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「聖闘士星矢」のジャンプコミックスと文庫版はどう違うのか?~セリフ変更、その傾向と対策~


↑の続き。
結論から言うと、内容に大差はない。そりゃそうだ。
しかし、セリフの削除・改変はちょこちょこあり、かなり有名なセリフにもさりげなく手が入っていたりする。推しが発したかもしれぬ一言一句を余さず心に刻みたい人にとっては気になるポイントがわんさかある。
 
多いのはなくても伝わる説明のカットだが、「なくても伝わる」=「なくてもよい」ではない。細かいセリフの積み重ねが、キャラクターを作る。作品の雰囲気を作る。「神は細部に宿る」のだ。
 
非常に細かい記号部分の変更も、一見内容にはかかわらないようだが、「!」「…」「~~~」が醸し出す雰囲気があるのも事実で、ジャンプコミックス(以下JC)の方がより「熱血」な感じ。文庫版は大人っぽい落ち着いた感じ。…と言えるかもしれない。
 
絵の修正については、現在のところ、明白なものを1か所だけ発見。私の眼は節穴なので、見る目のある人ならもっと色々見つけられるのかもしれない。しかし時間を置いてから違和感を出さずに絵を直すのは極めて難しい、ということがその1か所だけからも察せられた。絵って勢いなんだなあ。
 
※以下、車田正美「聖闘士星矢」のネタバレ。というかどストレートなセリフ比較。未読の人には一つも面白くないでしょう。
※差異を網羅してはいません。代表例だけ。
※1巻と、ムウ様・わが師カミュの登場される場面を中心に見ました(自分の欲望に忠実)。
どちらの方がよいか、は個人の好みとしか言いようがない。以下は私の好みで書いてあるだけ。
※JC→文庫版。JCの方のみ巻数を記載

ドン引きするほど付箋が貼ってあるがこれでも全部に貼ってるわけではない…

・説明カット

絵と文脈の力によって、かなりの説明が省略可である。文庫版はややサイズが小さいため、「カットできるところはカットしたい」という編集サイドの気持ちが見える。

例)JC①教皇
「勝者には栄誉ある聖闘士の証であるこの聖衣をあたえよう!!」
→「勝者にはこの聖衣をあたえよう!!」

上手にカットしてすっきりさせた例。直後に雑兵も「まさしく聖闘士の証し……」とつぶやいているので問題なく通じる。
 
例)JC⑪カミュ
「このままではわたしたちの間でくすぶっている凍気がすべておまえにおそいかかりおまえの体は粉々にうちくだかれるぞ!」
→「このままでは間でくすぶっている凍気がすべておまえにおそいかかり体は粉々にうちくだかれるぞ!」

文庫版のセリフで十分伝わる。しかしテンパり度はJCの方が断然上。あわててまくし立てるわが師カミュが愛しくてならない……
 
例)JC⑲那智
お体には別条ないそうだがなんといってもポセイドンとの一戦で疲労困憊のご様子」
→「なんといってもポセイドンとの一戦で疲労困憊のご様子……」

削ったら舌足らずになってしまった例。筋に影響はないが、比べてみるとJCの方が前後のセリフのつながりが自然。
 

・語尾の変更

語尾にはキャラクターの味が出る。「神は細部に宿る」派には見逃せない部分だ。
 
例)JC③瞬
「しょせんは悪の衣をまとっているにすぎん
→「しょせんは悪の衣をまとっているにすぎない…

硬派な瞬が見られるのはJCの最初だけ!! 初期の瞬のセリフはあちこち直されており(「しかし」→「でも」なんて細かい修正も)、キャラ成立の過程が見えるようでおもしろい。
 
例)JC⑩一輝
「その答えはおまえがオレにおしえてくれたのだぜ!
 →「その答えはおまえがオレにおしえてくれたのだ!

「ぜ」ええやんか……なして消してしもたん?? カッコつけすぎておもろくなってしもてるから? ええやんそれが一輝やん
 
例)JC⑩ミロ
「さあ こたえたまえ 降伏か死か…」
 →「さあ こたえ 降伏か死か…」

 キャラが微妙に定まっていなかったのだろうが、「たまえ」のちょっと賢そう(失礼)かつ居丈高な感じも捨てがたい。
 
例)JC㉑ミロ
「直ちにこのオレが片付けてくれるわっ
→「「直ちにこのオレが片付けてくれる!!
 
これも古風すぎると判断されたのだろうか。えもいわれぬ風情があるので好きなんですけどね……

・その他セリフの改造

例)JC①魔鈴
バーカ ここにきて三年もたつのにまだこんな石ひとつわれないの」
→「おまえ三年もたつのにまだこんな石ひとつわれないの」

 もったいなくない!?「バーカ」って魔鈴さんに言われたい人めっちゃいるでしょ!
 
