2024 J1 第15節 ガンバ大阪 × 川崎フロンターレ レビュー

レビュー

 両チーム中3日、雨のもと行われた一戦。前半15分まではガンバのペースだった。恐らくは、準備してきたゲームプランが当たっていたからだろう。まずは非保持の部分。坂本・宇佐美でアンカーの橘田を消しながらCBへプレス。左CBの大南と橘田は比較的距離が近く(橘田が、左CBながら利き足が右の大南へのサポートを意識した結果かもしれない)、「アンカーを消す動き」と「CBにプレスに行く動き」をシームレスに切り替えられていた。時間が作れない大南の右足を切ってロングフィードとバックパスを潰し、左に流させる。そうなると、全体で押し上げてプレスにいける。アンカーの戻しのパスも消せているので、サイドに閉じ込めてボールを奪い、チャンスに転じることができた。

 保持でも川崎の守備パターンに応じたいくつかの前進ルートを確保できていた。1つ目は川崎がハイプレスに来るときのパターン。川崎はIHの2枚がガンバの2ボランチを捕まえる4-1-4-1の形でプレスに来るが、GKまで戻してプレスを引き込みつつ、いわゆるアンカー脇、川崎IHの背中に坂本・宇佐美を滑り込ませてそこを起点にレイオフ・ターンを絡めて前進。

 もう一つは川崎がハイプレスに来ないとき。川崎はIHの一角(主に左IHの遠野)が前線を形成する4-4-2のブロックを形成していたが、左右に振りながらGKに戻すとマルシーニョがCBに食いつくタイミングがある。そのタイミングで半田がマルシーニョの背中のスペースにちょっかいをかける。マルシーニョが食いついたときにスライドしてサイドを埋めるのもまた遠野の仕事のようで、背中で受ける半田に間に合わないシーンも多かった。半田がフリーであれば半田で前進する、その後ろの佐々木旭が半田を意識するなら、大外に陣取る山下との距離が空くのでそこにロングボールを届ける、という前進のメカニズム。

 良い形でボールを奪えるシーンはあったが繋いで攻め込む局面でミスが出てシュートまで行けない状況が続くと、15分以降は川崎のペースになる。ポイントは家長。15分以降、家長がCB脇まで降りてサポートに来る。狙いどころが絞られず、ファーストプレスがはまらなくなる。ファーストプレスがはまらなければ、高精度の縦パスを差し込めるのが川崎の強みだろう。

 特にネタラヴィとウェルトンの間のスペースにはかなり光明を見出しているようだった。ゴミスのポストプレー、脇坂のドリブル、瀬川のインナーラップなどでガンバの左サイドのハーフスペースを重点的に突く川崎。ガンバも何とかプレーを切ろうとするが、後手に回っているのでクリアがはっきりせずこぼれを拾われて波状攻撃を受け、自陣に押し込まれて良い形のカウンターが発動できない。

 家長がビルドアップに関与するのであればPA内には人が少ないはずなのだが、前半はゴミスはじめパスの受け手のところで時間を作られていたので全体で押し上げてエリア内に人を送り込む余裕があった川崎。先制ゴールのシーンも家長は左サイドでビルドアップに関与していたが、縦パスをコントロールされる間にPAに入り込まれる。右に展開され、ジェジエウ→ゴミスのキープでできた時間で次々にPA内に入ってくる川崎の選手たち。最後は家長のクリエイティブなフェイントからクロスを送り込まれ、後ろからPAに入り込んだことでフリーになっていた瀬川が合わせて川崎が先制。

 ただガンバにとって、失点直後のセットプレーで同点に追いつけたのは僥倖だった。宇佐美のプレースキックが冴えわたっており、GKとDFの間に曲がりながら落ちる絶妙なボールがゴールに繋がった。

 得点直後に宇佐美がチームメイトを手招き。同点ゴールなのにセレブレーション……?と思いきや、フィールドプレーヤーを集めて始まったのは恒例行事となりつつある"青空会議"。黒川が両手を交互に前後させていたのを見るに、チャレンジ&カバーの意識について伝えていたのかもしれない。特に左サイドは辛そうだったので。

 その後、左サイドへの攻め込みを抑えられていたか……といえば微妙なところだったが(ネタラヴィのハーフスペース埋める意識は上がったかも)、特にPA内への飛び込みのところで効いていた瀬川が脳震盪でファンウェルメスケルケン際に交代した影響もあってか川崎側もやや攻めに迫力を欠くこととなり、同点でしのいで試合を折り返す。



 後半は再びガンバがペースを握り返す。ポイントは守備の修正だろう。前半は対応があいまいになっていた川崎のハーフスペースアタックに対して、「ボランチがポケットを埋める」という方針が共有されたようだった。これで川崎の受け手を前向きに摑まえることができ、縦パスが入れにくく、かつクロスはきっちり弾き返せるようになる。また前半は守備の連携に甘さが見られた左サイドのネタラヴィとウェルトンだったが、こちらも55分ごろから鈴木徳真とネタラヴィが左右を入れ替えることで対応。

