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『十三機兵防衛圏』絡み合う運命と浪漫に殴られて、おれは最終決戦に臨んだ。

 もしタイムマシンが目の前にあるとしたら、おれは過去のおれを殴りたい。『十三機兵防衛圏』を気になりつつスルーし続け、switch版を予約してまで買っておきながら数か月間も未開封のまま放置した、愚かな自分を。

 そして今、朝が辛くなるほどのレベルで睡眠時間を削り、余暇時間のほとんどを費やしたことで、ようやく結末までたどり着いた。UIに表示される到達度は100%、遊びつくしたと言っていい。ところが、おれは『十三機兵防衛圏』の全てを理解しているとは到底言えないだろう。時代も場所も超えて複雑に絡み合う群像劇の妙、決死の闘いに臨む少年少女たちの想い、背景の隅々に至るまで描きこまれた世界観、男心くすぐる巨大ロボットの浪漫……。ありとあらゆる要素に手抜きがなく、作り手の「狂気」にも似た執心が滲み出た本作をおれの小さな脳みそで味わい尽くすのは不可能だ。ただそれでも、このこんがらがった頭の中の言葉をアウトプットしなければ今度はおれが狂ってしまうので、絞り出してみようと思う。

 なお、本作は発売から時間が経っているし、すでに多数の論者によって語り尽くされているだろうから、ありのままを書く。ゲームシステムの解説などは最小限だし、本作をまだ遊んでいない人には全く優しくない文章になるだろう。だから、こんなもの読んでる暇があったら今すぐ町のゲームショップに駆け込んで「十三機兵防衛圏をください」と店員さんに叫んでみろ。後は流れのまま、1985年に戻ってこい。

 何も恥じることはない。「十三機兵防衛圏を知らない」ということは、すでに味わい尽くした者からすれば羨望の眼差しで見られるだろう。おれも願いが叶うのなら記憶を消してもう一度プレイし、その様子を録画した映像を観たい。人間、一度触れてしまえば「知らない」という状態には戻せないのだから、十三機兵が初見という圧倒的有利を行使してほしい。だから買え。これはおまえのために言っている。

 本作『十三機兵防衛圏』のレビューは、「十年に一度の傑作」のように持ち上げられるか、「狂気」「異常」といったパワーワードで舗装されていることがほとんどだ。大抵の場合、また悪いインターネットの文章だ……と辟易するものだが、こと本作においてはこれらの言葉は一切盛っておらず、むしろこれ以外の言葉が見つからないレベルの「奇作」という評価に落ち着いてしまうのだと、プレイヤーのほとんどが遊び始めて数時間で気づき始める。

 遊びの根幹のADVパート一つとっても、プレイヤーにまず提示されるのはヴァニラウェア謹製の淡い色彩が印象的な一枚絵のグラフィックと、その世界で多彩なモーションとボイスを伴って生きる少年少女たちの姿で、これだけで思わずうっとりしてしまう。絵画の“静”美しさを眺めるような感動と、作画がよく練りこまれたアニメーションの両方を一緒に浴びるような贅沢な鑑賞体験は、20時間を超えるプレイの中において一時も色褪せることは無かった。

 キャラクターの実在感を裏打ちするモーションやボイスについては、物語の中心を担うネームドのキャラクターのみならず、背景で生きるモブキャラにまで徹底されている。例えば、主人公が何気なく街中を歩いていると、バス停でバスを待つ女子高生だったり、部活をサボって校庭で駄弁っているボンクラ男子学生の何気ない雑談がふとした瞬間にさり気なくインサートされる。この介入が自然というか、本作における「周囲の人々の言葉が耳に届く」表現のきめ細やかさは、これもまた周到な計算の下に配置された演出なのだと悟ることになる。しかもそうした何気ない会話を拾っていくとバラバラだった物語の羅列が一本の線で繋がるというのだから、一体どれほどの検証を経て紡がれたんだと思うと、気が遠くなる。

 物語上、様々な時代を行き来することもあり、時には人類文明が崩壊した未来を訪れることにはなるが、やはりプレイヤーの印象に強烈に焼き付けられるのは、1985年のあの風景だろう。授業から解放された放課後という短くて尊いあの刹那の煌めきは、思わず泣きだしたくなるほどの強烈な郷愁を誘う。かび臭い旧校舎、友人と買い食いして帰った日の夕焼け、深夜のB級映画を3倍録画したビデオテープ。筆者は1985年には産まれていないが、その時代の遺産(レガシー)に触れて生きてきた。だからこそ、本作は「懐かしい」「知っている」という感情を何度も喚起させ、そこで描かれるジュブナイルに心惹かれてしまう。本作が醸し出すノスタルジアは、私という普段は名もなきモブとして埋没している成人男性を、「巨大ロボットに乗って怪獣と闘う10代の学生」のメンタルへと変容させるのだ。

