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英語にもある象は鼻が長いー象は鼻が長いの意味3ー

【同格】

 さて、皆さん、「象は鼻が長い」に似た表現は、英語には無いのでしょうか。私は、同格(アポジション/ apposition)とされる表現が、図式として似ている、と考えております。なお、文法用語としての apposition は、同格という訳語になっていますが、文法でない普通の意味としては、並置、並列、付加、添付のようにも訳されるようです。
 同格で、その代表例のように、よく紹介されるものには、all と both とがあるかと存じます。all と both とについて、weblio辞書様より引用します。

The milk was all spilt. ミルクは全部こぼれ(てい)た. ※→代名詞1c+
They were all happy.  みな幸福だった. ※→代名詞2b+
The brothers are both dead.  兄弟は二人とも死んでいる.
※下記リンク辞書より抜粋して引用。

https://ejje.weblio.jp/content/all
https://ejje.weblio.jp/content/both

 私は、中学、高校のころ、(同格という文法を無視して)上記の例文のような、all や both は副詞だ、と勝手に思い込んでおりましたが、どうもそうではなく、代名詞(注1)で、(主語と)同格(注1)(注2)であるようなのです。
 なお、語順の問題として、all や both のような(主語と)同格の代名詞は、be動詞、助動詞の直後、一般動詞の直前に来る(注1)(注2)、とされるようです。
 また、half についても、こちらのブログの作者の方が、図式が似ているものについてご説明です。引用します。なお、引用の例がそれに当たるかどうかは措くとして、half も、代名詞として使えるとする、辞書もありますし(下記リンクをご覧ください)、代名詞としての分類は載せていない辞書もあるようです。

He is half Japanese and half British. 

https://plaza.rakuten.co.jp/asdqwe/8004/

 また、part にも同じような図式の表現があるようです。ただ、代名詞でなく、副詞とされているようです。ですが、別に代名詞でないと同格になれないということではないはずなので、名詞として同格である可能性も捨てきれませんし、また、副詞であったとしても、名詞相当語句(noun equivalent /ナウン・イクイバレント)として、同格になっている可能性だってあります。

His new book is part fiction and part fact.
彼の新しい本は一部分はフィクションで一部分は真実だ.

https://ejje.weblio.jp/content/part

 では、「3分の1水で、3分の2ワイン」ならどうでしょう。以下のように表現できるのでしょうか。もし、できないとしたら、なぜ駄目なのでしょうか。

 It is one third water and two thirds wine. 
 It is one third part water and two third parts wine.

 half が(代名詞や名詞や名詞相当語で)、同格になり得るなら、one third も two thirds も、また、one third part も two third parts も、名詞句や名詞相当句として同格になってよいように思われますし、それなら、part だって同じように同格になってよいように思われます。

 この、(副詞かも名詞かも名詞相当語句かもしれない)part やそれに対応する言葉を、同格として、或いは同格のように、使うことができる言語、更には「部分」の類のものだけでなく、普通の名詞も、そのように使える言語、そういう言語が存在する、としたらどうでしょうか。

【スーパー同格】

His new book is part fiction and part fact.

https://ejje.weblio.jp/content/part
上記引用文と前述の仮想言語との対照

 その仮想言語の文法としては、象の一部分が鼻なので、部分や一部分と入れ替えて鼻といえる、という説明になり、そして、このような表現の場合に無冠詞で使うべき part に nose/trunk が付くのでその句(もしくは複合語)に冠詞は付けないのが普通で(あるが出してもよく)、また、part という言葉自体そもそも出さなくもよい(し出してもよい)という説明になります。このようなものを、仮に、広義の同格、もしくは、スーパー同格と呼ぶことにします。最初は、擬似同格(Quasi apposition/クエイザイ・アポジション)にしようかと思ったのですが、既に使われている用語のようなので諦めました。
 さて、all と全部と、both と両方と、half と半分と、part と部分/一部/一部分とが対応する、と、習うとか調べるとかします。そして、それらは、助動詞やbe動詞の直後に置く、と、習うとか調べるとかします。そうすると、以下のような文を作り出す人が出てきても不思議ではありません。
 なお、ここでは、日本語から英語に翻訳しようと、もしくは、日本語の文法構造を英語に移し替えようとしているわけではなく、恐らく普通だと思われる英語の表現を先ず探して、次に入れ替えが利く部分と、その部分に入れ替えることのできる語彙と、を探そう、という姿勢で英作文に取り組んでいます。なお、私は、こちらの、ネイティブスピーカーが話すのと同様にノンネイティブスピーカーが英作文をするにはどうしたらよいのかについて、ニック・ウィリアムソン先生の仰る「置き換え頭」から学ばせていただきました(勿論、先生の仰ることが私に正しく理解できているかどうかは別問題でございます)。

1.1 His new book is [all] fiction.
1.2 彼の新作は[全部]フィクションだ。
2.1 His new books are [both] fiction.
2.2 彼の新作(二作)は[両方]フィクションだ。
3.1 His new book is [half] fiction and [half] fact.
3.2 彼の新作は[半分]フィクションで、[半分]ファクトだ。
4.1 His new book is [part] fiction and [part] fact .
4.2 彼の新作は[一部分]フィクションで、[一部分]ファクトだ。
5.1 Elephants are [part(s)] long and [part(s)] short.
5.2 象は[一部分]長く、[一部分]短い。
6.1 Elephants are [part(s) of their nose/trunk ] long and [part(s) of their hair] short.
6.2 象は[鼻(の部分)]が長く、[髪(の部分)]が短い。

