2024 J1 第8節 ガンバ大阪 × サガン鳥栖 レビュー

レビュー

 ここまで3試合連続無得点と、フィニッシュの課題に直面している連戦のガンバ。得点力アップに向けどのような施策を打ってきたのか。

 この試合興味深いのは配置だった。前節右WGで効果的な動きを見せていた唐山がベンチスタートとなり、左WGに入っていたウェルトンが右WGに。代わって左WGに入ったのは倉田。加えてボランチの左右位置についても、右が鈴木徳真、左がダワンとなっていた。ウェルトンはこれまで、スターターであれば左WGでの起用が多かったため、少し意外だった。しかし試合を観ていくと、サイドをどういう風に攻略していきたいのかをはっきりさせるための配置だったのかと感じている。

 右サイドの攻略を担うのは、ウェルトン・福岡・鈴木徳真の3人。多かった形としては、ウェルトンがSBを引き連れて内側に入り、大外で福岡が受けて崩しのシークエンスに入る形。前節「ポケットに入ってくる3列目が少ない」と述べたが、この試合の鈴木徳真はウェルトン・福岡とのコンビネーションの中でポケットを狙いにくる動きを何度か見せていた。


(チームではポケットじゃなくてカホーンと呼んでいるらしいぞ)


 一方の左サイドは、倉田・坂本・黒川の3人。主に坂本がポストプレーヤーとなり、間で受けてレイオフ、といった形を使いながら、こちらも相手のブロックをまず内側に寄せて、そこからサイドバックの飛び出しを狙う形。長くガンバを見てきた者であれば、既視感のある攻撃だろう。

 これに加えて、宇佐美がボールサイドのサポートに出てプラスワンを作り、フリーで引き取るポイントを作り高精度のパスを供給する、という、アクセントとノッキング対策を兼ねたような味付けもあった。

 左右どちらもサイドバックが大外の高い位置でボールを受けることを起点とする攻撃だが、違いがあるとすればSBにボールが届いた後に何をするか。右サイドの場合は福岡に付ける→崩す→クロスという形でひと呼吸挟むのに対して、左サイドは黒川が飛び出す→クロスとよりダイレクトに攻める志向。既に履修済みの左サイドと比べると、右サイドのローテーションは今節初めての組み合わせだったことや鳥栖がサイドハーフの戻りも含めてしっかり人数を合わせてきたこともあってか崩せたシーンは少なかった。

 ガンバは、CB経由のU字パスで鳥栖のブロックを押し込み左右に揺さぶりながらサイドの崩しへ移行していた。左右をちらつかせながらも、スペースへの警戒が甘くなったと見るや縦パスからのワンツーで中央を崩しにいく形もあった。鳥栖は、アタッキングサードまで運ばれることは受け入れつつ、最後のところではやらせない、という形の守備になっていた。

 一方の鳥栖。ボールを奪えればマルセロ・ヒアンや富樫敬真を起点としたロングカウンターを狙っていた。富樫を右サイドで起用したことはフィニッシュ局面における黒川とのミスマッチを狙ったものかと考えていたが、富樫がフィニッシャーになるシーンは少なく、むしろ右の富樫をターゲットに前進して左でフィニッシュする形が多かった。鳥栖の左サイドは32番の堺屋がインサイドのレーンに入って88番の長沼が大外を見る形が多かった。大外からプレーできるスペースを見つけて入り、フィニッシャーへ移行する、右で作って左で刺すという構成は、昨シーズン10得点とブレイクした長沼の攻撃力を最大に活かす意図があったかもしれない。

 いずれにせよ、鳥栖は20分過ぎごろから河原が2トップの右の脇(ガンバでいう倉田サイド)に降りてボールを引き取る形が増えていった。この移動によって起きる鳥栖の右偏重に合わせるガンバのアプローチが一歩遅れる→レイオフ→奥に走る3人目を使う、という形で鳥栖は右サイドから前進できるようになっていった。

 札幌戦、マリノス戦、鳥栖戦と、ハマっていれば問題にならないが、相手の変化で少しずつプレスがズレることで時間を与えてしまい、サイドから失点するシーンが続いている。ここはチームとしても修正点と感じているところだろう。今節も先制されてしまい、鳥栖のプレスも勢いを増すなか、前半のうちにセットプレーから追いつくことができたのは僥倖だった。




 鳥栖のキックオフから始まった後半。後半開始直後の鳥栖は高い位置からのプレッシングも果敢に狙ってきていた。サイドハーフへのロングボールからハイプレスへの移行、GKも含めながら保持からの前進など、鳥栖が狙いたかったであろう形で前進、チャンスメイクの形がみられた。受けからのカウンターをメインに据えていた前半の鳥栖からのチェンジ・オブ・ペースに対して受けに回るガンバ。

