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クリスマスのよきおとずれを Once in Royal David’s City


クリスマスが近づいてくると聞きたくなる曲がある。
"Once in Royal David's City"


9つの朗読とキャロルの祭典

世界各地の教会で、クリスマスになると賛美歌と聖書朗読の夕べが持たれる。
Festival of Nine Lessons and Carols。
中でも世界的に有名なのがKing’s College Choirによるもの。
 
"Once in Royal David's City"を歌いながら聖歌隊が入場するのが伝統。
壮麗な礼拝堂とそこに響く天使の歌声……
 
まずはこちらをご覧ください。
背景から何から、全てが完璧に美しい。
この世で最も麗しいクリスマスの迎え方は誰がなんといってもこれだと思う。

 

起きよ、光をはなて

BBCを通じて世界中に配信される第一声のソロが、実はすごい。
ソロを歌う少年は、なんと当日、歌いだしの数秒前に指名されるのだ。
 
指揮者がその日最も声の状態のよい子をスッ、と指さす。
彼は一人、前に進み出る。そして、歌いだす。
 
100年の伝統。
ラジオを通じて聞く世界3億7千万人以上と言われる聴衆。
静寂を破り、一人、歌いだす。
 
指揮者がソロを指名するシーンの動画がこちら。

3:00あたりが運命の瞬間。1:25辺りから見ると、状況がよくわかる。
年かな、こういうのを見ると涙が出てしまう。

第一声のソロを歌うのがほかならぬ自分だと、歌いだす数秒前に知らされるのはどんな気持ちなのか。
ソロ経験者が語ってくれている動画がBBCにあった。

成長した彼と、12歳のソリストの彼。やっぱり涙が出てしまう。

東京、2003年

私が大学の聖歌隊でこの曲を歌ったのは、もう20年前のこと。
今思えば、あのクリスマスコンサートは、私たちなりのNine lessons and carolsだった。聖書朗読もあった。
大学の授業はさぼっても、練習とミサだけは意地でも出ていた、
聖歌隊のために大学に行っていたような日々で、
めちゃくちゃだったけど、自分がやりたい、私にやらせてほしい、
って必死でやっていた。
 
歌詞もどこまでも優しい。
昔話的な1番も甘やかでよいが、ここでは4番だけご覧いただきたい。

 For He is our child-hood's pattern,
Day by day like us He grew,
He was little, weak, and helpless,
Tears and smiles like us He knew,
And He feeleth for our sadness,
And He shareth in our gladness.
 
キリストは私たちと同じように
少しずつ成長してゆかれました
小さく、弱くなってくださり
私たちと同じように泣き、笑いなさいました
だからキリストは私たちとともに悲しみ
私たちとともに喜んでくださるのです

これは私が大学生のときにコンサートのパンフレット掲載用として訳したもの。日本語もパッ見の分量をそろえたので原文に忠実とは言えないが、雰囲気は出せたと自負している。
 
クリスマスというイベントが地域と時代を超えて愛されるのは(しばしばその本質は見失われ、または覆い隠されてしまうものの)、この幼児としてのイエスの「愛らしさ」「いとけなさ」のためではないだろうか。
 

King’s College, 1992

1992年のKing’s College Choirによるプログラム全体はこちら。(後半はドキュメンタリー番組)
間の聖書朗読(nine lessons)も含め、味わい深い。
映像を見る目がある人は別の視点で楽しめるかもしれない。

私が好きなのは
・17:30~ In dulci jubilo
・28:08~ Es ist ein Ros entsprungen
・35:10~ Joys Seven
・1:00:20~  Hodie Christus natus est
 

会衆も立って一緒に歌っているときがある。
そう、これはただの「コンサート」ではないのだ。
会衆が入ると歌は鈍くなるが、そこに一種の妙味もあり、
芸術のための芸術ではない、これは目的のある音楽……
ともにクリスマスのよきおとずれを、祝うとき……

ああ、いつか私もこの会衆の一人になれたなら。
 

(↓復活祭もある↓)


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