2024 J1 第14節 東京ヴェルディ × ガンバ大阪 レビュー

レビュー

 ヴェルディの前進メカニズムにおいて、特徴的だったのはボランチの動き。基本的には4バックが並んで広がり4-4-2のままビルドアップを開始するが、ボランチ(主に森田)が左CBの脇に落ちるギミックが入る。この動きにガンバの前線がついてくるのであれば中盤のスペースは広がるので中の選手に差し込む。ついてこないのであれば余裕をもって後ろで回せるので、前線のスプリントとタイミングを合わせてロングボールを蹴り、ガンバのDFを背走させて陣地を取りに行く。木村が奥を突き、染野が手前を使う役割分担のようだった。ガンバがロングボールを意識してラインを下げるなら、手前の染野も使いやすくなる、といったデザイン。

 一方のガンバは鈴木徳真がアンカー化し、GKとCBでひし形を作る。ヴェルディの2トップは鈴木徳真を2人で受け渡しながらCBに詰めていくので、CBが広がれば2トップの移動距離が増え、ガンバに時間とスペースの余裕ができる。中谷が縦パスを差し込んでサイドに散らす、福岡が運んで引き付ける、といった形を絡めながら、降りてきた選手を使って中央を経由して外、といった順序で前進を図っていた。

 こうした状況を踏まえて、ヴェルディは2トップが背中で消していた鈴木徳真にボランチを付け(特に綱島のアプローチが目立った)、CBへのプレスを強めるようになる。追い込まれたガンバはCBからのロングボールが増える。同じロングボールでも、前節の名古屋戦では後方での選択肢を持ったうえでの「後出しじゃんけん」なのでアドバンテージを取れている状態だったが、今節は真ん中の選択肢を消されてからのロングボールなので相手としては準備を整えやすい。前節ほどロングボールが前進に効果を発揮できず、ボールを簡単に回収されてしまうシーンが増える。

 鈴木徳真がそのような状況に反応する。2トップの脇に出て、ボランチと2トップに捕まらないぎりぎりのラインを探りながらボールを引き出す。この鈴木徳真の動きはバックラインに余裕を生み出し、後方での保持の安定には繋がったが、その動きと前線から先の動きがかみ合わない。受け手が潰されるシーンが続き、保持率は上がるもののシュートには繋がらない状況が続いた。ここで目立ったのが宮原。対面の食野をほぼ完封していた。




 後半、ヴェルディは松橋に代えて齋藤功佑を投入。加えてもうひとつの変化は、森田が綱島と左右を入れ替え、保持局面でより高い位置を取るようになったこと。前半は列落ちからのシンプルな展開も多かったが、後半からは中盤を経由した展開が増えていく。ロングボールで思ったよりアドバンテージを得られないので地上戦の比率を高めてきたか、あるいは戦い方を切り替えてガンバの選手を混乱させようとしたか。

 特に選手交代でチアゴアウベスが投入されてからはその傾向がより強まった。ゴールキックも低い位置から繋いでガンバのプレスを誘発するような形に変わり、チアゴアウベスにスペースを与えやすくなるシチュエーションを増やそうとしていたとみられる。ただ、そのチアゴアウベスはわずか9分の出場で不運にも負傷交代となってしまう。

 一方のガンバも、前半の展開を踏まえてボランチへのマークをどう外すかということを意識していたようだ。半田が偽SB化して鈴木徳真を右サイドに押し出しマークを混乱させる工夫もみられた。ただ、雨の影響もあってかミドルパスが精度を欠き、相手のブロックを動かした後のオープンサイドへ展開する「起点のパス」がなかなか繋がらない。

 狙い通りの前進はできなかったが、チアゴアウベスの負傷交代によりスクランブル状態になっていたヴェルディの左サイドを活用できていた。こちらも負傷交代だが、岸本に代わって入った山下をシンプルに右奥に走らせる形でチャンスが増え、倉田の決定機に繋がる。

 このままペースを握りたいところだったが、後ろから繋ぐヴェルディのボールがなかなか奪えない。山下と同じタイミングで宇佐美と代わって入ったジェバリは、マーカーに付く意識は高いがホルダーにプレッシャーを掛ける動きが少なかった。となると相手も落ち着いて持ててしまう。そうこうしているうちに袴田が下がって稲見が入る。途中出場途中交代という城福監督のシビアな判断だったが、その後両チームにチャンスは生まれずスコアレスドローで試合は終了した。




まとめ

 この試合のシュート数・ゴール期待値はヴェルディがガンバを大きく上回っていた。ガンバは、後方の工夫でボール保持を安定させるメカニズムは持っていたが、その安定をファイナルサードまでどう繋げるかの課題がなかなか解決できていない。サイドへの運び方は洗練されてきている印象があるが、中→外と散らして、もう一度中に侵入する際の工夫に乏しい。ポケットを突く動きが少ない、サイドバックがラインブレイクできてもクロスに入る動きが遅れるなどの状況があり、シュートに繋がらなかった。シュートが打てなければ、ゴール期待値は上がらない。

 一方のヴェルディ。ガンバの守備ブロックを崩し切るシーンはほぼなかったが、遠い位置からでもミドルシュートを蹴る・アーリークロスで頭に合わせるなど、崩しきれていなくてもシュートで終わる意識が高かった。ゴール期待値・シュート数の差のひとつはこの「期待値が薄くてもシュートを撃つ意識」の差だろう。

 もう一つはセットプレー。ガンバはセットプレーをなかなかシュートに結び付けられなかった。シュート意識はチームのポリシーによって決まるので高ければ良いという話ではないと思うが、セットプレーをシュートに繋げられていないことは課題だろう。ガンバはここまで通算70本近いコーナーキックを蹴っているがそこからのゴールは未だに0点となっている。

 ここまでネガティブな点を述べたが、ポジティブな点を述べると守備は今節も堅かった。ゴール期待値では大きく上回られたが決定的なピンチはほぼなかったと言っていい状況。最後のところで跳ね返す守備ではなく、前線からコース切り、プレスバックをサボらないグループの頑張りによって「相手の選択肢を限定していく」守備であり、ヴェルディのシュートシーンが期待値の低いものに限られたのもこの守備の影響を受けたものだろう。この守備を成り立たせているチームの「規律」は今のガンバの強みであるはずなので、この「規律」を保ちながら攻撃を改善できるかが今後のガンバの課題になりそうだ。




ちくわ(@ckwisb

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