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【前編】自分の好きなことを無理なくすべて。「家」を介して人に出会う劇場ー家劇場主宰・緒方彩乃さんインタビュー

Photo:Seico

北千住旭町にある築90年の風呂無し平家。「家劇場」はこの家に住みながら劇場として場をひらくプロジェクトだ。
家主の緒方彩乃さんはデザイナーとして会社に勤めながら、ここで自身が踊るダンス公演などのイベントを企画。スペースはレンタルも行っている。そんなバイタリティ溢れる彼女のこれまでの活動や、家劇場を始めた理由、千住のまちへの思いなどを、綴方書窓のふたりがインタビューした。
まずはその【前編】をお送りする。


アートプロジェクトで劇場の外を知る

◆家劇場ではダンスの公演をされていますが、緒方さんがダンスをはじめられたのはいつですか。
 
私は幼少期からバレエをはじめて、大人になってもずっと続けてきました。しかし、それは趣味としてで、仕事ではありません。踊りを仕事にするには障壁が多く、何か別のかたちでも舞台に関わりたいと考えていました。
そのときに、ものづくりなどにも興味があったことから劇場そのものや空間づくりを出来ないかと考えるようになったんです。

◆それで大学は建築の学科に行かれたんですね。

はじめは建物の設計を勉強していたのですが、次第に建物づくりなどのハード面ではなく、コミュニティの計画などソフト面に興味が移っていきました。そこで、劇場や美術館などの公共施設を考える研究室に入りました。学びのなかで、芸術の場はとっくに劇場や美術館の外に出ているのだということを知り驚きました。まちなかやカフェを舞台にしたパフォーマンスなどによるアートプロジェクトを見てこんな世界があったのかと。私はいわゆる劇場の舞台でしか踊ってこなかったので衝撃をうけましたね。私もどうにか踊りを続けていく道を見つけることができるかもしれないと思えました。その後、大学院に進み、全国でたくさんの作品を見たり、アートプロジェクトに参加したりする日々を過ごしました。

家劇場にて、緒方彩乃(おがた・あやの)さんインタビューのようす。
破れたふすまが家の古さを物語る。押し入れには緒方さんお気に入りの漫画がずらり。

自分の好きなことを全てやるために

◆ご職業はデザイナーとして勤めてらっしゃるとお伺いしました。
 
仕事は商業施設のデザイン職につきました。大学が建築系ということからディスプレイデザインをメインとしていたのですが、やれることを自分から提案して取り入れてくれる会社の環境があったので、同時にグラフィックデザインもやれたらと思い、今は両方やっています。

両方同時に携わればもっとできることがあると思ったからです。POPひとつ取っても空間や状況・モノとの兼ね合いでデザインも変わりますし、どちらも自分が考えて現場で実行できるのが楽しいですね。

家劇場・入り口
家劇場のサイン、フライヤー、ディスプレイまで緒方さんがデザイン。
                                    Photo:金子愛帆

◆緒方さんのなかで、やりたいことがたくさんあるんですね。
 
私はやりたいことは全部やりたいと思ってしまうところがあります。なので、2つのデザインを職業にしつつ、さらに自分が好きで続けている踊りや絵、空間づくりなど、全てをやれる環境をどうやってつくろうかと漠然と考えていたんです。

その時に空き家を利活用する足立区でのアイディアコンペを知って。この物件の間取りを見た時に思いついたのが家劇場でした。家を劇場にしてしまえば、ダンス公演ができるし、稽古場やアトリエにもなるし、住むこともできる。私にとって絶好の場所でした。

テーマは「家事をするように無理のない範囲で催し(自分の好きなこと)をする」です。あくまで自分の好きなことを楽しいと思える範囲でやろうと思ってはじめました。

引っ越してからは、ダンスなどのパフォーマンスをしたり、ご飯をみんなで食べるような会を開いたり。いろんなイベントをここで行いました。

これまでのイベントが家劇場のホームページにアーカイブされている。(↑クリックで飛びます)
パフォーマンスからお誕生日会まで幅広いイベントの記録が見られる。
2022年4月 日めくりダンス公演 「家と暮らせば」(振付・演出 中村蓉)
                                    Photo:金子愛帆

家と作品を介した人との出会い

◆はじめはご自身のための劇場だったのですね
 
地域やみんなのためという訳でもなく、自分の開催する催しのための劇場としてはじめたのですが、家”劇場”という名前からか誰もが借りられる公の場だと思う人も多かったんです。そして、実際にこの場所を使いたいとアイデアを持ってきてくれる人も現れたので、お貸しするようになって。

私はコミュニケーションが得意なタイプではなくて、人が集まって交流する場所というのはどちらかというと苦手です。だから、人がこの場所でつくったものや、そこにいた形跡から、その人を知るという距離感はちょうどいいなと思っています。

家劇場を貸出した際のイベント(↑クリックで飛びます)

場所を貸すと、帰ってきたらそこはもう私の家じゃなくて、その人に家になっている感じがするんです。マンションやアパートなどに住んでいるとき、隣の家の中が見えるとついつい見てしまうことってありませんか。自分の部屋と同じ間取りなのに、雰囲気がまったく違うからおもしろくて。

そんな感覚のおもしろさをみんなに共有したいと企画したのが「めぞんな家劇場」でした。家劇場を集合住宅と捉えられるよう、ひとつの部屋を期間ごとに住人(作家)を変え、それぞれの生活(作品)をのぞいてみるというイベントです。

◆今回、家劇場が3月末で無くなってしまうということで驚きました。
 
2023年の3月でここを借りはじめてから4年になるんです。契約更新が2年ごとの区切りなので、終わりにさせてもらって良いかと半年前に大家さんから言われたので、わかりましたと伝えました。

築90年の古い家だからいつ壊すかわからないということは承知の上でお借りしていましたし、大家さんの計画もあるし、寂しいけど仕方がないですよね。それで、今年はゆっくりしようと思っていたのが一転。おしまいに向けて忙しい日々がはじまりました。

家劇場・外観
                                    Photo:金子愛帆 

◆そのイベントのひとつが1日1010円という破格で家劇場を貸し出す「お貸し出し祭り」ですね。

最後の1ヶ月間は3月31日の退去日ギリギリまで私のダンス公演をフィナーレとして上演しようと思っています。でも、それまでの期間を持て余すのはもったいないので、終わっちゃうから来て!と最後にたくさんの人にきてもらい、記憶の中に残してほしいなと思ったんです。

それで1日1010円で場所を貸し出す「お貸し出し祭り」を開催しました。そしたら思いのほか、たくさんの人が来てくれて。リピーターの方もいれば、はじめて利用してくれた人もいて、その分お客さんも色んな人が来て広がりを見せてくれています。最後に、さまざまな家劇場の様子・使い方を見れたのが嬉しかったです。
 

お貸し出し祭り・クリックでリンクに飛びます

Twitterで「#家劇場お貸し出し祭り」を見るとこれまでの報告が見られます。

【後編】へ続く


2022年12月15日
北千住・家劇場
取材=綴方書窓
文・構成=森崎 花


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