 流れを一変させたのは坂本のポストプレーだった。左のハーフスペースに顔を出しSB・ボランチの2人を引き付けて横断。倉田がキム・テヒョンを引き付けることで瞬間的に生まれたDFラインのギャップに抜け出したウェルトンにスルーパスを送る。たまらず後ろから倒してしまった堺屋がDOGSOで退場。堺屋から見れば、ラインの高さ的にはウェルトンに間に合う計算だったはずだが、ボールの着地点から見た円で見ると間に合わない。ギャップを見出して完璧な位置に落とした坂本のパスが見事だった。

 以降、数的優位によって一方的にガンバのペースとなる。注目したいのは交代選手。サイドの交代一番手として出てきたのは唐山だった。前節スタメンだったことを踏まえると、これまでサブの一番手だった食野と比較して序列を上げてきたことが伺える起用となった。

 唐山は、右WGに求められていそうな大外に張って相手のDFを外に釣りだす動きからサイド攻略の起点となっていた。人数が少なくなり、中央で固めて守り切る意思を見せていた鳥栖のブロックを外に引っ張ってスペースを作ってから内側を攻略するタスクを従順にこなしていた。結果オフサイドにはなったが、ポケット攻略に名乗りを上げた鈴木徳真との絡みで坂本のゴール未遂を演出した。怪我から復帰した岸本が福岡に代わって右SBに入ると右サイドの有機性は更に高まり、レーンの使い分けとドリブルの仕掛けから多くのチャンスを作った。

 押し込むガンバに対して何とか最後のところで耐える鳥栖、という構図が続く。鳥栖は80分過ぎから2枚替えで横山・樺山を投入。投入された横山がカウンターからあわやというシーンを生み出すが、一森の駆け引きも見事なビッグセーブで事なきを得る。

 アディショナルタイムもパクイルギュのビッグセーブが何度も飛び出し、このまま同点で試合終了か……と思われた90+9分、CKからの宇佐美のクロスを胸で落としたジェバリに合わせたのは三浦。劇的なゴールでガンバが逆転し5試合ぶりの勝利を手にした。


まとめ

 数的優位でありながら得点を取り切れない展開が続き今節も苦しむのかと思われたが、最後の最後にこじ開けて勝ちきれた。前節の記事で「応用問題を解かされたような連戦」と述べたが、相手が10人になったことで、改めて基礎に立ち返るきっかけができたかもしれない。10人で守る相手を崩すのが意外に難しいことは去年のガンバ大阪自身が証明した通り。たかが10人、されど10人。

 一方で、得点力不足の課題は積み残しになったと言えそうだ。今節はキッカーとしての宇佐美の魅力が炸裂していた一戦だったが、宇佐美のキックに頼りすぎることでエリア内の選手たちがレシーバーになりすぎ、アイデアを凝らしてブロックにダメージを与える意思に乏しかったように見えた。

 宇佐美本人についても、試合後のインタビューで内転筋に違和感があった、と述べていた通り連続性のあるプレーを見せることは難しいコンディションだったのかもしれないが、キーパス6本は凄まじい数字だと思いつつ、9番を担うのであればシュート1本は少し寂しい数字だとも思った。

 ただ、宇佐美のコンディション向上に期待して依存度を上げていくのはチーム・ポヤトスとして見出したい解ではないはず。なので今日の課題にも向き合いながらチーム全体で得点力・構成力を上げていこうと考えていることだろう。

 得点力・構成力を上げることとは……という流れで、ひとつ質問箱に興味深い質問が入っていたので転記したい。

 リンク先の動画を見ていただければわかる通り、クロスへの入り方についてはまだまだ改善の余地がありそうだ。本来のポヤトス監督のコンセプト「スペースの認識を共有する」に照らし合わせると、今のガンバがクロスの時だけターゲットの「現在地」に合わせる形が多いことには違和感がある。

 これは、これまでガンバというチーム、そこで活躍してきた選手たちが重ねてきた歴史=「本能」の部分とコンセプト=「理性」の部分がまだ競合しているところなのかなと感じる。不調な連戦中「エゴイズムを捨てること」とポヤトス監督は繰り返し述べている。それ即ち「自分よりいい状態の選手を使え」という短絡的な話だけではなく「最後の局面でもコンセプトに向き合え」という問いなのかもしれない。



ちくわ(@ckwisb

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