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渡辺あやさんに会いに行った日のこと【大根仁 8月号 連載】

おおね・ひとし●というわけで『エルピス―希望、あるいは災い―』、10月より放送です。

10月から始まる新ドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』(カンテレ・フジテレビ系)の情報が解禁された。

発信されたトピックは【出演:長澤まさみ・眞栄田郷敦・鈴木亮平 脚本:渡辺あや 音楽:大友良英 演出:大根仁 プロデュース:佐野亜裕美】【冤罪事件を追う社会派エンタテイメント】といったあたりだが、ネットを始めとするメディアではかなり話題になったようだ。確かにオレの名前を除けばドラマファンがざわつくのは納得がいくオールスターメンバーだ。特に脚本の渡辺あやさんは民放ドラマ初執筆ということもあり、Twitterでもちょっとしたお祭り状態と言ってよいほど盛り上がっていた。

渡辺あやさんは、2003年公開の映画『ジョゼと虎と魚たち』で脚本デビューをするまでは、島根県で主婦として生活し、傍ら雑貨店を経営していたという、異色のプロフィールを持つ脚本家だ。その後、映画『メゾン・ド・ヒミコ』『天然コケッコー』などを経て、2009年に放送されたNHKドラマ『火の魚』でドラマデビュー。だが、ここまでの作品はすべて原作ありきで書かれたもので、脚本家・渡辺あやの名を世間に知らしめたのは、2011〜2012年に放送されたNHK連続テレビ小説=通称・朝ドラの『カーネーション』だろう。

いまだに朝ドラ史上最高傑作と言われるほど評価の高い『カーネーション』だが、オレも渡辺あやの脚本家としての真価を感じたのはこの時で、毎朝欠かさずリアルタイム視聴、Twitterで感想を連発、週末にはまとめて再視聴するほど、どハマりした。特に戦中〜戦後の尾野真千子パート終盤の、うねるような展開、人間の業を深く描いた筆力、それでいてユーモアとエンタテイメント性を忘れないサービス精神には、毎朝脳天を撃ち抜かれるほどに惚れた。そして、渡辺あやという人物にどうしても会いたくなった。仕事をしたいとかではなく、とにかく会ってみたかった。

そんな思いを周囲に吹聴しているうちに、知り合いから「来週、東京に来るから紹介しようか」と言われた。自慢じゃないがオレはデリカシーの無い人間だ。こういうセッティングには何の遠慮も気後れもない。「是非!!!」と返事をした翌週、渋谷にある某高級ホテルのラウンジで、渡辺あやさんと対面することとなった。初めて会ったあやさんの印象は「妖精?」だった。小柄な体躯に品性のある顔立ち、全身から発する穏やかなオーラ、日頃胡散臭い業界人がたむろするそのラウンジが、まるで違った景色に見えた。何の話をしたかは正直忘れた。たぶん一方的に『カーネーション』の感想を伝えただけだったと思う。だが、別れ際あやさんがこう言った。「今度、島根に遊びに来ませんか?」繰り返すが、オレはデリカシーの無い人間だ。「えー、いいんすか!? 是非是非!!」と、翌月にはその頃オレと同じくらい『カーネーション』にハマっていた音楽家の岩崎太整と、飛行機&レンタカーであやさんが暮らす島根県浜田に向かった。

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