 これで全く問題無いような気がしてきます。part がいいのであれば、体の一部分である鼻だって全然問題無いように思えるわけです。なぜ問題が有るのでしょうか?
 all や both が代名詞で、同格の文法構造になり得るということなら、別に、half でも、quarter でも、one third や one third part でも、two thirds や two third parts でも、part でも、更には、鼻のように意味的に part になっている語句でも、入れ替えが利くのではないかと、考えるのが普通かと存じます。
 また、もし仮に数量や範囲等の何かを表す名詞以外は駄目という文法が英語に存在する、ということならば、part という語に繋げて句を形成して、鼻等の名詞が part だと意味的に明言するのならば、それで全く問題無いんじゃないかと、同格の構造が取れるのではないかと、発想する学習者がいても、至極普通のことかと存じます。
 そのように言えないということなら、それはなぜなのか、それが明確になっている文法でないと、厳しい言い方のようですが、それは外国人学習者に取っては使いにくい文法だ、という評価にならざるを得ないのではないでしょうか。文法的には正しいがそういう表現はしない、ということなのか、そもそも文法的に非文だ、ということなのか、確認する作業が必要になってきます。

【閑話休題 ノーズかトランクか】

 なお、象の場合、その鼻は、nose でなく trunk といわれるようですが、そのようにいう場合、胴体なのか鼻なのか分からなくなる、ということはないのか興味深いところです。また、trunkについて、下記リンクのように「the long, tube-shaped nose of an elephant」のように説明する辞書があり、そうすると、象の鼻を nose ということはできない、ということとも何か違うことのようにも思われ、こちらも興味深いところです。恐らく、象の場合、trunkを使うのがデフォルトだ、ということかと思われますが、この投稿では、取り敢えず nose/trunk を使います。

【スーパー主語、スーパー述語】

 中国語の場合、「彼は背が高い」式(他个子很高)に言っても「彼は高い」式(他很高)に言っても、どちらも「彼は背が高い」という内容を表すことができるそうです。中国語に詳しくない方にもその文法的な図式が理解できるよう工夫しつつ、逐語的に英語で訓読してみます。

他个子很高。他很高。

 一方、「象は長い」式(大象很长)に言った場合、「象は鼻が長い」式(大象鼻子很长)に言うのと同じ意味が表せるわけではないそうです。ですが、「どんな動物、鼻、長いでしょうか」式(什么动物鼻子长)の質問の答えとしてなら、「象、長いです」式(大象很长)で、「象は鼻が長い」式(大象鼻子很长)の意味を表すことができるそうです。 

大象鼻子很长。大象很长。什么动物鼻子长? 大象很长。

 これは、中国語の「高」という語の中には「背が高い」とか「全高が高い」とかの意味が含まれている、という見方も一つ有り得るのかな、とも存ずる次第ですが、しかしながら、「象、体大きい」式(大象身体很大)と「象、大きい」式(大象很大)とでも、両方「象は体が大きい」(大象身体很大)という内容が表せるので、やはり、そういうこととも何かが違うのかもしれない、という気も致します。

大象身体很大。大象很大。

 単独の「象は長い」式(大象很长)の文だけでは意味が通じない場合がある、ということと、その「大象(很)长」(象は長い)の文法構造がどうなっているかということとは、別の問題です。これと同様に、「僕は鰻だ」「蒟蒻は太らない」「牡蠣(料理)は広島が本場だ」「芸能人は歯が命」「彼女は父親が医者です(注3)」のような文も、それらを外国語に直訳的に置き換えることができない、ということをもってして、問題を複雑化させる必要は無いのではないでしょうか。上記の文における、僕と鰻との意味的関係、蒟蒻と、太らないということとの意味的関係、牡蠣(料理)と広島との意味的関係、芸能人と命との意味的関係、彼女と医者との意味的関係がどうなっているかということと、文法構造がどうなっているかということとは、別の問題であるものと存じます。
 主語と補語(述語名詞・述語形容詞とも翻訳されるもの)乃至は述語との意味的内容は、(何らかの一定の観点、範疇において)一致する、というのが、(その数は措くとして、地球上に存在する、いずれかの言語における表現として)主語と述語との定義における、重要な性質や要件である、と言える、とするなら、日本語は、それには当てはまらない言語なので、主語も述語もないことになります。
 ですが、仮にそれが事実だとしても、言語学の言語類型論のように、地球上の言語を類型的に分類しよう、という立場に立つなら、主語とか述語とかの用語は無いと困るのかもしれません。ですが、同時に、上記の類の文が非文の言語が母語の日本語学習者に、主語、述語という言葉を持ち出すと、混乱するであろうことは明らかです。では、どうすればよいのでしょう。広義の主語、スーパー主語、広義の述語、スーパー述語、広義の同格、スーパー同格とでも、暫定的に敢えて言わざるを得ないのかもしれない、と存ずる次第です。

参考文献:
注1:『Dualウィズダム英和辞典第2版 試用版』三省堂2006

注2:阿川イチロヲ『単純すぎるよ!英文法』アルク2017p179-180
注3:黒羽栄司『現代日本語文法への12の提案』大修館書店1995p167


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