 そして何よりも驚いたのが「セリフおくりがオートなのがデフォルト」という点だ。本作は会話が表示される「ウィンドウ」が存在せず字幕だけが宙に浮かぶような表現をしているが、そこに機械的な印象を抱かせるUIの存在を挟まなかったのは英断だ。そして、オートにおけるセリフとセリフの間には機械的な“間”がなくスムーズに流れていくので、感覚としては字幕付きでアニメを観ているのと近い印象を受ける。ソフトに内蔵された解説書を読むまでオートのon/offを切り替える設定に気づかなかったくらいには、本作のセリフの応酬は自然で淀みないし、従来のADV同様にボタン入力で先送りする設定にしても「セリフを先送りするSEがない」ことには世界観に没入させるための強いこだわりを感じずにはいられない。

 これらのこだわりが物語を“読ませる”ために効果的に作用し、世界観を崩さぬまま高いユーザビリティを確保したシステム面に続き、本作の“狂気”の最たる部分を占めるのが、肝心の物語だ。始めこそタイムトラベルを駆使したSFジュブナイルの顔をしていた本作は、読み進めていく内にちょっとどうかと思うレベルで広大な風呂敷を広げ始め、綺麗に折り畳んでみせた。こちらの焦りを物ともせず、何食わぬ顔で。

 一人のキャラクターにつき、いくつかに細分化されたエンディングに至るまでの所要時間は10~20分程度で、全ての分岐を解放していくことでストーリーが進行し、時には関連するキャラクターの物語の続きを読むためのロックを解放することもある。そして、十三人の主人公の物語は基本的にどの読む順番に制限はなく、プレイヤーが任意に好きな主人公のストーリーにアクセスできるシステムになっている。

 今、どのニュースサイトにも載っているような本作の基礎を書き記してみたが、これがどんなに異常なことなのかは、ゲームを遊んだ方々ならご理解いただけるだろう。あるいは、一度でも創作に励んだことがある人なら、この途方もない「到達」に畏怖せざるを得ない。

 例えば、複数の主人公のシナリオをザッピングして読み進めるタイプのADVならば、おれの浅いゲーム経験値だと『428 〜封鎖された渋谷で〜』が思い浮かぶ。こちらはとある渋谷の街を舞台に6人の人間の運命が交差するという物語で、独立していた各々のシナリオが時に絡み合い、最終的にはより巨大な輪を描いたことにとてつもない感動があった。ところが、本作の場合は「主人公が十三人いる」「時代や周回が異なる物語が散りばめられている」という状態で「プレイヤーが好きに読み進められる」を実現している。端的に言って、めちゃくちゃヤバい。なぜこんな複雑怪奇な要件定義が本当に実現しているの?ナンデ????

 本作のシステムは、思いつきはすれど実際には作らない/作れない代物だ。実は一本道のシナリオだが過程はプレイヤーごとに異なるというRPGにも似た工程を歩ませるADVは、プレイヤーに自由度を与える量に比例して作り手の負担も増えていく。どの順番で読み進めていっても矛盾がなく、それでいてプレイヤーを混乱させずに、毎話必ず強烈なフックを残す短いシナリオを複数用意して、それらを十三人分絡ませる。

 おれがもしゲーム会社の重役だったなら、こんな企画書にはそう簡単に承認印を押すことはないだろう。製作にかかる期間と予算は膨大だろうし、一旦取り掛かっても「出来ませんでした」では話にならない。そのリスクを負う選択を取れるほど、おれは勇気ある人間ではない。ところが、実際に完成したゲームを遊べば、それらの不安は全て杞憂だったのだ。最初はバラバラだった物語はいつしか相互作用を起こし、たった一度の最終決戦に向けて謎を振りまいては回収し、を繰り返して、全てを読み終えたころには巨大なジグソーパズルが完成し『十三機兵防衛圏』という名の額縁に一切のスキマ無く綺麗に収まっている。シナリオパートにあたる「追想編」を読み終えた時、おれは達成感と同時に本作の偉業を表す言葉が見当たらず天を仰いだが(そして天井のシミと目が合った。和泉かもしれない)、たぶんモーゼの十戒を見た人もそういう反応だったと思う。おれは今、奇跡を見たんだ。

