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『nomadland』


喪失を抱えたノマドたち。彼らは自分の心の傷を癒す旅に出る。

主人公のファーンは企業城下町の崩壊と夫の死をきっかけにして街を出た。

居場所とパートナーを喪失して、心に空いた穴を満たしたかった。

キャンピングカーで車中泊をする。「私はホームレスじゃない。ハウスレス」と彼女は語る。

自然の中に身を委ね、美しいものに触れて世界を渡り歩いて生きている。

私たちは、自分自身の生き方にプライドを持って生きているだろうか。
何を望み、何を以ってして幸福を感じているだろうか。


✳︎

2021年3月。世界がコロナの蔓延で変わりつつある時代にこの映画は公開された。

この作品は、アメリカにおける高齢労働者の問題を描いている。
ノマド(流浪の民)と呼ばれる彼らは喪失を抱えて生きている。パートナーを失ったり、リーマンショックの煽りを受けたことにより住む場所を追われ、季節労働の仕事にあたりながら各地を転々としてキャンピングカーで路上生活をして暮らしながら生きている。

貧困の中で喪失を忘れる為に、本当の幸福を見つけるために生きている。

日本においても、コロナ禍における不景気で仕事を失ったり居場所を追われる人々が増えた。

日本の貧困層の生活満足度はアメリカよりも低いという。
理由としては、老後の蓄えが足りなくまた人との繋がりが希薄なために孤立してしまうということが挙げられる。

その点、ノマド達は貧困層ではありながらも路上に希望を見つけ、誰かとの繋がりを持ち旅を続け、何が幸福であるかを追求して生きている。


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「生き続けたら彼も生きることになる」という言葉を胸に刻み込み世界を渡り歩く。
その中で出来た繋がりはあたたかく、離れてしまっても確かに繋がっている。
一方で、特別な居場所を持ってしまうとまた喪失して傷ついてしまうという不安を抱えているのかもしれない。

あたたかさや繋がりを求める一方で、決まった居場所は求めない。
ただただ美しさと人の温もりの中で生きていたいと、美しく生きていたいと希い、命を燃やし続ける。

生き方は決められている訳でなく、幸せの在り方も自分自身で形作っていくものだ。幸福を追い求めて、キャンピングカーを走らせる。

人生は一度きりで、大切な存在を喪失しても、生き続けるしかない。
世界は美しいと、彼らは誰よりも知っている。
だからこそ、美しい世界を流浪する。


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