込んだところ、それが通ったらしい。

だが先生ご本人は「書くのが苦手」ということで、知識と経験をひとおり喋ってもらって、原稿に書き起こすミッションを編プロが請け負い、執筆を私に任せてくれるというわけだった。

でも、まだまだ私に全面的に任せられるわけがなく、実際のインタビューは編プロの社長がやる。私は社長の横に座って、インタビュー取材の現場を実地で研修させてもらうような格好だった。

さてと、東京へ行かなくてはならない。出張も初めてだった。サラリーマン時代にも経験したことがない。
そして、インタビューを録音するための機材も必要だ。どんな機材が要るのかさえ見当がつかなかった。

今だったらICレコーダー、その前ならマイクロカセットテープだろう。当時はマイクロカセットテープはあったけれど、値段が高くて買えなかった。
東京までの交通費は編プロから出るとはいえ、原稿料と一緒に支払われるから、どう見積っても早くて3カ月先。この前書いた金融の本のギャラも、まだ払ってもらっていないから、退職金とわずかな貯金を取り崩しながら節約生活を余儀なくされていた。

だから、これから必ず必要になることが分かっていても、ひとまず安い機材で間に合わせざるを得ないという、悩ましい問題に直面していたのだ。

結局、無理やり捻りだした予算で、モノラルの小型ラジカセといちばん安いカラオケマイクを購入。合わせて8,000円ほどで収まったが、インタビュー機材としては極めて「ダサい」品ぞろえになってしまった。

じつは編プロの社長と会うのは、知り合って以来初めてである。文字だけのパソコン通信で、仕事の連絡はメールか電話。今のように手軽に画像をやり取りできる時代じゃなかった。

インタビュー当日は東京駅「銀の鈴」で合流することになり、
「目印を決めましょう」というので、私は「黄色いタオルを右手にもっておきます」と返信しておいた。

東京駅に着いてみて初めて知った。「銀の鈴」は東京では分かりやすい待ち合わせスポットなのだった。
そこらじゅう、人待ち顔の人だらけ。雑踏の中からときおり漏れ聞こえてくる大阪弁に、なぜか少し安心感を覚えた。

「平藤さんですか?」

電話で聞き覚えのある野太い声が、背後から聞こえた。
振り返ると、黒ブチ眼鏡をかけた、見るからにインテリタイプの中年男性が立っていた。

(つづく)

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