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運命の女神が回す車輪の上で~カルミナ・ブラーナ

クラシックに造詣が深いわけでもなんでもないが、私が知っている中で特別「やりすぎ」なクラシック音楽を紹介したい。
 
カール・オルフ「カルミナ・ブラーナ」。
冒頭の(そして実は最後の)曲が一番有名。
曲名は知らなくてもどこかで聞いたことがある、という人が多いだろう。
映画やドラマで多く使用されてきた。使いたくなる気持ちは聞けばわかる。
とりあえずその超メジャーな1曲目 O Fortuna「おお、運命の女神よ」をお聞きください。
 
↓一番最初だからすぐだよ↓

 
 ……ね。やりすぎでしょ。
過剰なんだよね、いい意味で。
 
ずっと鳴っている、歯車の回る音。
Fortunaは運命。運命の女神が車輪を回す。
Wheel of Fortune、運命の車輪。
 
歌詞はラテン語。元は12~13世紀に書かれたとおぼしき世俗的な詩で、修道院で見つかった古い写本からとられている。
 
O Fortuna,
velut Luna
statu variabilis,
...
おお、運の女神よ、
まるで月とそっくりに、
いつも姿態が変わりやすく、

 
Sors immanis
et inanis,
rota tu volubilis,
status malus,
...
恐ろしく非情な、しかも
何の実もない(空しい)運よ、
お前はぐるぐる廻る車輪みたいに、
怪しからん、悪性のものだ、

 
quod per sortem
sternit fortem,
mecum omnes plangite!
時運によって
強い者までとり挫いた、
それを私と一緒に皆さんも嘆いて下さい! 
  (シカゴ交響楽団1984年のCDの歌詞カードより)
 
 
Googleで “wheel of fortune middle ages”と入れて検索すると、
中世における運命観が絵で確認できる。
(“wheel of fortune”だけで検索するとアメリカの同名クイズ番組の画像が並びます)

中世の想像力!

運命の輪を回す、気まぐれな女神。
今日頂点に立った者にも、凋落と破滅の明日が待ち受けている。
 
私は学部の2年次に4000 wordsのレポートをwheel of fortuneのテーマで書いたが、もうすっかり忘れてしまった。
そのテーマを選んだのはCarmina Buranaが好きだったからで、
なんで好きなのかというと、児童合唱で参加したことがあったからだ。
カルミナ・ブラーナには2曲、児童合唱が入る曲があり、それを私たちは歌った。
フィナーレ、最後の音が消えるやいなや、観客席からBravo!!の声、口笛が、喝采の中響いてきたのには驚いた。
でも、この曲をその場で聞いたら、みなBravo!と叫びたくなるんじゃないかな。
 
1曲目だけでも色んな演奏をYoutubeでハシゴして一日楽しめます。
※聞くときは音量にご注意を。しょっぱながめちゃくちゃでかいです。すぐ小さくなりますがまたドカンと来ます。
 
↓色々な意味でやりすぎていて面白い 
あとティンパニの位置が史上最高にど真ん中でよい

もし1日だけ指揮の能力とオーケストラと合唱団が与えられたら、
私なら「カルミナ・ブラーナ」を振らせてほしい。
これの指揮はもんのすごく楽しいに違いない。
ティンパニもいいな、主役感がすごい。シンバル、銅鑼……打楽器大興奮。
いや、どのパートでも最高に楽しいはず。合唱はフォルテばかりで苦しそうだが……
 
↓指揮者がめちゃくちゃ楽しそう 音楽への愛がダイレクトに伝わる↓

1曲目のO Fortunaが運命の女神とその輪にあてた歌であるため、
最後に同曲に戻ってくる。「輪」が完成する。
誰もこの「サイクル」から逃れられないまま、全曲が閉じる。
 
もしお暇であれば、最後から2番目のAve formosissimaから聞いてほしい。
 美の極致なる至高の乙女、
 光に満ちた世界、
 歓喜の頂点に登りつめる、
 恍惚感が最高潮に高まったその瞬間に、
運命の歯車が回る。

この展開を思いついたオルフは天才……!!
 
最後の曲ともなると奏者全員が正気を失いかけているのか、
制御しきれず空中分解しているケースも見受けられる。
テンポの変化が大きいため、暴走し、崩壊してしまう危険のある曲である。
それをギリギリのところで抑えて、パワーを爆発させながらもどこかで冷静さを保たなければならない。
そのせめぎあいから生まれる緊張感こそが、この曲の聴きどころかもしれない。
 
O Fortuna!
いったいこの運命への怨嗟は何によるものなのか。
案外、賭け事で有り金全部すってしまったとか、
そんなことなんじゃないかという気もする。(※適当ふいています)
仮にそんなことだとすると、やはりO Fortunaは「やりすぎ」であって、その「やりすぎ」感が最高によい。

合唱が最後の音を最大火力で伸ばしはじめた瞬間からオケは劇的に加速し、
 絶望の中に歓喜がある、
 もうヤケクソといっていい感情の横溢、
 あ、カタルシスってこれだ、という圧倒的な解放感、
 音がそのまま力である、そんな次元に達する。
 
 
全曲はだいたい1時間ちょいで、他には
・英国女王を抱けるなら世界なんかいらない
・食卓にあげられる白鳥の嘆き
・酒場で飲めや歌えやの大騒ぎ
・うおおおおおお恋が! したい!!

てな感じの歌が並んでおります。(↑タイトルじゃないよ)
またいずれご紹介したい。
 
 
しかし楽譜にはテンポとかなんて書いてあるんだろう。
みんな驚くほど違うんですけど。音を伸ばす長さとかも全然違うんですけど。
オルフは20世紀の音楽家なんで、細かい指定を伝えようとしていたら現存しているはずだよな。
「ここはお前のパッションしだいだ……!」とかだったら熱い。
 


↓アイスダンスのアニシナ・ペーゼラ組による伝説的な「カルミナ・ブラーナ」  世界観を完璧に表出した名プログラム↓

 

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