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【読書メモ】『マハン海上権力論集』(編集/翻訳:麻田貞雄)

「マハン大佐を知らぬ海軍士官は、世界のどの国にもいない」。司馬遼太郎は小説『坂の上の雲』で、こう書いた。

出典:「『マハン海上権力史論』 ウクライナ侵攻で再注目」(『産経新聞』2022年11月27日)

とりわけ島国においては、海軍が軍事的な意味で侵略的であることはめったにない

出典:『マハン海上権力論集』(編集/翻訳:麻田貞雄)

アルフレッド・セイヤー・マハン、海上からの戦略(シーパワー&シーレーン)についての研究者、になるのでしょうか。元々は海軍士官のようですが、司馬さんの『坂の上の雲』でも秋山真之さんとの絡みで取り上げられていて、確かドラマでも出てきていたような。あのドラマは(NHKにしては珍しく)見応えあったなぁ、DVDも持っていたりします、とか思い出しつつ、そういえば数年前から「地政学」とのフレーズをよく目にするようになったなぁと『マハン海上権力論集』の背表紙も眺めながら、つらつらと。

戦闘の状況は、武器の進歩につれて、その多くが時代とともに変わるけれども、歴史を学ぶことによって、一定不変の原理を見出しうるのであり、それは普遍的に応用される

出典:『マハン海上権力論集』(編集/翻訳:麻田貞雄)

こちらはそのマハンが出した論文の抜粋・ダイジェスト集になります。ポイントが丁寧に押さえられていて、マハンの提唱する理念についての先触れとしては十分で、「地政学」への導入本としても面白いかと。

国家の海上権力を左右する主要な条件として、次の諸要素を挙げることができよう。
(一)地理的位置。
(二)地勢的形態ーこれと関連して天然の産物と気候をも含む。
(三)領土の規模。
(四)人口。
(五)国民性。
(六)政府の性格ー国家の諸制度を含む。

出典:『マハン海上権力論集』(編集/翻訳:麻田貞雄)

最初に手に取ったのは結構前ですが、ちょうどその頃は『自由と繁栄の弧』の再読とも並行していて、いい相乗効果を感じたのを思い出しました。というのも、麻生さんの理念とも非常に合致する内容と、今でも感じるからです。

野蛮状態とは、わが文明に内在する精神を吸収することなく、その物質的進歩のみを摂取するのに汲々たる人びとの文明のこと

出典:『マハン海上権力論集』(編集/翻訳:麻田貞雄)

なかなかに示唆的な内容で「日本」の今までの在り様、これからの在り様にもつながってくるかと思います。そしてまた「自由と繁栄の弧(今現在はFOIP)」に日本の生存圏も被ってくるのであれば、喜んで「ODAとかも含めての伴走者」となりたい所とは、今でも変わらずに感じます。

三ヵ国(英・米・日)は、顕著な海洋国家

出典:『マハン海上権力論集』(編集/翻訳:麻田貞雄)

マハンの生きた19世紀当時、アジア圏で第一に西欧化したのは日本であって、次に来るのは「支那(china)」であろうとは、マハン自身の言でもあります。そして支那が真っ当な手段で西欧化してくればよいが、してこないのであれば封じ込める必要があるとも、言及しています。ちなみにこの時期の「支那」は、当時支配下に置いていた朝鮮半島も含まれています。

ここで言う西欧化は、当時の国際水準での普遍的な価値、すなわち、民主主義、自由、人権、法の支配、市場経済を実現しているかとの視座になりますか。今現在(2024年)であれば普遍的価値観との表現になるのでしょうけども、当時の実態を深堀するといろいろと至らない点も散見されるかと思います。

もっとも歴史の事象を判断するに、当時の状況を鑑みずに今の価値観だけで読み解くのはかなり危険な行為であることは留意しておきたいところです。そういや世界で最初に人種差別撤廃を明確に主張したのは日本だったよなぁ(1919年)、アメリカやイギリスの反対で潰されてしまいましたけども、、閑話休題。

法律なるものは正義の侍女にすぎないということ、また、世界の発展の現段階においては、もし正義を法の力で擁護できないときは、武力によって擁護しなければならないということ、そして究極的に法は、その制裁力はおろか効力をも武力に依存しているということ

平和は、あたかも子供が未熟の果実を木からもぎ取るように簡単に入手できる、などとは考えないようにしよう。ましてや平和は、われわれの直面している状況を無視することによって達成されるものではない。

出典:『マハン海上権力論集』(編集/翻訳:麻田貞雄)

端的に言えば「力なき正義は無力」とのことでしょうか。特に大陸国家である共産中国(CCP)が、同じく大陸国家であるロシアと連動するような形で、それぞれの海洋権益に対して帝国主義的な野望を露わにしてきている昨今、海洋国家である日本が、他の「海洋国家」とどう連動していくべきかを読み解く一助ともできるかと。

また純粋な「海洋国家」の候補としては、、アメリカオーストラリアインド台湾イギリス、そして、フィリピン、ベトナム、タイ、ミャンマーなどのASEAN諸国が、まずはあがりましょうか。

地政学的に、海洋国家である日本にとって、大陸国家であるロシア、共産中国が敵性国家なのは、ある種宿命でもあり、どうしようもない現実です。日本としては今後、朝鮮半島を緩衝地帯として活用しながら、「自由と繁栄の弧」から始まり、「セキュリティダイヤモンド」「QUAD(クアッド)」「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」と昇華されていっている経済も含めた安全保障体制の維持と、その他にも「ファイブ・アイズ」などへの参加も実現していってほしいところと、あらためて。

にしても「ファイブ・アイズ(イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)」、日本もですが、台湾、インドも含めておきたいよなぁ、、とか考えながら。さて『海上権力史論』『マッキンダーの地政学』を久々に引っ張り出してみよう。

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