見出し画像

【roots】少年期 《四章》さっきまでと今と、今までと

ドアへついてドラゴンにもう一度しがみつき
「ありがとう、ドラゴン」と僕が言うとドラゴンは小さく炎を吹いた。
振り返り部屋に入るとドラゴンは大きな声でひと鳴きして去って行った
*****
部屋の明かりは全てついていて、影の男の姿は消えていた。
あまりの明るさにクラクラしてすぐ部屋を出た。ドアを閉め廊下へ出た。
あの暗い廊下だ。
すぐさまグーンっと影が伸びて来て
「願いが叶って何か手にしたのか?」と意地悪く聞いて来た。僕は負けじと強そうに
「僕の小ささがわかったよ」と答えた。
「それとぉ?」影はますますいやらしく聞いてくる。
「知ること、楽しむこと、それに希望が湧いてきたんだ!」僕が嬉しそうに答えると。
鼻で笑って「あんまり調子に乗ると上手くいかないぜ」と言った。
「え?」
「お調子者のペリカンに簡単にそそのかされて、次はドラゴン。アホは仕方ないな」ケケケ…と笑った。
「そうやってだまされて、散々な目にあったから1人淋しく暮らしてたんじゃないのかぁ?」
「そうなのかな…」僕はわからなかった。
思い出してみようと。目を閉じた。
確かに僕は1人暗く淋しい部屋に閉じこもり生きていた。人と関わる事をせず、ただ自分のカラに閉じこもって生きるのが1番の安全な場所だと思っていた。まるで牢屋のような冷たい部屋にいたんだ。
そうだ…。そうだった。
もうずっと長い間、この部屋だけにいて。外へも出ない。友達もいない。何も生まれない生活をしていた。心を揺らすことも無く。
ただ息をして。ただ時間を浪費していた。
一気に元の僕に戻ってしまった。
「そうだった。本当の安全は1人でいることだ」
オーウェンごめんよ。僕は変われない。
約束を果たせない。世の中は僕を必要としていないし、1人浮かれてみたところで何の意味も無いんだ。このままが一番良いのかもしれない…。
心は簡単に折れ、うなだれた。
何故その部屋にいたのか、何故そんな風に暮らしていたのかを見ようともせずに。
その時。
「ガウッ!!」唸り声を上げて金色のライオンが飛んで来た。オーウェンは影を鋭い爪で切り裂くと僕を見た。オーウェンと目が合って安心した僕がいた。
「呼んだね」とオーウェンが言った。
「僕…?」と下を向くと、オーウェンはすぐ横に来て「君は僕を呼んだ。友達を呼んだんだ。影はね、君の言われたく無い事を言う。思い出したく無い事を思い出させて操るつもりなんだ。『負けそうになったら友達を呼ぶ』は正解なんだよ」と言ってくれた。
「オーウェン、僕は…何も変わってなかった…ちゃんと見たのに。知ろうとしたのに」
僕は涙がこぼれた。泣くのなんていつぶりだろう。オーウェンは優しく擦り寄りながら「何を見たか話してくれる約束だったよね」と聞いてくれた。僕は涙を手のひらで拭って話し出した。

ルークとルーカスに楽しむことで心に明かりが灯る事を教わった。ドラゴンの背に乗って自分の住む街を見て、いかに小さな世界しか知らなかったかわかったと話した。
オーウェンはうなづいて聞いてくれた。
「友達が4人になったんだな!」と嬉しそうに言った。
「友達って言うのかな?」と僕が言うと。
「また会いたいと思うだろ?それはもう友達だ。
心が通った証なんだよ」と教えてくれた。
その後、オーウェンは僕の目をジッと見て「影にまた会いたいか?」と聞いた。
「もう会いたく無いよ!」と僕がチカラいっぱい言うと。
「それはね、影とは心が通っていない。相手にする必要が無いって事なんだ。君の毎日にアイツは必要が無いってわかったのさ」とオーウェンは明るく言った。
僕はそれでも「調子に乗って良い事無いって…」
と口ごもった。オーウェンは真っ直ぐに僕を見て「1回目、アイツになんて言われたか覚えてる?」と聞いた。
「世界をかき混ぜて来いって」
オーウェンはすかさず
「それで君がやりたい放題したら調子に乗るなって?楽しくて希望に満ちた人を妬ましく思う暗い奴さ。気にするなよ」と言ってくれた。
なんだかとてもホッとして
「オーウェン、来てくれてありがとう」と言った。オーウェンは嬉しそうに立髪を揺らして「言ったろ?忘れるなって。呼ばれたら飛んでくさ!友達だからね」と笑った。
オーウェンの髪をなでると蝕まれていた心が温かく色が変わって行くのを感じた。
「アイツに引き込まれない勇気や決意が僕には必要なんだ。弱かった僕とはさよならしたい。たった一言で負けるなんて…もうしたくない」と僕が言うとオーウェンは
「勇気や決意は揺らぎやすいんだ。気にすることないよ。何度だって改めて持ち直せば良いんだ」
そう言って僕がうなづくのを見ると
「君が弱かったんじゃない。アイツが口が上手くて狡猾なのさ。そういうヤツはいくらでもいる」
そう続けて体を僕にピッタリ寄り添ってくれた。
それでも僕は自信がない。
小さな勇気を振り絞って関わりを持ったのに、そんな勇気は一瞬で形を失った。全てを信じられない。悪い奴かどうかも、見分けがつかない。
この先出会うもの全てを疑っていくのか…。
やっと見えて来たのに…。
オーウェンは僕の心を察して
「君は君らしく、ぶつかって、泣いて笑って。そうやっていけば良いのさ。心配するなよ」と言ってくれた。
「僕らしく…?」
「君は素直でわかりやすい。良いヤツさ。そのままでいい」
「また、誰かに打ちのめされても?」
「こいつは俺には必要ないと心の中で思えば良いだけさ。自分を守ってやるんだ。それが自分を持つってことさ」
「自分を持つ…」僕が理解できずにいるとオーウェンは続けてくれた。
「1つ1つ経験して手にしたものを大切にする事で自分が作られてゆくはずだよ。俺はこれが好きだ、嫌いだと判断出来るようになるのさ」
それを聞いて
「確かに。僕、実はやってみる事が好きだったんだ。本当は何でも知りたいと思ってたんだ」
と僕が言うとオーウェンは嬉しそうにして
「そうそう!それで良いんだよ」と言ってくれた。「大丈夫か?行くかい?」
オーウェンが僕が行きやすくなるように言ってくれたのがわかる。
だけど、この廊下やこの部屋は。多分。
僕のためにあるんだ。そう思った。
この道を歩くのは僕1人。
だけど、心が迷った時にいてくれる人がいる。
僕は膝まづいてオーウェンの顔を両手で持って顔を近づけた。「心強いよ」と言うと「ずっとここで待ってるよ」とオーウェンは優しく言ってくれた。そして「今まで手にしたものは何だ?」と聞いた。僕は立ち上がり大きな声で
「勇気!楽しむ!好奇心!狡猾な奴にはもう騙されない!そして、僕には友達がいる!!」
そう言うと、猛スピードで走り出した。

to be continue…

今日もワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?