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構造デザインの講義【トピック3:古代の石と木による構造】第3講:構造力学の実と美と装飾性

~ノートルダム寺院、ミラノ・ドゥオーモ大聖堂、ケルン大聖堂、サン・ピエトロ大聖堂を事例として~

東京理科大学・工学部建築学科、講義「建築構造デザイン」の教材(一部)です



構造と力学の実践が、美と密接につながった世紀の建造物

構造と力学の装飾性、ノートルダム寺院

概要
組積式の構造物は、自重や積載による固定的な下向きの力に対して安定しますが、横揺れなどの力に不安定になります。
そういった建造物は、力の流れを明確にして、安定な構造となるように制御することが重要です。
すなわち、目に見える形で力の流れを明確にし、それに合わせて構造体を設けることが得策です。

中世のゴシック建築などは、この原理を実践したものが多く登場しました。
そして、私たちがこれらの建物に魅了されるのは、単にフォルムや空間の美しさ以外のものが存在していると、確信を抱くことになります。

ノートルダム寺院
フライング・バットレスによる装飾性は、力学と構造を追求した美の表現である
(写真:Pixabay, https://pixabay.com/ja/)

構造
フライング・バットレス(飛梁)は、力学が顕現した構造体の一つです。
ゴシック建築の装飾性の代名詞でもあり、力学的合理性を持った構造体は、自然科学によって創出された形状です。
そこには、構造美が宿り、人々を魅了します。

尖塔アーチは、天高く、幻想的な内部空間を演出するうえで、極めて重要な役割を担います。
ゴシック建築の宗教性・神秘性の表現に必要不可欠な要素となっています。

尖塔アーチは、構造色に限らず、天高く、尊厳をもたらす空間表現へと昇華する
(写真:Pixabay, https://pixabay.com/ja/)
鉛直荷重に支配される欧州の建築物は、構造体や屋根、仕上げなどの固定荷重が骨組を流れるように力が伝達するため、バットレスで圧縮耐力と曲げ抵抗を確保している

装飾美の傑作、ミラノのドゥオーモ大聖堂

高さ108m、全長157m、幅92mのミラノのドゥオーモ大聖堂は、ゴシック様式のドゥオーモとして、世界最大規模です。
1386年に着工し、1813年に完成した。135本の尖塔が特徴です。

ミラノ大聖堂
(写真:Pixabay, https://pixabay.com/ja/)

フライング・バットレスや尖塔アーチ、交差ヴォールトなど、ゴシック建築の建築技法によって建設されています。
ステンドグラスによる壮麗で装飾的な内部空間の演出がみられます。

フライング・バットレスによる装飾的な表現
(写真:Pixabay, https://pixabay.com/ja/)
天井の交差ヴォールトにより、高さと軽量感の視覚的な効果が得られている
(写真:Pixabay, https://pixabay.com/ja/)

壮麗な内部空間、ケルン大聖堂

高さ157m、奥行114m、幅86mのケルン大聖堂は、1164年に建築が計画され、1880年に完成しました。
フランス式ゴシック様式のカトリック教会です。

ケルン大聖堂
フライング・バットレスによる装飾的な表現
(写真:Pixabay, https://pixabay.com/ja/)

ヴォールト天井、フライング・バットレス、そして尖塔アーチにより、ゴシック様式の象徴的で装飾的な表現により、壮麗で圧倒的な内部空間を演出しています。

天井の交差ヴォールトにより、高さと軽量感の視覚的な効果が得られている
(写真:Pixabay, https://pixabay.com/ja/)

経験から科学への転換点、サン・ピエトロ大聖堂

ローマ・カトリック教会の総本山であるサン・ピエトロ大聖堂は、ミケランジェロによってその基本形が示されてから22年の歳月を経て、1589年に完成しました。
高さ153mのクーポラ(円蓋)の頂部に、市内を一望するテラスが設けられています。

(写真:Pixabay, https://pixabay.com/ja/)

二重殻方式、補強リングの設置は、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の建造技術と同じです。
しかし、平面形状は円形とし、内側のドームは肉厚を小さくし、リング・アーチを用いず、縦リブの数を減らすなど、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂よりも構造が簡略化されました。
完成から100年、スラストの影響と思われる縦ひび割れが観察されるようになりました。

サン・ピエトロ大聖堂
(写真:PhotoAC, https://www.photo-ac.com/)

そこで、1743年、数学者に調査を依頼し、当時、力学的地位を築いていた仮想仕事の原理を用いて、フープ補強が行われました。
およそ、1100トンのリング方向力が導入されました。
また、5本の鉄鎖リンクが追加されることで、その後、構造的に安定を得ることができました。

この経緯において、建造物の崩壊について、力学や数学に基づく理論的検討が設計手法に取り入れられました。
今日では、構造設計の当然のプロセスですが、主観から客観へ、すなわち、長く続いた経験と勘の時代から、科学的な設計手法への時代に突入する契機となりました。
時を同じくして、構造力学を受容できる鉄骨材料が登場し、その製鋼、加工などが発展し、科学と材料の奇跡の出会いがありました。

(写真:Pixabay, https://pixabay.com/ja/)

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