 物語を味わう「追想編」からは独立しているようにも思える「崩壊編」だが、もちろんこれも『十三機兵防衛圏』の物語において欠かすことのできない瞬間を切り取ったパートだ。私含め多くのプレイヤーはADVの箸休めに遊んだり、あるいは物語の進行のロックを解除するために訪れるなどのプレイスタイルを取ったのではないだろうか。ところが、物語を読み進めていく内に「崩壊編」とは十三人の少年少女たちにとっては“現在”であり、かつ“もう後がない最終決戦”であることが明かされていく展開は、実にドラマティックだった。

 そしてまぁ、このストラテジーパートも私にとっては“異常”に楽しかった。スパロボめいた必殺ムービーのない、その実とても簡素な見た目をしていても、その中で進行する状況は常にスリリングで、絶望的な戦況を戦略と圧倒的火力で一転させる、そのカタルシスにずっと惚れ惚れしていた。ロボットアニメの主人公になりたいと願ったことはあるか?おれはある。そして今、この『十三機兵防衛圏』というゲームが、かつての少年の淡い夢を叶えてくれたのだ。

 こちらの防衛拠点であるターミナルに向かって地上を、大空を埋め尽くさんと進行してくる怪獣たち。それに対しこちらが一度に出撃できるのは6機まで。多勢に無勢すぎて敵うはずがないと諦めムードが漂うが、本作は難易度の勾配が巧みなので考えて遊べばちゃんと活路が見いだせるバランスに仕上がっている。小型怪獣はミサイルで焼き尽くし、空を飛ぶいけすかないキャリアーはEMPで地面をナメさせて、やたら硬いアーマー持ちには鉄の拳を何度も何度も打ち付ける。バリアで防御を固めたり、囮を設置して敵の攻撃を逸らしたり、敵のミサイルをチャフで混乱させることも出来る。

 “自分でロボットアニメを再演する”醍醐味においても、本作はパーフェクトだ。高火力で一騎当千するもいいし、泥臭くインファイトに持ち込んでもいい。厄介な武装や特性を持った敵怪獣(というか敵機体)に対し、思いついた戦略が上手くハマった時の快感は、それ単体で病みつきになる中毒性を秘めている。しかもとある場面では「アイドルのポップソングに乗せて敵ボス機体と真正面からぶつかる」という『マクロス』すぎる展開があって、switch本体よりもおれが熱暴走しそうだった。おれはあの瞬間確かに火曜18:30にテレビ東京系列で放送されていたアニメ『十三機兵防衛圏』の主人公だった。ハードSF路線がいきすぎて子どもたちの好評を放送当時得られなかったが10年後とかに再評価されてBD-BOXが出るタイプのアレだ。というか機兵のデザインが『ロボ・ジョックス』×『パシフィック・リム』の時点で燃えないやつはオタクじゃない。

 その爽快感を支えるのはシチュエーションもそうだが、SEの存在が大きい。小さな怪獣を対空砲火すればプチプチと潰れるような音が、デカブツをスクラップにすれば花火のように砕け散り、散らばったメタチップがこちら側に吸収される。き、キモチイイ~~~~~~~~~!!!!!!!!!!

 全ての戦場、全ての状況に浪漫とアツさが燃え滾る「崩壊編」は、まるでおれが小学生の頃、退屈な授業中に窓から眺める風景に勝手に『エイリアン2』のパワーローダーを脳内合成して『スターシップ・トゥルーパーズ』のバグと闘わせたあの妄想の風景を、そのままゲームに落とし込んだような錯覚を受けた。よもや、ボンクラ男子の頭の中をこんなに高解像度にトレースしたゲームに出会えるなんて、オタクを続けてきて良かったと思う。

 ここからはもっと個人的なインプレッションに踏み込んで、十三人の少年少女について書いていこうと思う。もちろん、ネタバレありきだ。

【繰リ返ス】
ネタバレしかない
【強調スル】

鞍部十郎

 ゲームを始めた多くの人が最初に選択するであろうパッケージのセンター人にして、「みんなから和泉と呼ばれている」「仲間たちを皆殺しにした過去を忘れている」などの怪しさ満漢全席のこの男。そんなナリなのに「広いお屋敷で一緒に住んでいる祖母が旅行で不在中に女の子が押しかけてくる」とかいうラノベ属性まで盛られるからもう大変。十郎の貞操やいかに!?となったところできな臭い諸々が明かされていく、実はオーソドックスなシナリオに。

