見出し画像

【読書メモ】『セカンドキャリア 引退競走馬をめぐる旅』(著:片野ゆか)

競馬は昔から身近なもので、高校の時に府中に引っ越してあたりからなじみがあります。また競走馬は経済動物との視点も、ちょうどその時期くらいから読んでいた『じゃじゃ馬グルーミンUP』でも真正面から冷徹に取り上げられていて、比較的スルッと入ってきていたような覚えもあります。

もちろん、サイレンススズカのような予後不良の悲劇は避けれるものなら避けてほしいですし、引退後には行方不明となる馬が大半との悲哀について仕方ないとは感じつつも、可能な限りに穏やかな余生を過ごしてほしいとも思います。

かといって、自身が犬猫のように自宅で飼えるわけでもなく、何かの折に寄付をしたりとかでの関わり合い方が大半です。それこそ、昨年に旅立ったナイスネイチャやタニノギムレットなどのバースデードネーションなどでの。

ナイスネイチャが自ら指し示してくれた“引退馬“という生き方、引退馬支援の輪は、これからも大切につなげていきたいと思っています。

出典:「引退馬協会さん、「X(旧Twitter)」2024年4月1日ポストより」

ということで、2024年4月16日‐5月15日に「ナイスネイチャ・メモリアルドネーション 2024」(NNMD 2024)が予定されているようです。

その元となった「ナイスネイチャ・バースデードネーション」は、2017年からスタートしていて、その年(2017年)は「19万」でしたが、翌2018年が「67万」、2019年が「108万」、2020年が「173万」とじんわりと周知されていっていたのが、、

2021年に「3,582万」、2022年が「5,412万」、2023年が「7,402万」と、尋常でない伸びしろを見せていて、これはウマ娘のリリース(2021年2月リリース)の影響がダイレクトに出ていた形で、毎年話題になっていました。

配信当初、このゲーム(ウマ娘)が引退競走馬の世界に影響を及ぼすことを予測した人はおそらく誰もいなかった。だから配信から三か月程、一つのニュースが注目を集めた。

引退競走馬のナイスネイチャ・三十三歳の誕生日を記念したバースデードネーションで約三千六百万円の支援金を集めるー。

出典:『セカンドキャリア 引退競走馬をめぐる旅』

そしてこの「ナイスネイチャ・バースデードネーション」の様子は『セカンドキャリア 引退競走馬をめぐる旅』との一冊でも取り上げられています。

引退競走馬支援の存在を知ったときにまず感じたのは、この世界に注目することで“社会が良い方向へ変化する過程”をリアルタイムで追うことができるはず、という大きな期待だった。

この本は、二〇一九年から二〇二三年までの約四年間にわたり、馬の知識ゼロだった私が初めて馬の世界に足を踏み入れ、引退競走馬をめぐる世界の全貌を求めて各地を訪ね、様々な人に出会いながら、馬の魅力にグイグイと引き込まれていく旅の記録である。

出典:『セカンドキャリア 引退競走馬をめぐる旅』

本書は全部で8つの章からなります。ナイスネイチャのバースデードネーションは最終の第八章で取り上げられていますが、それまでの7つの章でも様々な引退競走馬との関わりについて、丁寧に記されています、光も闇も。

レジェンド調教師・角居勝彦氏絶賛!
「引退競走馬を取り巻く現状を丁寧に取材した一冊。片野さんの馬に対する強い愛情を感じます」
(元JRA調教師・一般財団法人 ホースコミュニティ代表理事)

出典:『セカンドキャリア 引退競走馬をめぐる旅』

また帯には、ヴィクトワールピサでドバイワールドカップを初めて制した角居勝彦さんが献辞をされています。角居さん、2021年に調教師を引退されて、今は現役時代から携わっておられた引退競走馬の支援を主軸にされているようです。ウォッカ、カネヒキリ、シーザリオ、ルーラーシップ、エピファネイア、キセキ、ラキシス、と、グルヴェイグなども、、懐かしい名前を思い出しました。

競馬業界では毎年約七千頭のサラブレッドが生産され、一方で約六千頭が引退するが、その多くは行方不明になっている

出典:『セカンドキャリア 引退競走馬をめぐる旅』

長年の問題意識の焦点はやはり、この点でしょう。経済動物としてみると、すべての競走馬が引退後に穏やかな余生を送れるわけではありません。ようは「生きていくために稼がないといけない」のですが、それが叶わないのであれば、、と、食用となるのもまた、社会における一つの循環の結果でもあるので、否定するわけではありません。

ただ少なくとも、競走馬の可能性を、選択肢を少しでも広げてあげたいとも思います。今まで、種牡馬、繁殖牝馬、誘導馬、乗馬、障害競技への転向といった辺りまでは知っていたのですが、福祉を目的としたセラピーホースといった存在は初めて知りました。

引退した競走馬の多様な利活用による社会貢献等の観点からも命ある馬が可能な限り充実したセカンドキャリアを送ることができるようにすることの重要性に鑑み、こうした取組に対する競馬関係者による支援の拡充を促し、取組内容の充実が図られるよう指導すること。

出典:「競馬法の一部を改正する法律案」
(参議院ホームページ、第210回国会(臨時会)議案情報より)

また、2022年11月の210回国会にて「競馬法の一部を改正する法律案」が採決されています。これを受けてか、今年からJRAでも引退競走馬に特化した関連団体が立ち上がるとのことです(家内談)。

現在の試算では、この七万頭にプラス三、四万頭分の社会的なニーズや居場所を確保できれば、引退競走馬のセカンドキャリアや余生を見守ることは可能と考えています。ただし、そのためには馬の知識を持つ人材や土地の確保が必要で、まずはそこから着手しないとこの問題は解決できません

出典:『セカンドキャリア 引退競走馬をめぐる旅』

JRAが絡む以上は予算面での心配はなさそうですが、もっと根本的な「馬について理解している人とその環境が圧倒的に足りていない」とは、JRA職員の方からの直接の談話とのこと。直近では、宇都宮にリトレーニングなどにつないでいくための施設を作る予定とのことで、まずは始めることが大事だと思うので、このような動きを長い目で見ていく必要があるのかな、と。

インターネットの情報をシェアしたり、SNSにアップされた愛らしい引退競走馬の写真や動画に”いいね”を押したりするだけでも社会に影響を与えることはできる。引退競走馬支援について、家族や友人に話すことも実は立派な支援活動だ。寄付や一口馬主も支援方法のひとつだが無理は禁物で、できないことに罪悪感を抱く必要はない

出典:『セカンドキャリア 引退競走馬をめぐる旅』

本書の「おわりに」では、ノーリーズンのウマ娘実装で公式のテンション爆上がりだった「相馬野馬追(そうまのまおい)」が取り上げられていたりもします。ちなみに、相馬では一般的に馬が飼育されているとのことで、なかなかに驚きました。

また「ウマ娘」で2月から始まった新しいシナリオは「引退したウマ娘のセカンドキャリア」を題材にしています。競走馬をアスリートとしてみていく視座のとっかかりとしても、興味深く楽しませていただいています。

さて、今年のドネーション(寄付)は4月16日スタートです。先日HUBさんでいただいたナイスネイチャのコースターでも観ながら、なんて思っていたら、また始まるようで、これは立ち寄らないとなぁ、できることを一つ一つ、です。


この記事が参加している募集

読書感想文

わたしの本棚

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?