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「自由と繁栄の弧」、外務省サイトで講演録も読めます。

2024年(令和6年)現在、日本の国防にとって生命線の一つともいえる「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」、たどっていけば「セキュリティ・ダイヤモンド」「自由と繁栄の弧」との構想につながっていきますが、発端は安倍さんが第1次政権前から提唱されていた「日印豪米の環太平洋を機軸としたアジア圏外交の展開」との理念でしょうか。

そちらを踏まえながら思い出すのが、2007年当時、安倍内閣で外務大臣であった麻生太郎氏の当時の著作となる『自由と繁栄の弧』(文庫版も出ていますが、やや内容が圧縮されているので、手に入るのであればハードカバー版がおすすめです)。題名ともなっている「自由と繁栄の弧」とは麻生さんがブレずに提唱されている主張で、これと「価値の外交」を併せての麻生ドクトリンの理念は、今現在(2024年)でも継続されていると折々で感じています。こちらはそんな麻生さんの外相時代の講演・スピーチをまとめた一冊で、話題や舞台は多岐にわたっていますが、上記2点を念頭に読み進めると、より具体的に理解できる内容となっています(外務省サイトの講演録はこちらです)。

さて「自由と繁栄の弧」を地理的に追いかけていくと、、日本からみて、ユーラシア大陸の外縁をなぞりつつオセアニア諸国、ASEAN諸国にインド、CLV(カンボジア、ラオス、ベトナム)に、中央アジアや中近東諸国、そしてトルコ、V4(チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア)、GUAM(グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバ)、CDC(ウクライナ、グルジア、リトアニア、ルーマニア)やEU諸国にNATO、そしてアメリカ、、そんな、「普遍的価値を共有できるであろう国々をつなげた、ゆるやかな三日月状の弧」が示されていきます。

出典:外務省HP(「自由と繁栄の弧」をつくる)

ここで言う「普遍的価値」とは「民主主義、自由、人権、法の支配、市場経済」のことであり、日本人にとって身近に偏在する価値観の集合体であると思います。個人的には、主だった海洋国家群を数珠繋ぎとしているのが興味深い上に、地政学上での潜在的・宿命的に敵性国家であるロシアに対しての包囲網となっているのもまた、同様に面白く感じました(今現在は共産中国も含まれますね)。内容として、時系列ではなくテーマ別に収録されているためなかなかに分かり難くはありますが、当時の麻生さんの中では「特定アジア(共産中国、南北朝鮮)」をこの「弧」の枠外に置いていることも読み取れるのがまた、興味深くもあり、、麻生さんの言っている「北東アジアの民主国」は、日本と台湾を前提とされてたのかな、とも。

(台湾は)民主主義がかなり成熟しているし、経済面でも自由主義経済が
 浸透し、法治国家だ。いろんな意味で日本と価値観を共有している国だ。

出典:『自由と繁栄の弧』

この辺り、2007年頃の「日豪共同宣言」や「日印防衛政策対話」といった動きと相まって読み解くと、一つの青写真が浮かび上がるのではないでしょうか、将来的なロシアとの対決を見据えた特定アジア国家をも含んだ包囲網、との(今現在は韓国を防共の一次障壁として取り込もうとしているとみています)。

東西文明が入り混じるトルコ、世界最大の民主主義国家であるインド、オセアニアの大国であるオーストラリア、中央アジアのキーパーソンであるモンゴル、そして、北東アジアでは日本以外でほぼ唯一と言っていい法治国家である台湾。こういった、日本にとって「普遍的価値」を共有できる、また、していかねばならない国々と、今後どう共に歩んでいくのか、といった辺りを模索していく必要がありそうですね、とは、今現在でも。

もちろん、今まで以上にアメリカとの協力体制も維持していくことは、大前提の話でしょうけど。

あと「普遍的価値」はもとより、次の一節にも考えさせられるものがありました。

「魚は自分で釣ってくれ」と言いますのは、自立自助、天は自ら扶くる者を扶くの精神

出典:『自由と繁栄の弧』

「出藍の誉」とのことわざを思い出しました、「青は藍より出でて藍より青し」の方が一般的ですかね。元は中国の故事ですが、、台湾(中華民国)に相応しい言い回しだなぁと、今は亡き李登輝氏が繰り返し話されていた「日本精神(リップンチェンシン)」といった言葉をも思い返しながら。

ただ単純に「結果」を与えるのでではなく、その結果を出すための「手段」の定着を支援する、文字通りの教え育んでいく「教育」であり、「一緒に汗を流して頑張りましょう」という日本人の心情にも沿っている支援のやり方だと、そう、感じます。日本人に元気と自信を示したい、そういった想いがヒシヒシと伝わってくる、そんな内容であったのを今でも覚えています。そういった意味では、結果ではなく機会の均等を前提とする政体がまっとうな在り様だよなぁ、ともあらためて、、言い換えれば結果の均等だけを担保する政体はいびつだとの感覚です。

さすがに年齢的にも首相としての再登板は難しいと思いますが、麻生さんの理念、思いをまっすぐに継承されている政治家の方を見つけたい、と、痛切に感じています、危機感とともに。

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