例)JC②貴鬼
「龍が天に翔けのぼるときにはっするという燐気をはっするとは…」
→「龍が天に翔けのぼるときはなつという燐気をはっするとは…」

 妥当な変更。「はっする」を2連続で使うのを避けたんだな。
 
例)JC⑲デスマスク
マンモス憐れなヤツ!!」
 →「宇宙的に憐れなヤツ!!」

 この改変はもっとも有名かもしれない。それだけ衝撃だった。同じコマ内の「P!」「P!」も白塗りでなかったことにされており、でっちゃんの謎ののりピー推しが好きな人には痛恨の極みだろう。当時の世相を知る機会も失われてしまった。(んな大げさな)
デスマスクはこの一連のシーンで他にも何か所も台詞を削られており、余計なことばっか言ってたんだな……と笑ってしまう。しかしその余計な一言が彼の愛すべきキャラクターを作り上げているのではないだろうか。例えばもう一つ
例)JC⑲デスマスク
「ならば望み通り殺してくれるわ!!」
→「ならば殺してくれるわ!!」

これなど、「望み通り」があるとないでは印象が全然違う。妙にあっさりになっているような。それとも私だけ?
 
例)JC㉒シオン
「うろたえるな小僧―――!!
→「うろたえるな小僧ども!!

 おっとこんな有名な技(じゃない)に修正が! 確かに小僧は複数いたので「ども」が適切ではある。シオンのこのセリフをどっちで覚えているかで文庫版か単行本か、「出自」がわかりそうだ。
 

・「フッ」の削除 

割と印象を左右する。もっとみんな「フッ」って言いまくってる気がしたが、文庫版はちょくちょく削っている。誰の「フッ」がいくつ消えたか。その調査だけで立派な自由研究になるだろう。

例)JC⑳ムウ
フッ よく見ろパピヨン」
→「よく見ろパピヨン」
 

・言い淀みや繰り返しのカット 

例)JC⑲ムウ
「あ…ああ…あ…バカな おまえたちまで おまえたちまでハーデスの誘惑に負けアテナを殺しにきたというのか!!」
 →「あ…ああ… おまえたちまで! ハーデスの誘惑に負けアテナを殺しにきたというのか!!」

「おまえたちまで」を2つの吹き出しにまたがって繰り返すことでムウ様の内心の動揺を伝えていたのだが……舞台でやるならここは削らない気がする。舞台でやらないんだけど。でも聖闘士星矢って全体に演劇的な雰囲気ありませんか。
 
例)JC㉒ラダマンティス
…も…申し訳ありません…」
→「申し訳ありません…」
そっ…それに未だ楽観はなりません」
→「それに未だ楽観はなりません」

同じページ内で2か所連続、言い淀みのカットをしている。パンドラのお仕置きを恐れるラダマンティスの焦燥感および不憫度が体感4割くらい減った。
 

・「!」「…」「~~~」の削除(・追加)

この手の修正がめちゃくちゃ多い。「!!」の多用によりJCの方が全体に熱い空気。また、「…」の有無で間合いが変わることも。

例)JC①魔鈴
「ケツが青いから…さ」
→「ケツが青いからさ」

元の「…」バージョンにはいい感じの「けれんみ」がある。中学2年生に投票してもらったらJCの方に軍配が上がりそうな気がするがどうだろう。

・設定のブレ?関連

例)JC①「世界中におよそ100人以上はいるといわれる聖闘士の…」
→「世界各地にいるとされる聖闘士の…」
同じ話の中で「全部で八十八ある星座」との記述あり。ダブルブッキングが発生してしまう。
 
例)JC③「われら青銅聖衣と魔の暗黒聖衣との死闘がはじまる!!」
 →「われら青銅聖闘士と魔の暗黒聖闘士との死闘がはじまる!!」
 初期は「〇〇聖衣(クロス)」が「〇〇聖闘士(セイント)」の意味までカバーしていた。一種の「換喩」だろうか。「霞が関」→「日本政府」みたいな。後に人間を指す際は「〇〇聖闘士(セイント)」に統一。
 

・誤植、校正ミス関連

例)JC⑩170ページ「あれほど軽(かる)んじていた」
         →「あれほど軽(かろ)んじていた」
例)JC㉑171ページ「ギャラクシャンエクスプロージョン」
         →「ギャラクシアンエクスプロージョン」

・絵の修正

例)JC㉑115ページ ムウの顔修正(あご部分)
元の絵の不自然さに小学生の私は気づいてすらいなかったかもしれない……こうして比べてようやく見つけた。私の目は節穴です。
 
 
……まだJC28巻中、3分の1もチェックできてない。さらに、上記はそこで上がってきた差異のほんの一部でしかない。私は絵を見る目がないため文字部分しか見比べていないが、それでもけっこう時間がかかる。
 
しかしやり始めると止まらないのも確かだ。進めば進むほどあれこれ見つかる。たのしー!! 
 
あとみんなやっぱし美形すぎる。車田先生の絵はマジで激強なので、キャラはみんなページから立ち上がってくるレベルでこちらに迫ってくる。そんなのをJCと文庫、並べちゃうんだからたいへんなことに。「瞬まじ可憐すぎ」「紫龍わかくてきれいやな…」「わが師の美少女戦士っぷりときたらもう」「ムウ様の色気やばい」「ミロかっこよすぎてギリシャ彫刻やん」「ここの星矢驚くほど主人公ぽいな」「でっちゃんイキイキしすぎ爆笑」など一人でつぶやきながら楽しく作業しました。
 
また何か「これ! 見て!」が出てきたら書くかもしれませんが、現状キリがないためこのへんで。(まとまってねえな)
 


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