【映画エッセイ】パルプ・フィクション ~完璧なハンバーガー映画~
観るのは確か3回目だったと思う。高校生のころ、大学生のころ、そして今回(33歳)。
で、いつ見ても最高に面白い。ちょっと感想を書き残しておきたくなった。この映画に限って今更ネタバレも何もないだろうが、一応、ネタバレ記事。というか、パルプ・フィクションを観ていない人は今から観てきたほうがいい、こんなものを読んでいる場合じゃない。今ならアマプラでタダだ。(これはマジで観るべき映画です…)
さて大昔、マジカルバナナというゲームが流行った。「バナナと言ったら、黄色。黄色と言ったら、レモン。レモンと言ったら、酸っぱい。酸っぱいと言ったら梅干し」的な連想ゲームだ。
このゲームが再び流行る可能性は0.1%以下だが、文字通り万が一、私に「パルプ・フィクションと言ったら、」というフリがきたらこう答えよう。
「パルプ・フィクションと言ったら、ハンバーガー」と。
栄養満点のハンバーガー
この映画は、伝説だ。あまりにも有名なシーンをいくつも作り上げた。その一つが、サミュエル・L・ジャクソン扮するジュールスが、ボスのメンツを汚した青年グループのもとへ押しかけ、カフナ・バーガーをスプライトで「胃に流し込む」シーンだ。そこから聖書を読みあげ、銃をぶっ放すのだが、この一連のカットの緩急は、信じられないくらいハイセンスだ。ハンバーガーと一緒にスプライトを頼む、という行為は、映画好きなら誰しも一度はやってみる通過儀礼だとさえいえる。(こんな記事を読んでいるのだ、きっとあなたもそうだろう)私は今でも、映画館で飲むドリンクはスプライトだ。
繰り返すが、このシーンは、その緩急や緊迫感、ジュールスとヴィンセント(ジョン・トラボルタ)の妙に心地よい掛けあいなどが相まって、作中屈指の名場面だ。だが、私がこの映画はハンバーガーだ!、と声高に言っているのは、このワンシーンを指してそう言っているのではない。この映画の構造が”ハンバーガー的”だと言っている。
パルプ・フィクションの記憶が薄い人のためにおさらいしておこう。この映画を章分けしてみる。
①プロローグ・・・
パンプキンとハニー・バニーのくだらない会話とレストラン強盗の開始
②二人の仕事・・・
ジュールスとヴィンセントが青年たちのアパートで”仕事”※ハンバーガーのくだり
③一晩のお世話・・・
ヴィンセントがボスの妻ミア(ユマ・サーマン)とデート、ミアのオーバードーズというハプニング付き。※ここでのツイストダンスも伝説となった。
④ブッチの物語・・・
本当にいろいろあるが、ハッピーエンドの英雄譚。
⑤奇跡と誤射・・・
奇跡的に銃弾を逃れるジュールスとヴィンセント。一方、運命のいたずらのような誤射と仕事人ウルフの活躍。
⑥ラストシーン・・・
ジュールスとヴィンセントは①のレストランに居合わせる。時間軸的には①からの直結である。
こんな感じだ。内容は詳しく書かない。(絶対に映画を観た方がいい。)
記憶をちょっと刺激するためだけの意図だ。
さて、ここでハンバーガーという食べ物を考えてみよう。
以下の条件があるのではないか。
【ハンバーガーの特徴】
①バンズに具が挟まれている
②複数の具が挟まっている
③美味しい
では検証する。
【パルプ・フィクションの場合】
①バンズに具が挟まれている
→レストラン強盗のエピソードが映画の始まりと終わりですね。このエピソードで”具”を挟んでいるわけです。
②複数の具が挟まっている
→これが私の言いたいことの肝だ。この映画って、長編小説ではないのだ。登場人物が一緒の短編小説が複数ある、なんです。ジュールスは③と④には出てこない、ミアは③しか出てこない、ブッチは④しか出てこない。こんな風に各パートはゆるくつながっていつつも、基本的には、独立完結した短編小説である。つまり、各パートは独自の味がある食材ってわけですね。
◆二人の仕事は、どの店にも出せない味。当店自慢のオリジナルソース。
◆ヴィンセントとミアのデートは、甘酸っぱくてオシャレだからトマト的かな。
◆ブッチの物語は、起承転結がっつりのハラハラドキドキパートだから、パンチ十分(ボクサーだけに)のパテ、ってところか。ちなみに、マニアックな解説しておくと、このパートの裏テーマは「アメリカ的英雄譚」だ。ブッチは、ガンショップで自分の命を狙っている敵と一緒に別の敵に監禁される。自分だけ逃げるチャンスが訪れるが、悩んだ末、そうせずに旧敵を助けに行くことに決める。その時、入り口の扉を押し開けるシーンで、形見の腕時計が映されるのは象徴的。映画好きはあのシーンを見て、「おっ!」とならないといけない。
◆奇跡と誤射は、信仰や運命をコミカルなギャングの日常の中に描き出そうとしている。味わい深いチーズといったところ。
これら魅力的な具材を挟んでいるのが、①⑥のレストラン強盗のエピソードのバンズで、それぞれのパートがバラバラにならないように、ハンバーガーを貫く串の役割をしているのがヴィンセントだ。
③美味しい
→面白いです、文句なしに。またここですごいのが、それぞれの具材が完璧に調和していること。喧嘩しているものがなにもない。それもそのはず、各パートは、タランティーノから与えられた独自のテーマに基づいて成り立っているから。同じような味付けや食材はあり得ないわけだ。
再度考える名シーン
話をジュールスがハンバーガーを食べるシーンに戻す。
ジュールスがハンバーガーを取り上げて食べる際の会話。
「ハンバーガーか、栄養満点の朝飯の代表じゃねぇか、何のハンバーガーだ?」
「チーズバーガー・・・」
「どこで買ったか聞いているんだよ。マクドナルドか、ウェンディーズか、ジャックインザボックスか」
「ビッグカフナバーガー」
メタだよなぁ。タランティーノは、これからお前らが食うのはビッグカフナバーガーだ、って言ってんのよ。
マックでもウェンディーズでもない。
普通のありきたりな、映画じゃない。食べたことのない、風変りの、それでも美味しいバーガーを食わせてやろうって。
いやはや、バーガーを食うのに意味なんてない、腹が減ってて、うまいもの食いたいとき手にする食べ物だ。このパルプ・フィクションもそんな立ち位置を願って作られたファスト映画なんじゃないかな、という気がする。
ただ単に面白い、そこに意味はない。けれど時がたつと無性に食べたくなる。そういう傑作なのだと思う。
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