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攻めのMUC、さらなる次元へ。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』

※本作は何を語ってもネタバレに抵触し、公式が箝口令を敷いた一作です。鑑賞前の閲覧はオススメいたしません。

 思えば、『アイアンマン』を新作1泊2日でレンタルしたのは10年も前のこと。まさかここまで壮大かつ、前人未到のエンターテイメントに発展しようとは、想像もつかなかった。

 複数のアメコミヒーローが一つの世界観を共有し、やがて強大な敵に合流して立ち向かう。『アベンジャーズ』を筆頭に、作品のユニバース化(連続ドラマ化)の元祖にしてその後の映画界の潮流を造り出した記念碑的シリーズ。その10年の集大成にして、全18作品の総まとめとなるのが本作『インフィニティ・ウォー』である。

 本作では、過去作でも暗躍が仄めかされていたサノスがついに本格参戦し、宇宙を揺るがす力を持った≪インフィニティ・ストーン≫を巡って、地球と宇宙のヒーローが集結して立ち向かう、というのがおおまかなあらすじだ。シリーズの中で度々登場していたキーアイテムが争いの対象となり、それにより複数の作品のキャラクターが合流し手を組む流れを、いたって自然に受け入れてしまう辺りは、マーベル・スタジオの手のひらで踊らされているようでもあり、とても愉快だ。

 何せ本作は2~30名近いキャラクターが勢揃いするため「見せ場」に事欠くことがなく、アクションやコメディの細部に至るまで、クロスオーバーの旨みがぎっしりと詰まっている。誰かがピンチに陥れば必ず誰かが加勢に入ったり、新スーツの能力でまさしく“蜘蛛”になったスパイダーマンと、魔法で分身したドクター・ストレンジが摩訶不思議な映像技術でサノスに立ち向かったりと、ヒーローたちの能力や個性を浴びるように見せられては、楽しくないわけがないのだ。

 そんなヒーローの魅力つるべ打ちに匹敵する魅力を兼ね備えた悪役、かどうかは議論が別れるところであるが、本作は間違いなく「サノス」の映画であることは、本編を観た方なら異論はないであろう。故郷の星を救えなかった過去から、宇宙の均衡を保つために生命の半分の間引きを企むサノス。これは、古きボンド映画の悪役などにも見られた、人口増加に伴う資源難への過激な対応策として使い古された思想で、MCU総決算を飾る悪役の動機としては、新鮮味に欠けるのが正直な所感である。

 とはいえ、MUCの攻めの姿勢を一手に体現するのがこのサノスであり、冒頭からアスガルドの民はもちろん、ヘイムダルやあのロキを殺害するという衝撃の幕開けからスタート。その後もガモーラを手にかけ、ラストにはついに野望成就を成し遂げ、アベンジャーズメンバーを含めた全人類の半数の消滅を成し遂げてしまう。

 全18作まで肥大化し、一見さんお断りであることは避けられなくなったMCUにおいて、愛すべきヒーローですら容赦なく間引きされ、観客にその後の展開の予想などさせず、強引なまでに宙ぶらりんの状態にしてしまう。無敵のヒーロー同士が手を組んで強大な敵を打ち倒す、そんな当たり前の起承転結から得られるカタルシスすら一度は否定し、完膚なきまで観客を絶望の淵に叩き落とす。そんな芸当が出来るのも、このユニバースに絶対の自信を持ち、そして成功させてきたマーベル・スタジオの度胸あってのものだ。

 もちろん、その試みの是非は賛否が別れるのは必至で、続く『アベンジャーズ4』の出来如何によっては、大いなる炎上の火種にもなりかねない、恐ろしい企みであると言える。それでも、終わりに向けて一歩ずつ歩を進めていく壮大なアメコミ映画シリーズが、一体どんな着地を見せ有終の美を飾るのか、目が離せなくなるのは間違いない。単独の作品としては有り得ない作りの一作ながら、MCUでしか観られない驚異の意欲作。今後の期待値を過剰なまでに底上げしてくれる、悩ましい一本であった。


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