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『村上朝日堂はいほー!』(村上春樹・著)を読んだ感想

1.より考察力が高まっている様子が分かる

 これは村上春樹氏が34歳から39歳までの5年間の間に雑誌に連載したエッセイと、後は自身が別に書いてためておいたものを付け加えて一冊にまとめたものです。
作品でいうと、『羊をめぐる冒険』から『ノルウェイの森』の間の期間だそうです。

読んでいると、この頃からより物事に対する捉え方を分析的に見ているなという印象を受けましたし、その後の作品の奥深さに通じるものを感じました。
この頃から海外に出かける・過ごす機会が増えている事から、外国と比べた日本の様子との違いについての意見がちらほら見受けられたので、今までとは違う、日本と外国との文化の比較ができるようになったのも大きいのかなと思いました。
ちょっと考えすぎでは?とも思うような内容もあったんですが、でも小説家という職業上、必要なことでもあるとは思います。
そこで私がこの本で印象に残った一節を、これから紹介していきたいと思います。

2.小説という「フィクション」についての考え方

 村上春樹氏の作品を一つでも読んだ方は分かると思いますが、彼の描く作品は本当に独自の世界観に満ちています。
でもその世界観(私には理解不可能な場合が多い)に物語としての面白さを感じますし、その不思議な世界にも何かしらの一貫性があるようにも感じます。
それのヒントになるような一言があったので紹介します。

よく現実の方が小説より面白いし、ノン・フィクションの方がフィクションより力を持つ時代になったというようなことが言われる。
でもそれは間違いである。
その二つはまったく別の作業なのだ。
ノン・フィクションというのは原理的に現実をフィクショナイズすることであり、フィクションというのは虚構を現実化することなのだ。

彼の小説への考え方が分かります。
小説をきっちりとフィクションとして描く事を何よりも重視している様子がわかりますし、彼がその世界をきっちりと言葉で表すことで現実化させることができているのではないかと私は思いました。

小説を書くというのは本当に難しいと思います。
情景描写や登場人物の様子・仕草、話す言葉の一つ一つまで注意して描かないと、ただの事実の羅列に終わってしまうと思いますし、実際にそういう文章になってしまっていると個人的に思っている作家さんもいます(誰かは絶対に言いませんが)。

その辺は村上春樹氏の作品は本当に丁寧で、とても美しい文体だと感じています。
日本人として、日本人の彼が書く日本語の文章をネイティブそのままで味わえるというのは嬉しい限りです。

3.彼なりの生き方・考え方は至極もっともである

 生き方・考え方も常に普通でありたいと思っていそうだと感じていますし、何かに特化した思想のもとに生きたいという様子は感じられません。
ハルキスト(村上春樹氏の大ファンの人の事)の人はもうその事は重々承知だと思いますが、彼は本当に昔から今に至るまで驕る事なくありのままの生き方をしているように思います。
そんな考えが垣間見えた一節がありましたので紹介します。

しかし僕の意見を付け加えさせて頂くなら、つまらない人間というのはつまらないことで喜ぶと同時に、つまらないことで腹を立てるものである。
だから僕は原則的に妙なことで喜んだり感激する人をあまり信用しない。

そんなの普通の事ではないかと一見思えそうですが、果たして自分はどうだろうかと言われたらちょっと怪しいと思ってしまいます。
常識と言えば常識かもしれませんが、意外と常識をしっかりと持っている人というのもまた珍しいのではないかとも思っています。

4.今の苦しい時代を生きる人に贈りたい言葉

 今は本当に生きるのが苦しい社会であるなと思っています。
高齢者の方が自殺するというのは意外と珍しい事ではない事らしいんですが、今年(2020年)は若者の自殺者が急増しています。
これから人生を歩むはずの人が、時代(社会)に絶望して自ら命を絶ってしまうのは本当に憂慮すべき事だと思います。
言葉よりまずはお金が最優先だと思いますので、つい最近厚生労働省が呼びかけた声明を紹介します。

生活保護の申請は国民の権利です。
生活保護を必要とする可能性はどなたでもあるものですので、ためらわずにご相談ください。

まずは生きる術(お金の確保)を最優先に、それからどうしたら良いか考えたらいいと思います。

では村上春樹氏の言葉を二つ紹介したいと思います。

人生というのは根本的に不公平なものなのだ。

傷口に塩を塗るような意味でこの言葉を紹介したわけではありません。
自分が不幸だと思っている方は、別に自分が悪いわけではないと思ってもらえらたと思って選びました。
今、自己肯定感を高めた方が良いというような風潮がありますが、あれはあれで危険なんです。
一番良いのは「自分はこれでいい」と思える状況が精神的に最も安定するそうです。
ではもう一つ紹介したいと思います。

想像力というものがあれば、我々は大抵のものは乗り切っていけるものだ。
たとえ金持ちであろうが貧乏であろうが。

現在、アウトプットの重要性が取り上げられていて、多くの人が色んな意見を述べていると思います。
しかし創作活動(物語にしろ詩にしろ絵画にしろ)に取り組まれる人はそれほどいないんじゃないかなとも個人的に思っています。

精神の病に罹られた方の中に、自発的に創作活動を始める方が多いということを河合隼雄先生の著書の中で知りました。
実際に周りにも何人かいますし、そこで才能を開花させた方もいます。
私も毎週日曜に、ちょっとずつ短編小説を書いたりしています。
頭の中で考えを膨らませて、それを文章化させるというのは難しくもあり、でも楽しいです。

現実逃避しているわけではありません。
しっかりと現実世界で努力もしていますし、休みの日の楽しみとしてやっています。
精神の安定の助けになっている方もいます。
一番簡単なのは塗り絵でしょうか。
一つ一つのパーツに自分で色を選んで塗っていき、完成させると楽しいです。
馬鹿馬鹿しいと思われる方もいると思いますが、素直に人の意見を聞いて取り入れることができる人とできない人では人としての成長度が違うらしいので、私は精神を安定化させる意味で創作活動もお勧めします。

5.最後に

 もうハルキストの人はとっくの昔に知っている事なんですが、村上春樹氏がラジオで年越し生放送をするそうです。
しかもなんとお年玉として、選べれた方はラジオネームをもらえるそうなので、今年最後の年末・年初最初の楽しみとして拝聴してはいかがでしょうか。
私は年越しそばを食べたら寝て、翌日にradikoで聞くつもりですが。
お年玉が欲しい方は、下記のリンクからご応募ください。

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