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たけのこの話

今までたけのこと言えば、隣町に住む叔母や近所の人がおすそわけにくれるものだった。それがどういうわけだか、今年は自分たちで掘ることになった。

祖母の家に行った時のこと、姉がたけのこの話を持ち出してきた。祖母の家の裏手の山には昔から竹やぶがあって、たけのこが山ほど採れるのだ。数年前、竹やぶの一部をつぶして、山奥の集落の人たちのために生活道路を作ってからは、昔ほど採れなくなったと聞いている。

それでもまだ少しは採れるかもしれない。そういって、姉と父と連れ立って(すっかり面倒くさがりになった祖母は行かないと言い張った)様子を見に行くことにした。

結果、たけのこは見つかった。数本猪かなにかにかじられたらしき跡はあったものの、何本かは無事立派に生えていた。とりあえず、鍬とバケツを持ってくるため、もう一度出直すことにする。

たけのこを掘る姉のへっぴり腰を笑っていたけれど、実際自分も持ってみたら意外と重くて腰がひけた。力加減とか、持つ場所とか、姿勢とか、そういえば何も知らないなあと気づく。先祖代々農業をしているというのに、鍬の持ち方ひとつ知らないのは情けない気もした。

周りを鍬で掘って、土から引っこ抜く動きを繰り返す。数日前の雨で黒く湿った土はひんやりと冷たい。子どもの頃ならともかく、大人になってから土に触れることはほとんどないので、ちょっと童心に返った気分だった。

とりあえず、バケツ一杯になったところで終了した。たぶん十本近くは採れたんじゃないかと思う。
急な山の斜面、杉林と竹やぶが入り混じっているうえ、長いこと手入れがされていないせいで荒れ放題という、初めてのたけのこ掘りにしてはなかなかハードな場所だった。でも、思ったよりは楽しかったから、また来年も行くかもしれない。

祖母にも少し分けて、あとは家に持ち帰って、皮むきをする。するする細くなっていくのを見るのは面白かった。採れたてはあくがないから水でゆでればいい、と祖母の言葉に従ったものの、普通にえぐみが残っていた。おばあちゃん……。

結局、もう一度米のとぎ汁でゆで直した。その日作ったのは、酢味噌和え、若竹汁、土佐煮。我ながら上手に味付けできたので嬉しい。新鮮なだけあって、食感と香りがすごくいい。春だなあと思う。
残りはだしで味をつけておいて、冷凍した。たけのこご飯とか、筑前煮とか、チンジャオロースとか。当分はたけのこが楽しめるとほくほくする。

後日、母が近所の人に教えてもらったという、たけのこの味噌汁を作ってくれた。味噌は赤だし、具はたけのことねぎで、最後に卵を溶いておわり。昔祖母が作ってくれた味噌汁のような、なんだか懐かしい味がした。

初物を食べると、寿命が七十五日伸びると聞いたことがある。実際、旬のものを食べると人は元気になる。あながち嘘じゃないかもしれないと思いながら、今日もたけのこを食べる。







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