 また、本作の面白すぎるセールスポイントとして「世界の周回によってカップリングの組み合わせが変わる」というものがあり、その世界のカラクリを知らされる前に彼のシナリオを読むと、まったく別の存在だが容姿と名前が共通の人間が女子をとっかえひっかえしているように見えてしまい、認知がバグる。

 とはいえ、和泉十郎という世界の真相に最も近い存在を内包しつつ、意識を乗っ取られることないまま“鞍部”十郎を貫き、愛する者をちゃんと自覚した上で戦場に赴く、やっぱり主人公オブ主人公だった。

薬師寺恵

 このゲームを遊んだ人の9割近くが「暁美ほむら」を連想させずにはいられないやべーやつ。十郎の家に押しかける強引なところも、なんだか状況をよくわかっていない東雲先輩を煽るところもスゲー強者のオーラ醸し出すのに、クラスメートの彼女に対する認知は「王子様を夢見るふわふわ娘」らしくて、わけがわからなすぎてキュウべぇの顔になる。

 ゆくゆくは過去の周回通りに鞍部十郎のカノジョになるのだけれど、よくよく真相を見返していくと恵の親代わりを務めた和泉十郎の記憶を受け継いだ鞍部十郎のカノジョということになっていて、ちょっと頭おかしくなってくる。ハンバァグの作画がエグい。

冬坂五百里

 『十三機兵防衛圏』の物語の難解さを引き上げた元凶として有名。……いや彼女のシナリオ自体は爽やかなボーイミーツガールなんだけど、「森村千尋」という謎のスパイスをぶち込んだ結果、鍋の中がとても形容しがたい料理になってしまったような、そんな取返しのつかなさだけがある。

 本作の基本ルールとして「記憶を取り出して別の肉体にインストールできる」だとか「疑似人格を生成できる」といったものがあり、冬坂も他の何人かの登場人物同様に森村千尋を存在させるための器なのだけれど、当の森村=サンがわりとコロコロ計画を変えたり自分に殺されたりするので、結果として生き延びた冬坂という個人が関ケ原クンを追って爆走する……みたいな運命に結実していて、本人の言葉を借りるなら「無敵の女子高生」そのものである。

関ヶ原瑛

 そんな冬坂さんのマジLOVE1000%熱視線を受けるイケメンが彼。身に覚えのない殺人事件の犯人として追われ、前回ループの闘いでの戦犯としても追われたりと苦労人すぎるところばかりクローズアップされる。他の主人公のシナリオにもよく介入し、意味深なことを言って助太刀したり立ち去って行ったりを繰り返すミステリアスさが印象的だったのに、いざ当人のシナリオを進めると「記憶喪失で……」から始まるのでズッコケた。しかしそれでも株が下がらないくらいには顔がいい。CVが浪川大輔。

 元いた世界では東雲先輩と幼馴染だったらしく、ちょっとおねショタ要素も匂わされるが、当の東雲先輩もアレなので、まぁその、よかったね……。

三浦慶太郎

 太平洋戦争真っただ中の1945年から転移してきた、いかにもな恰好の日本男児。誠実さと礼儀正しさを持ち、日本国のために粉骨砕身致す!みたいな気風も清々しい男。彼のシナリオははぐれてしまった妹の千尋を探しつつ、目前に迫る本土決戦に向けて真実に近づいていく、という内容なのだけれど、いつの間にか奈津乃サンと恵が作るハンバァグにメロメロになってしまうお茶目なところもいい。とはいえ、最終的に迎える彼の顛末については、結構ビビる。というか奈津乃、生身の肉体がある頃のカレシと機械の身体になったカレシの両方と一緒に時間旅行(実はセクターを移っただけだが)をしていたなんて、真実を知ったら泡吹いて倒れると思う。

南奈津乃

 しょっちゅうブルマで走り回る快活な陸上部員、でもSF・UFOマニアとかいう、オタク特攻兵器すぎる女。十三機兵の新条アカネ。いい加減にしてほしい。そうやっていたいけな思春期のオタク男子の繊細な心に一生抜けない楔を刺したままどっか行くな。あとそのバッグの中身は何だ。怪しいモノでも入れてるんだろゲヘヘ……って不用意に近づくとドローンになったカレシが出てくる。こえーよ。

網口愁

 家が金持ちで現行のビデオゲームハード全部持ってて家がおしゃれなプレイボーイなのに陰キャのおれくんにも分け隔てなく優しい男!!!!!!!!!ウワーッ好きだ!!!!!!!!!!!!!