 もう一つの修正はハイプレスの発動タイミング。あれだけ押し込まれていた前半だったが、家長のサポートがない局面ではプレッシングが効いていたのも事実。家長がサポートに来ないのであれば、素直に前からのプレッシングにいく、家長のサポートを絡めて縦パスを入れに来るなら上述の通り受け手を捕まえる対応を選び、奪ってオープンスペースへカウンター、といった形で「プレスの出方」が整理され、後半は川崎の攻撃が停滞する。

 更に攻撃の部分でも修正が入っていた。前進ルートは基本的には前半と変わらなかったが(ハイプレスに対するアンカー脇へのミドルパス、マルシーニョのプレス逆用)、前進できればそこで攻め切るのではなく、戻しのパスを使って左右にやり直しながら幅を使って押し込む形を選んでいた。前半は攻撃が単発で終わり、ボールを奪われてから一気に相手の攻撃になるシーンも多かったが、じっくり時間を使って攻めればセカンドボールへの準備も整っているので「ずっと俺のターン!」ができるようになっていた。

 60分の川崎。遠野に代わって瀬古。遠野のタスクは恐らく90分は無理なのではなかろうか。

 62分、半田のアンカー化。幅取ろうよ!って感じの中谷のジェスチャーでネタさんが「俺……?」というリアクションを見せながらサイドへ。ガンバとしてはあんまり噛み合ってなさそうだったけど、メダパニ効果は川崎にもおよび、プレスにいけない状態は作れてはいた。

 67分、攣ったマルシーニョとゴミスが下がり、エリソンと山田新が入る。山田新が左、エリソンが真ん中。エリソンは真ん中だったが、ゴミスと比べると中央にどっしり構えるというよりは左右に幅広く動いてボールを引き出せる印象。フィニッシャーになれそうな山田と役割を入れ替えつつ攻めのテンポを変えるのが交代の目的だったのかも。ただ、ガンバとしては誰が入ってこようが埋める場所は決まっているので、入れ替わられても問題なく守れていた。

 交代直後の自陣守備からカウンターが発動しウェルトンが一気に前進。クロスは逆サイドにしっかり走り込んでいた山下まで渡ってコーナーキックを獲得。そのコーナーキックで福岡がマークを外してニアに合わせ、待望の勝ち越し点。ここでも宇佐美のキックの弾道が見事だった。

 勝ち越された川崎は両CBを下げ、高井とゼ・ヒカルドを投入。ゼ・ヒカルドがアンカー、アンカーの橘田が左SBに入り、佐々木旭と高井がセンターバックを組む。ガンバも同じタイミングでウェルトンを下げて倉田、ラヴィを下げてダワンを投入。

 この交代によって前進ルートを見直さなければいけない川崎と、中盤の守備強度を高めたガンバの噛み合わせが対照的だったのが3点目。交代直後、ゼ・ヒカルドと脇坂の息が合わない一瞬の隙を突き、ガンバのショートカウンターが発動する。ダワンのインターセプトは見事だったが両サイドのトランジションも早く、川崎両SBが戻る前に山下からフリーの倉田へのパスが届く。倉田のシュートは上福元の足をかすめてゴールに突き刺さり、ガンバがリードを2点に広げる。

 その後ガンバは続けざまに選手交代。2点差がついた直後の85分に宇佐美を下げてジェバリ、山下を下げて中野。左WGに中野が入り、倉田が右WGに移る。アディショナルタイムには脚を攣った坂本に代えて唐山。坂本も広範囲にプレスバックをし続ける大変なタスクをこなしてくれた。

 アディショナルタイムには、コーナーキックを入れてほしいジェバリとキープしたい唐山で小競り合いが起きる場面も。「エゴを捨てる」がチームの規律を駆動させているなら唐山が正しいが、2点差であれば攻め切りたいジェバリの気持ちもわかる。いずれにせよ、高井のパワープレーなどもあったが危なげなく試合をクローズして3-1で勝利。ポヤトス監督は対川崎戦無敗の3連勝となった。



まとめ

 攻め込まれていた前半からハーフタイムできっちりと対策を落とし込み、後半は川崎を封じ込めたポヤトス監督の采配は見事だった。またそれに応えてタスクを実行した選手たちの対応力も際立つ勝利だった。

 90分を通して、相手を見てやるべきことを全員で共有し、やり続けて勝ち切る。こういった勝ち方のガンバを見るのはずいぶん久しぶり……というか、何なら初めてですらあるかもしれない。ここ数年は先行逃げ切りか、点を取られることでモラルが失われていくイメージしかなかった。もちろん先制直後に追いつけたことや相手の不調も影響してはいただろうが、チームの成長を実感せずにはいられない。

 そしてガンバは今季初の3得点。点の取り方も文句の付けようがない。前節東京ヴェルディ戦のレビューでセットプレーからなかなかシュートまで至れていないと述べたが、直後の試合でセットプレーから2点取ってくれるとは驚き。宇佐美のキック精度を考えればセットプレーは本来武器のはず。上位の町田はセットプレーから9点、神戸はセットプレーから12点取っている(※football lab調べ。ガンバは3点)。今日をきっかけにこのギャップを埋めていけるなら、さらに上も見えてくるのではないだろうか。



ちくわ(@ckwisb



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