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【連作短編小説】月が変わるとき

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【連作短編小説】月が変わるとき③

【連作短編小説】月が変わるとき③

ライブと銃とCD1:宮本亜紀智

「お前の曲なんか、誰も覚えちゃいない、みんな消失のことしか考えてない」
 そう言ったとたん、拳がとんできた。言った男はめまいを感じた。それほど、そのパンチは強かった。
「なにすんだよ」
「黙れ」二発目が飛んできた。こうなると殴られたほうも黙っていない。
つかみ合いの喧嘩になった。
 二人を引き剥がすのに、男が六人必要だった。

「仕事中になにやってんだ」
 所長が

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【連作短編小説】月が変わるとき②

【連作短編小説】月が変わるとき②

2:サーチ・アンド・デストロイ

 〈月替わり消失下〉における犯罪への対応は、サーチ・アンド・デストロイだ。

 「犯人の追跡中に、消失してしまったら、どうしようかと、考えたことはありますか?」
 くだらない質問だ、と木暮裕司は、心の中でツバをはいた。
 おっと、やばい。人工知能とは仲良くしないと。
 「それはあり得ない。知っているだろ、人間は、月替わりのときは活動しない。おうちでおとなしくして、

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【連作短編小説】月が変わるとき①

【連作短編小説】月が変わるとき①

いつから始まったのか、月が変わると人が消失するようになった。原因は不明。解決策もなし。人はただ祈るしかない。

1:家族

 大石は時計を見た。
 20××年4月30日 23:57
 あと3分ほどで、月が変わり、5月になる。
 また、このときがきてしまった。
 大石はいま社長室にいる。社長室とはいっても一般のイメージとは違い、飾り気のない、ただの個室だ。社員13名の、コンサルティング会社を若干27

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