僕の自己紹介(ショートショート)
あ~っ。
僕は大きなあくびをした。
ドカッとベッドに身体をまかせ、ちらりと覗いたアプリが面白すぎて、つい、後追いしてしまい、気付いたら夜中の2時を回っていた。
いい加減、寝ないといけない。
僕はスマホの電源を切り、裏返して枕の隣に置いた。
でも、今まで白っぽい光を眺めていたせいか、目をつぶってもまだその残像が僕を寝かせてくれなかった。
やがて僕は別世界へ落ちていった。
大音量の目覚ましで僕はたたき起こされた。
首の周りが痛い。肩の凝りも酷い。
多分、3時間も寝ていないだろう。
僕は目覚ましのスヌーズ機能をタッチして、毛布を頭からかぶり、8分間、惰眠を貪った。
4回目のスヌーズで、いい加減起きなきゃと観念した。
冷蔵庫から食パンを2枚出し、マーガリンを塗り、ハムとチーズを挟んでかぶりついた。
時間がなくても、なるべくたくさんの種類を食べる。
これはおばあちゃんが昔、良く言っていた。
1ℓの牛乳パックに口を付けてそのままガブリと飲んだ。
口の周りが白くなりこぶしでふき取る。
取りあえず命を繋ぐ食事はできた。
簡単に身支度をし、僕は薄っぺらいドアに鍵を掛けた。
カンカンカンと階段を下りて行った。
アパートの前で管理人さんが箒で落ち葉をかき集めていた。
「おはようございます。」
「おはようございます。相変わらずいつもピカピカの靴だねぇ~」
おじさんは慣れた手つきで箒を繰っていた。
年齢は60代後半かな?
確か僕が入居して来た時の挨拶で,定年退職されてこの仕事に就かれたと言ってたな。
優しそうな奥さんと二人で管理人をされている。
田舎の祖母に何となく重ねてしまう。
僕はいつも靴をピカピカに磨いている。それは、おばあちゃんから教わったんだ。
どんなに素敵な格好をしていても、靴が汚れていたら台無しだよ。
おしゃれは足元からって、おばあちゃんが言っていた。
おばあちゃん、どうしているかな。
年末には帰ってみようかな。
自己紹介をしよう。
僕はリョウスケ。
今年の春に大学を卒業して、田畑に囲まれた田舎からこの大都会へやってきた。
都会の生活に憧れて来たけれど、毎日、家畜小屋のような箱の中でぎゅうぎゅうになり
自分が人間だということを一瞬疑ってしまうような、地獄のような通勤をして会社に行くのが辛くなってきた。
まだ半年しか経っていないのに。
田舎の電車は2両編成で、車内は朝夕の通勤時間帯以外は、ガラガラだった。
ところが都会の電車は、混んでいるからとやり過ごしても、いつも混んでいる。
隣の人と腕や背中がピッタリくっついて次の駅まで乗って行く。息もできないほどだ。
どうして皆、こんな電車に平気で乗れるんだろう。
僕はおかしくなりそうだ。
僕の勤務先の駅まで乗り換えなしでいけるのだが、僕は必ず途中で一度下車する。
どうしても気分が悪くなるのだ。これまでいろいろな駅で降りてみて、どの駅のトイレが綺麗か分かり、その駅で一旦下りてトイレに入り、また来た電車に乗る。
だから、その時間も考えて早めに家を出ている。
田舎にいた時の僕はこんなに繊細ではなかった。
全てが大きくておおらかでゆっくり時間が流れていた田舎は、当時は退屈な場所だと思っていた。
でも、人としての存在を疑ってしまいそうな大都会に来て、田舎の良さが身に染みるほど分かった。
それでも僕はここで生きていく。
とりあえず生きていく。
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