 というパーフェクトヒューマン網口なのだが、当の本人はスケバン鷹宮にご執心。そのさり気ないモテ男テクニックで彼女とおれクンのハートをわしづかみにしていくのだが、実は彼も冬坂=森村ロジックが敷かれており、「井田鉄也」なる人物の器として生まれた経緯がある。この井田氏、「自分に好意を寄せる東雲パイセンを利用しながら」「死んでしまった前ループの如月を人間として復活させるために今ループの如月の肉体を狙う」という邪悪ムーブを発揮しており、救いようのない外道なので「理解のある網ピは一体どこから……?」とおれの精神を困惑させてくれた。なんなんお前。今度一緒にスマブラやろうぜ。

鷹宮由貴

 実は『十三機兵防衛圏』を買う一番の動機だったのが彼女の存在。スケバン衣装でCVが小清水亜美さんという、あまりに『キルラキル』すぎるキャラクターが目に入った瞬間、おれは瞬時にソフトを予約した。結果こうしてドハマりするゲームに出会えたのだから、キルラキルはいつだって正しい。

 んで、当の本人は幼馴染である奈津乃の行方を追いながら、特務機構のエージェントとして東雲先輩と一緒になんかやるという、苦労人枠である。その傍らで現ループの網口ともイチャコラしやがって、大変目に優しい。持前の腕っぷしの強さや優しさ、奈津乃にとっての王子様のような格好良さを持ちながら、時折見せる網口への焼きもち焼きなところがもうね、絶品。

緒方捻二

 キミ『ペルソナ4』にもいたよね!?ってなった人も多いって聞いてますよ、捻二クンです。

 彼のシナリオは「必ず怪獣がやってくる未来を前に、如月兎美を生還させるために何度も繰り返す」というループもので、駅というシチュエーションも相まってどこか『ミッション: 8ミニッツ』風味。本作の「クラウドシンク」というシステムが最大限に魅力を発揮するシナリオでもあり、前周で獲得した情報を元に行動やリアクションを変えれば正解にたどり着けるパズル的な面白さがあり、他のシナリオよりもゲーム性が高くてつい熱中してしまった。

 しかもその上、捻二クンが如月兎美を守る動機ってのが、これまた、ねェ、青春してるんスわ……。いつもスカしてるし年相応にちょっとスケベだけど義理人情に厚いヤンキーが愛する女のために勇気を振り絞るのは、どの時代でも格好いい。機兵登場ムービーのアツさは作中屈指だと思う。

如月兎美

 すでにクリア済みの方ならば、私が意図的に、この順番で彼女の名前を出してきた意味がわかると思います。前述した「世界の周回によってカップリングの組み合わせが変わる」の影響を最も受けた人であり、その運命の数奇さに思わず真実(マジ)かよ!?と戦慄(おのの)きました。

1)×井田鉄也
 元いた世界では歌ってみた動画投稿者だった兎美は、いつも応援してくれる常連のリスナーに励まされて活動を続けていた……のリスナーこそが井田氏というわけで、アイドルとファンが付き合っちゃった!みたいな交際に至るわけですが、最終的に怪獣に敗北した挙句に井田クンがマッドになってしまい、如月の記憶データをドロイドに移植して蘇生(?)。しかしそれでは人間・如月兎美の復活には至れないため、井田は現ループの如月の肉体を狙って暗躍する……というめちゃくちゃ怖いシナリオに発展する。愛する者を喪った者はたいてい尖った行動に出ることの多い本作の中でも、わりとキツい方面に。

2)×緒方捻二
 前ループの如月は井田からの熱視線を逃れるため「因幡深雪」というアイドルとして活動し、テレビを通じて井田の分身である網口に助けを求める。一方、現ループでの如月はなにかと自分のことを気にかけてくるツッパリにメロメロになっちゃったのである。というか、緒方クンの精神世界で繰り広げられるループ自体が「如月兎美を救う」ことが目的として設定されているため、もうこれ両想いじゃんってなる。両想いじゃん。

