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飲めや歌えやこの世の春を~カルミナ・ブラーナ

オルフの「カルミナ・ブラーナ」、そのO Fortunaについて以前書いたが、
今回はほかに3曲、ご紹介したい。
 
↓前回↓

※日本語訳は英訳などを参考にしています


①Were diu werlt alle min(たとえこの世界がみな)

ファンファーレが高らかに鳴り響き、金管楽器がキラキラ輝く曲。
最初から最後まで堂々と景気よく歌い上げ、なんだか祝祭的な雰囲気にあふれている。
王宮でハレの日に演奏してもよさそうなくらいだが、
歌詞の内容はとても王侯貴族にお聞かせできるものではない(汗)
特に英国女王には……

Were diu werlt alle min
von dem mere unze an den Rin.
des wolt ih mih darben,
daz diu chunegin von Engellant
lege an minen armen.
 
「たとえこの世界が海からライン川までみんな私のものだとして
そんなもの捨て去ろう
イングランドの女王様がこの私の腕にお休みくださるならば!」

Were diu werlt alle min

いやそもそも世界はお前のものじゃねえからなwwww
女王様とどっちか、じゃねんだわ
ずうずうしいことこの上ない。
昔からヤバい妄想してるヤツはいたんだな!
 
このしょうもない、しかしその心意気だけは買いたい、
いややっぱしょーーーもない内容の詩に、
こんな絢爛豪華なミュージックがついてしまった。
詩の作者に聞かせてどう思うかインタビューしたいところ。
 
(※ところが、である。
永野藤夫訳『全訳 カルミナ・ブラーナ』では、
「海からライン河まで
全世界が妾のものになるなら
あきらめてもいいわ
イギリスの王様を
この腕に抱くのをね」(p.211)
と、内容が色んな意味で逆であり、
「リチャード獅子心王びいきの乙女の作か」と注がある。(p.391)
オリジナルから変えられているのはオルフが書き直しているのか?)
 
1分に満たない短い曲でアンコール向き。
私が参加したカルミナ・ブラーナでも、アンコールはこの曲で最高に盛り上がった。
 
↓ドイツの合唱団。母語だからか、聞いた中で一番ハイテンションだった↓

②Olim lacus colueram(むかしは湖に住んでいた)

丸焼きにされた鳥の嘆きが歌になった。冗談ではなく本当に。
「昔は湖に住んでいたのに、美しい姿だったのに!」
テナーが甲高い声で、苦しげに、いかにも哀れっぽく歌う。
 
Miser, miser! の部分は鳥をまさに食わんとしている腹ペコ野郎どもが歌うので、まあまあ悪趣味(笑)
「かわいそうに、こんな真っ黒こげになっちまって!(いまオレたちがおいしく食ってやるからな!)」
鳥の無念と、ごちそうを目の前にした人間の興奮が交錯するレアな楽曲である。
 
鳥=独唱のテナーは絞め殺されんばかりの声で歌っている場合も(※既に死んでいます)。
ノリノリでやっている方が多く、とても面白い。
テナーが芸の幅を見せるのに打ってつけの曲かもしれない。
人間=合唱も悪ノリしていた方がいい気がする。
それが鳥の丸焼きに対する、もはや「礼儀」ではなかろうか。
 
↓小芝居つきで楽しい↓

③In taberna quando sumus(酒場にオレたちがいるときにゃ)

お酒大好き!!のみなさんにぴったりの歌。
男声合唱で、これも野卑な雰囲気をにじませて歌ってほしい。
 
曲はやや不穏な雰囲気で始まるも、飲もうぜ飲もうぜの空気が充満し、
酒が進んだみなさんは陽気に浮かれだす。
ぶんちゃ♪ぶんちゃ♪
ってなっちゃうところ、こんなんアリか、と当惑する無邪気さである。
 
宴はどんどん盛り上がる。
Bibit...「~も飲む、~も飲む、…」
音楽はどんどんクレッシェンド。
もうみーんな飲む。貧乏人も、病人も、坊さんも尼さんも飲む。誰もかれも飲む。
Bibunt centum, bibunt mille.
「百人が飲み、千人が飲むんだ」

 
最後は「オレたちの悪口を言うやつらは地獄へ落ちてしまえ!」と怪気炎をあげ、
Io! Io! Io! と9回の雄叫びでフィニッシュ。
威勢がよくて結構なことである。
 
私は飲まないが、お酒が好きな人は、この中世の酔っ払いどもと良い酒が飲めるんじゃないかな、と勝手に思ってしまう。
 
この曲が第2部In Taberna「酒場で」の締めであるため、Io!の後には観客も拍手喝采でともに盛り上がれるのもよいところ。
 
↓うちにあるCDのがあった たぶん公式↓

 

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