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組織OSと新規事業

ここ数年、大企業もベンチャー投資を盛んに行うようになりました。コロナ禍になり、今後もベンチャー投資を続けるか否かは不透明でありますが、2000年のITバブルのころに比べれば、大企業のベンチャーに対する意識も変わってきたようにおもいます。

とはいえ、大企業のベンチャー投資は、伸縮を繰り返してきているのは事実です。ベンチャー企業が上場し高値がついているときは、ベンチャー投資が盛んになり、同時多発テロ9.11や、リーマンショックなどが起きると、一気に縮むというのを繰り返しています。今回も、どうなるのでしょう。過去20年の歴史を振り返ると、せっかくノウハウをためても、あきらめてしまい、担当した人材も離散するので、なかなか会社にノウハウとしてたまっているところは少ないようです。

さて、大企業の新事業に対する悩みはつきませんが、1)アイデアがない2)ノウハウがない3)人材がいない4)新規事業のマネジメント・システムがない5)組織文化やマネジメントのリーダーシップ不在。だいたいこんな話になります。1)、2)の話はよく聞きますが、アイデアは世界中に転がっていますし、ノウハウを持っている人も世界中に存在しています。大企業ならお金を払ってアイデアを見つけることも、ノウハウを持っているひとを探すことも可能です。しかし根深い問題は、3)、4)、5)です。

新規事業はそのものの事業価値を評価することが難しく、大企業の管理のやり方とは全く異なります。新規事業やコーポレートベンチャーの担当者も、経営管理や経理・財務から、ヤイヤイ言われると疲れてしまいますし、管理側も別に言いたくはありません。そのうちにめんどくさくなり、減損しちゃってスッキリするという流れになったりします。

会社というのは、長年かけて非常に効率的に運営されるようにできています。ただし、「現在行っている事業を遂行する上で効率的」にできているのであって、新しい事業を運営するのに、かならずしも効率的な組織でもマネジメントシステムではありません。新規事業を運営するのに効率的な人事・組織は、既存事業を運営するには、まったく向かないことが多いです。そして逆も同様です。

私は、なんでもITに例えてしまう傾向があるのですが、会社の組織風土を「組織OS」と呼んでいます。組織OSの上に乗っかっているのが「アプリ」の代わりに「事業」です。すなわち、既存事業をうまく運営するために組織OSは最適化されているのであり、新たな事業が入ってきたら、OSは異物感を感じるは当然です。

1990年代初頭にマイクロソフトが出したWindows3.1というソフトがありました。いまだに使っている人はいないでしょうが、これで動いていたアプリは、Windows3.1上で動くように最適化されていましたし、OSであるWindows3.1も、その上で動いているアプリを効率よく動かすためにチューニングされています。しかし!!!

Windows3.1の上で、Youtubeは動かないのです。

それどころか、Youtube なんかインストールしたらOSも、いままで動いていたアプリもぶっ壊れます。会社組織も、組織OSが旧来型のままで、新事業をやろうとしたら、組織OSも既存事業(既存アプリ)もぶっ壊れてハレーションを起こすのです。既存事業が強ければ強いほど、組織OSは既存事業に最適化されていますので、新規事業を作るのは大変です。

であれば、組織OSを大改革して大幅にアップデートしようという手もありますが、これは大変です。SE経験がある私としては、OSアップデート後のアプリの調整は至難の業で、うっかりやるものではないと感じます。コンピュータなら、「本当にアップデートしますか?」というメッセージがでてきます。会社なら、取締役会で、本当にこんな風に組織や人事を変えるの?という議論がなされます。さらにOSを大幅にアップデートする場合、もう一度、「本当にアップデートしますか?マジですか?」という感じでアラートがなります。それでボタンを押したら、最後、突き進むしかありません。でも、これは本当に大変なことなのです。

これらをうまくやった例として、ソニーがソニーミュージックの下で、新規事業を育成した例があげられます。現在のソニーミュージック傘下にも、昔に仕込まれた多数の新規事業が現在育っていると思いますが、古くはプレイステーションもソニーミュージック傘下で育てられたものです。今はわかりませんが、1980年代から1990年代初頭、組織OSがソニー本体とソニーミュージックでは違っていたのでしょう。このような組織OSが本体と全く異なるグループ企業がある場合は、その傘下でベンチャーや新規事業を育てるとが可能かもしれません。しかし、そうでない場合は、自社の組織OSを変えていくか、別途組織OSの異なる特別地区を作るかしなくてはなりません。これらをマネジするにも、とても強いリーダーシップを求められます。

みなさんの会社の経営者は、Youtubeを無理やりWindows3.1で動かそうとしてはいないですか? Windows3.1もYoutubeも、今まで動いていたアプリもぶっ壊れるかもしれません。そしてOSのアップデートは慎重に。

画像は、ドリームインキュベータの2019年11月18日キャピタル東急ホテルで行われたセミナー資料より抜粋しています。






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