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◆不確かな約束◆しめじ編 第9章  受け入れる準備

*この記事には性的な表現が含まれている部分があります。苦手な方は読まずに通り過ぎてくださいませ


12月、私の25歳の誕生日の夜、帯広のタイキ君から電話をもらった。


誕生日おめでとう

ありがとう

どう、元気にやってる? 牧場のスタッフのみんなや、動物達とは上手くやれてる?

うん ここの牧場のみんなもいい人達ばかりで楽しくやってるよ 動物達とも それにこっちは帯広ほど寒くはないしね

ハハハっ そうだね

タイキ君の方こそ元気? 社長や奥さんやお祖父さんも元気かな?

うん 俺は元気 じいちゃんは足が弱っちゃって、家の中にずっといるから、最近はちょっと呆け始めてきてる

そう それは気の毒だわ お祖父さんには長生きしてもらいたいのに

ねえ それより 今日は別の用もあって電話したんだ

えっ なに 別の用って?

ごめん 俺 待てなかった 今 付き合い始めたコがいる いずれ結婚しようと思ってるんだ

えっ あっ おめでとう

ほんとにゴメン

いいのよ 私だってこんなに待たせている事に 責任を感じてたんだから あー 良かった タイキ君 幸せにしてあげてね その彼女のこと

うん ありがとう お前ももうすぐだな 約束の相手に会えるまで

うん そうだね 会えるのかわからないけどね

そっか でもどちらにしても 新しく踏み出せるさ 何かあったら相談くらいは乗るからよ

フフっ 結婚しようとしてる相手がいる人に迷惑なんかかけられないわよ

なにいってんだよ そのくらいのこと 迷惑だなんて思わないっしょ

そう? ありがとう でも私は大丈夫 タイキ君の言うように どちらにしても新しく踏み出せると思うから

そうだな     じゃっ 元気にやれよ そいつがどうしようもないヤツになってたら 一発ぶちかましてやれよ

ハハハっ そうだね    タイキ君も元気でね お祖父さんや皆さんにも宜しく いつかまた遊びに行くね それじゃ また

おうっ またな



これで良かったんだ。タイキ君には本当に幸せな家庭をもって欲しい。なんだか私の気持ちも軽くなった気がする。


カーテンを開いてみた。白く曇ったガラス窓を手でこすって、外を眺めてみる。降る雪が、街灯に写し出され銀色に輝いて見えた。

〈このくらい たいした雪ではない。帯広に比べたら 全然へっちゃらだ〉

〈さて、シュウか。あと少し。もうすぐ再会の時だ。早く話してみたい。どんな風になっているんだろう。見た目は随分と大人になっていたけど〉



◆◆◆◆◆◆◆◆

そして遂に2/28 再会の日が訪れた。今日と明日は有給休暇をとってある。

前の晩は、殆ど眠れなかった。朝、トーストをかじってから、ベッドで本を読んでいると、知らぬ間に眠りに落ちていた。

夢をみた。一年前のナオキ君と偶然会った日の事。その日あった出来事がそのまま再現された夢。


今、思い出してみても、何故あんなに素直に受け入れたのかわからない。でもあの時は、彼と寝る事が、だんだん自然な事のように思えてきたのだった。そう、最初に会った日、彼が私に言ったように、それは私に取っての“儀式„であり、そうしなければならない事だった。

ホテルに着くなり彼の言う通り、自分で服を脱ぎ、ベッドへ横たわった。彼も裸になり、私に覆い被さった。彼はゆっくりと私の首筋に唇を這わせ、全身にキスをした。

ただ、最後まで唇にだけは触れなかった。

「唇にキスをすると、感情が入ってしまうんだ。感情が入ってしまうと、これは儀式ではなくなってしまう」

彼はそう呟いていた。

私の体は、最初に首筋にキスされた時にはもう、受け入れられる体勢になっていた。青の洞窟の映像が私の頭の中に映し出され、彼のものが入ってくると何度も絶頂を迎えた。絶頂を迎える度、私の頭の中の青の洞窟から白い光が放たれた。その光と共に、私の中の余分なものを捨て去っているような感覚だった。

私は私の中の余分なもの全てを捨て去るために、自分からも彼を求めた。今までしたことのないような体勢で、自分が自分とは思えないほど行為に集中した。

体力の限界まで行為を続けたあと、そのまま気を失ったように眠ってしまっていた。

眠りに落ちる間際、彼の声が聞こえた。

「これで儀式は終わった。もう君はあるべき姿に戻った。あとは素直に、これから起こる事全てを受け入れるだけだ」


目が覚めると、彼はもう居なくなっていた。不思議な体験だった。濃密に激しく絡みあっているのに、まるで瞑想しているような。快感で自分がおかしくなりそうなのに、頭の別の部分では、冷たい海の中に佇んでいるような冷静さもあった。

熱いシャワーを浴びてから、ホテルを出た。生まれ変わったような気分で、心も身体も軽かった。まんまるな月が優しく見守ってくれているようだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆

昼前に起きて、急いで出掛ける支度をした。大事にしまってあったシュシュを机の引き出しから出して、バックに入れた。シュシュは白い部分が少し黄ばんでいた。

バスと電車を乗り継いで、新宿へと向かった。

18時少し前、新宿駅に到着した。

そのまま約束の場所、カフェ  Promised Place へと向かった。



〈大丈夫。私はただ、ありのままを受け入れるだけだ〉





*この章からシュウとユキの章の順番を入れ替えました


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