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アタゴオルには「性」と「死」がない、かもしれない

ますむらひろしとの出会いは、アニメ映画『銀河鉄道の夜』だった気がします。
あれ好きなんです。サントラ買ったくらい。

『アタゴオル物語』は親の本棚に入っていて、そこに高校のころ私が買った『アタゴオル玉手箱』が加わりました。
 
「アタゴオル……〝力〟ではたどり着くことのできない世界。」

この猫がヒデヨシ 

なんだかわからないけど好きなんです。
旅行したい・住みたいファンタジー世界を選べって言われたら、アタゴオルにする。
 
今回久しぶりに『アタゴオル物語』を読み返してみたのは、
アタゴオルには「性」と「死」がないのでは?
と突然思ったので。
 
結論を言うと、「死」は一応あるようでした。
しかし「性」はきわめて希薄で、「死」もリアルに主要キャラに迫ってくる気配はない。
ヒデヨシ(猫)、テンプラ(人間の少年)はじめアタゴオルの住人はみんな楽しく日々を過ごす。

植物でできた船に乗って大冒険。
豆のさやに乗って空を飛ぶ。
雪待ち草の酒を飲んで、月に体を映す……
 
「死」をもたらす「暴力」が無効化される世界。
 

↑↑この4巻に入っている「水晶散歩」の雰囲気が好き。シリーズ中では異色作なんですが(持っているのとバージョン違うので中身違ったらごめんなさい)
 
読み返すと、意外や意外、最初の方はけっこうダークな要素があるんですね。
第1話は、タバコ屋のおやじが影切り森で影を切られて死んだ、という話題から始まる。
第2話では海賊船とドンパチやるし、
シリーズ一のイケメン猫・ギルバルス(本当にかっこいいけどちょっとしか出てこない)は敵の首に剣を突き刺して殺したりする。
ヒデヨシはトランプで負けて両耳をハサミでちょん切られてしまう!
「冬のサーカス団」もけっこうホラーです。
 
でもその辺りを過ぎると、あとはいたってのんきなもの。
ヒデヨシたちは音楽を奏で、おいしいものを食べ、星空を鑑賞し、
ネズミトランプで遊び、星ミカンのたわわになる島へ船で向かいます。
特に物語が「進展」することはなく、アタゴオルの住人たちの日々が描かれる。
まさに「循環的な時間」が流れているんですね。
 
テンプラ、タクマといった人間の少年たちと、ヒデヨシ、パンツら二足歩行の猫たちが出てきますが、彼らはまるで年をとっていく感じがしない。(そもそも何歳なのか?)
女性は人間のフーコちゃんくらいしか『アタゴオル物語』には姿が見えず(椿ちゃんは寝ている姿だけ)、
母親の存在は全く感じられない。(パンツの父親がチラッと出てきます)
 
労働といえば様々なお店屋さんや施設がありますが、
どこにも競争らしいものが見えず、みなただただのんびり、暮らしている。
(カタツムリ社という出版社はヒデヨシの著書を出したせいでつぶれたらしいが……) 
少年少女は学校に行かないうえ、お酒を飲んで煙草を吸っている。
人生の楽しいところだけを抽出したような(笑)
 
ヒデヨシはしょっちゅう盗み・かっぱらい・詐欺をやっているようですが(それでもなぜか愛される)、
たぶん法律も牢屋もないアタゴオル世界では、仲間内で注意されるのがせいぜいです。
「欠食ドラネコ団」なるギャングも出てきますが、かわいいもんです。
深刻な犯罪がそもそも存在しえないかのような世界。
(初期に親を殺された人物がひとり出てきますが、かなり昔の話っぽい)
ここはきっと、みんなが満ち足りて暮らせる世界なんですね。
 
文字はあるし、本(葉っぱ製)もあるし、通貨、地図や暦もあるようなんですが、
・家族関係(特に、母子関係)
・恋愛
・農耕

これらがほぼ見当たらない。
人を家や土地に縛りつけるものがないし、痴情のもつれもないんですね。
だから争いがないのかもしれない。
 
「アタゴオル」ってもしかして、エデンの園なんじゃないか。
木の実をとって暮らす人と猫たち。
そこにある世界を、そのまま享受する。
「性」と「死」がない、
ひたすら豊かな「生」だけがあるエデンの園……
 

まるで永遠の夏休みのような世界、アタゴオル。
あなたも遊びに行ってみませんか。
 
 
『アタゴオル物語』はこちらの①~④↓↓

↑↑ダークさがほとんどない『アタゴオル玉手箱』は⑤~⑧、かな?
 
絵の雰囲気は①と④で全く違い、④と⑤の間はさらに違います(笑)
私は④~⑥あたりが好きかなあ(幅広い)。
改めて読むと、でも『アタゴオル物語』の雰囲気がめちゃくちゃいいんだよなあ。
 
 
続いて『アタゴオル玉手箱』も読もうとしたら4巻だけないんだけど4巻どこいったん?

しかしまだAmazonに在庫があるらしい どーしよ

↑↑『月に吠えらんねえ』に『アタゴオル』みを感じる 特に序盤
車掌さんもいるしね

ますむらひろしのライフワーク『銀河鉄道の夜』についてのインタビュー↓↓

 


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