東雲諒子

 東雲先輩。なんかこう、彼女の話をするとなると姿勢を正さねば、みたいな気持ちになってしまうのは何なんでしょうね。

 色白で幸薄そうで包帯巻いていて、というどこに出しても恥ずかしくないくらい「綾波系」な見た目をしているが、強烈さはアイツを越えてると思う。なにせこの物語における“業”と呼べるほとんどをその細い身体に背負っており、ある意味で全ての元凶に近い存在でありながらそれを忘れているという、この、何!?と言いたくもなるくらい物語の湿度が高い。

 しかも口を開けば「飲み物なんてなくても薬くらい服用できるわ。子供じゃあるまいし」とか「うそよ。薬で私をおかしくさせた」などのパワーワードを残し、機兵に乗るといつもより好戦的になる。ラムネ感覚で薬飲んで、廊下を歩くだけで周りからめちゃくちゃ心配される、ちょっとヤンデレ入ったCV:早見沙織、なんでこんなに面白いんでしょうか。

郷登蓮也

 お顔良子枠(顔がいい人の意)その2。このヴィジュアルでCV:福山潤はズルじゃん、と誰もが思う。

 しかし彼のシナリオは物語全体の謎への回答編という性質があり、情報量や重要な回想が多いためとにかく難解であり、そのしわ寄せとして彼単体の掘り下げは他のキャラと比べて少し浅い印象を受ける。

 そんなお堅い容姿と物語からは予想できない程に実は熱情家で、実は森村先生に好意を抱いていたり、しかも最終的に東雲先輩とイイ感じになったりする。女性選びに幸せになれる素養がまったくない!!!!!と本編の外で笑いを届けてくれたナイス参謀である。たぶんキミの運命の相手はミワちゃんだ。

比治山隆俊

 ……の話をする前にもう一人、どうしても外せない人物がいる。

 沖野司だ。

 機兵の開発者にして未来人。未来での闘いに破れた後は「堂路桐子」の名で女装男子として潜入していたが、そこで出会った比治山に一目惚れされることになった。

 で、比治山隆俊の話をするにあたって「沖野司」の名前が外せないのは、比治山シナリオが徹頭徹尾「沖野を探す」ことで物語が進行するからである。三浦と同じくお堅い大和男児として現れたはずなのに、いつしか学校に落ちている小銭を拾い集めながら焼きそばパンを買い、女装男子の尻を追いかける羽目になるなんて、運命って不思議ですよね。怪獣の襲撃によって人生を狂わされ(東雲パイセンのせい)、その後は沖野によって性癖をバキバキに捻じ曲げれるという、東雲先輩に引けを取らない面白さで芸術点を稼いだ。

 ……が、最終的には沖野もまんざらではなかったのか相思相愛になり、通話ごしでイチャイチャするムービーを見せられるのでトータル一番幸せなフィーリングカップルだったのかもしれない。

おわりに

 ここまで『十三機兵防衛圏』とおれを振り返ってきて、頭の中に浮かんでくるのは「感謝」の一文字だ。

 公式からこういう裏話が出ている通り、本作の「産みの苦しみ」たるや、想像を絶するものがあったはずだ。神谷盛治氏をはじめとする多くのスタッフが、サブカルチャーへの情熱とSFへの理解をこめて作品に挑み、そしてそれを完成に導いた。その原動力はひとえに「愛」と呼べるものに相違ないが、外野から見ればそれは「狂気」に他ならない。繰り返しになるが、自由度の高いゲームは「作るのが難しいゲーム」とイコールになるはずだ。発売後のイベントにて公開された“聖典”を見た時、背筋が凍った。おれはこの物語をまとめ上げられるだけの根性も理性も狂気も持ち合わせていない。だから、おれはただただお客さんとしてこのゲームを無邪気に楽しめる立場でいられて、本当に良かった。

 強引に難点を挙げるとしたら、「続編が望めない」ということになる。こんな複雑な工程と検証と膨大な時間を必要とするゲームを、おいそれと量産は出来ないことくらい素人の私にもわかる。だからこそ、「十三機兵みたいなゲームを遊びたい」に対するアンサーが思い浮かばないことが、自分のゲームへのアンテナの低さを物語っているし、同時に「こんなヤバいゲームがたくさんあってたまるか」みたいな気持ちになってしまう。

 『十三機兵防衛圏』が成し遂げた奇跡は、まだ上書きされてほしくない。

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