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読書記録⑯バラよいのちでさんざめけ『ブルーローズは眠らない』

『ブルーローズは眠らない』市川優人 著 

ミステリは文学の一部分でもありますが、わたしはもはや独立した部門なのではないかと考えるときがあります。ミステリ文学には精緻さが求められます。トリック、舞台設定、キャラクター、叙述…それらすべてが整合性をもち、なおかつ魅力的でなければなりません。文学全般がそうではないとは思いませんが、ミステリはその中でも特に、「組み上げられる」ものであると思います。

例えば純文学がすぐれた彫刻作品であるとするならば、ミステリはどこまでも精緻に創られた時計のようなものでしょう。詩歌が自然物や出来事に対して抒情を詠みあげる行為であるならば、ミステリはどこまでも美を追い求めバラを品種改良していく行為と言えるのではないでしょうか。作中の青いバラのように。

ミステリの美しさは「結果」の美しさであると思います。歯車よりも歯車を組み合わせて精密機械を創りあげた末に生じたものだと。純文学や詩歌は、示唆に富んだ絵画のように一つのメッセージと読み手ごとの物語を創出するものです。しかし、ミステリは誰の目にも明らかなシステムや合理性を生み出す必要があります。それは科学にも近い行いであり、そしてまた科学技術が時に誰の目にも美しく見える現象と通じているのはないかと思います。

前置き長っ!ミステリ作品は好きなのでこれからも多く登場させるつもりです。今回ご紹介する市川優人さんの他では綾辻行人さんや恩田陸さんを中心に読んでいます。海外の方は有名なのをまちまち。要するにミーハーなのです。

市川さんの作品には『ジェリーフィッシュは凍らない』で初めて出会いました。綾辻行人さんの「『そして誰もいなくなった』への挑戦であると同時に『十角館の殺人』への挑戦であるという(以下略)」なんてコメントみたら買うに決まっています。そして面白かった。

ジェリーフィッシュをミステリ好きの友達に貸したらえらく喜んでいたので、市川優人の既刊二冊をプレゼント。最近ひまな私があげた本を借りて読んだのがブルーローズ。こちらも大変面白かったです。仕掛けも盛りだくさんでしたし、叙述のクオリティも高い。目が離せない作家さんです。

長い前置きの部分でも書きましたが、青いバラはぼくにとってのミステリ作品の象徴のようにも思えました。精妙な技術で生み出される人工的芸術。

ちなみに青いバラは作中では存在しなかったものが開発されたことになっていますが、現実でも同じ過程を辿って、2004年に開発されたそうです。その際に花言葉は「不可能」から「夢かなう」になったんだとか。ひえーすてき。でもわたしは「不可能」の方が良かったと思います。だってミステリ的でしょ?

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