無題

『仮面ライダージオウ NEXT TIME ゲイツ、マジェスティ』を祝いたい。

 元号の私物化著しい問題作にして記念作『仮面ライダージオウ』は、仮面ライダーという屋号を共有した数多の物語やキャラクターを一度は統合させ、そして自ら破壊し新しい歴史を紡ぐという壮大なメタ展開で視聴者を翻弄し、平成ライダーは次の時代へバトンタッチを果たした。かに見えたが、平成ライダー恒例行事「放送終了後のVシネマ」がまだ残されていた。小説版もいずれ発刊されるだろう。ジオウはまだまだ現行ライダーである。

最善最高の魔王が新たに創造した世界で、ソウゴやゲイツ、ツクヨミたちは平和な高校生活を送っていた。柔道でメダルを取る夢のために練習に励むゲイツだったが、大学への推薦がかかった大事な試合で負傷し、選手生命を絶たれてしまう。落ち込む彼の前に現れたのは消滅したはずの白ウォズで、「救世主としてオーマジオウを倒す」未来を語り掛ける。未来のソウゴの命を受けて現れたというカッシーン、さらに海東大樹も現れ、誰も知らない時間が紡がれていく。

 TVシリーズのその後を描く物語としてついにソウゴが創造した新世界が舞台となる本作。観れば誰もが思うとおり、まるで『仮面ライダーゲイツ』の1話があったら…を実現させたようなシチュエーション満載で、ゲイツ当人の変身を中盤まで引っ張るという大胆な構成が光る。ごく普通の高校生となった明光院ゲイツ・ソウゴ・ツクヨミが常に三人で登校や休み時間を共有したり、オーラやウールも和気あいあいと学生生活を楽しんでいるようだ。そんな折、あの白ウォズが現れゲイツのライダーへの覚醒を促し、この新世界でもソウゴが最低最悪の魔王になる可能性を仄めかす。そんな未来を打ち砕くため、「救世主」になるための覇道を突き進む決意を決める、これが『ゲイツ、マジェスティ』の物語である。

 なぜ今一度ゲイツの物語が紡がれるのか。商業的な理由はさておき、この点において本作は素晴らしい回答をたたきつける。TVシリーズのゲイツは「オーマジオウを倒し平和な未来を取り戻す」ために2018年にやってきた未来人だったわけだが、新世界ではソウゴらと同じ時間を共有するごく普通の高校生である。その新しい世界でも変わらずソウゴの夢は「王様」で、ツクヨミもやりたいことを見つけていた。そんな中、ゲイツは柔道に全てを費やしていたが、その道を閉ざされてしまう。「ゲイツやツクヨミたちがいない世界で王様になっても意味が無い」というソウゴの宣言において生まれた新世界において、ゲイツは倒すべき敵(オーマジオウ)も、追うべき目標も夢も設定されていなかった。

 だからこそ、本作はそこに焦点を当てる。なぜ柔道を始めたのか。メダルを取ることだけが夢だったのか。いや、柔道を通じて強くなりたいと願ったその原点に迫り、ゲイツが彼自身に宿る想いに気づきライダーへと変身する。歴代2号ライダーの力を継承する新フォームを獲得するゲイツだが、そのドラマの積み重ねや熱さは主役ライダー級。「覚悟が足りない」と呆れられ続けたゲイツが、ケガで弱った心に再び火を灯し仮面ライダーゲイツへとなる流れは、これまでのVシネマ作品と比べても突出した燃えポイント。本編の余韻を崩すことなく完成度の高い物語を打ち出してくる、理想の続編であった。

 『ジオウ』ならではの客演も見逃せない。何やらゲイツの周りをチョロチョロと動き回り制服姿まで披露する海東の胡散臭さ、短い登場シーンながら「草加節」満載の台詞回しがたまらない村上幸平氏、少しチャラくなってもやっぱり格好いい伊達さんバースなど、ファンサービスたっぷりにジオウ世界に通りすがる。

 中でも出番が多いのが推しの照井竜=仮面ライダーアクセルで、登場シーンの多さもさることながらゲイツを導く良き先輩ムーブを披露し、ゲイツとのダブル必殺技も用意されている。その上、「所長」やおなじみのキメ台詞、一瞬だけ映る「風車」などなど、明らかに破格の扱いで風都民は思わず親指立ってしまう。『仮面ライダーチェイサー』の客演も大変贅沢なおもてなしだったが、『W』の根強い人気を平成最後の作品で感じさせてくれたことが何よりもうれしい。

 平成ライダー最終作ならではの祝祭感溢れるゲイツマジェスティの、「ライダーの名前順に言っているだけなのになぜか荘厳」な変身音は劇場でこそ衝撃度を増し、一年間の撮影を通して達者になった役者陣の演技もたまらない。完結した物語のその後のVシネマという括りにおいても良質で、思わせぶりなラスト含めもっと『ジオウ』という平成の残り香に浸っていたくなる良作であった。次はウォズか、それとも「仮面ライダースウォルツ」か…。

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