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読書会メモ:ぼくが死んだ日

ぼくが死んだ日、しかし原題は On the Day I Died

そりゃそうだ。英語の一人称は "I" しかないのだから。
邦題で「ぼく」と刷り込まれているので、最初の登場人物マイク・コワルスキくん(16)も死者のひとりだと思いこんだ。しかも第1章タイトルは、彼を墓地へ導いた亡き少女の名「キャロルアン」でなく「マイク」だ。作家も意図してそう思わせているのかもしれない。

十代で亡くなった少年少女が葬られているシカゴの墓地。月明かりがつくるスポットライトを浴びて、霊は順番に自分たちが死んだときの話をマイク少年に語って聞かせる。たとえば、こんな話だ。

第2章 ジーナ(1949-1964)
虚言癖のせいで友だちがいないジーナは、注目されたくてつい話を盛ってしまう。そのせいでまた馬鹿にされて嫌われるという悪循環だ。
転校生のアントニーは、ジーナにだけ邪悪な顔を見せ、自分がはたらいた悪事を打ち明けてくる。ジーナがそれを告げ口したところで信じてもらえないのを承知の上で。
アントニーは映画「オーメン2」(1978)のダミアンのイメージ。トップの画像の彼ですね。幼心に焼きついていたらしく、よみがえりました。

最終章 トレイシー(1959-1974)
トレイシーは母が刑務所送りになり、叔母の家に預けられる。ヴィオラ叔母はゴミ屋敷に住む「雌ブタ女」だが、かつては美女で鳴らした強盗だった!立入禁止の部屋に盗んだお宝を隠しているはず、とトレイシーが忍びこむと……。
ヴィオラ叔母の強烈な個性にくわえて、目指す部屋に入るまでの緊迫感と、そこでの異様な光景。トレイシーもなかなか口が立つので、叔母との言い争いも(最初のうちは)楽しい。

死者の時間は止まったままだ。読者はマイクとともに聞き手になり、それぞれが生きた時代に思いを馳せる。
作中に散りばめられている怪奇小説へのオマージュを拾っていくのも楽しいだろう。

【追記】
読書会ではなぜかカニバリズムの話題になり、盛り上がった。恐怖にもいろんなタイプがあるので、あれが怖い、これが怖いと話してるうちにそうなったのかもしれない。読書会といいつつ、そういう雑談が楽しかったりする。


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