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【roots】老年期 《28章》出会い

オーウェンの方を振り向かずに、
オスカーは一歩一歩進んでいった。
暗い廊下にぼうっと白いものが見えてきた。

賢そうな白猫。
「こ、こんにちは」オスカーはオドオドと挨拶した。
「何しに来たの?」スパッと聞かれた。
「僕の心を…やるべきことを…探しに来ました」
「ふぅ〜ん」
「僕が必要としている事を知りたいんです」
「全くわからないの?」
「う…ん」
「じゃあ、行きましょう。こっちよ」と尻尾を立てて歩き出した。
すっかり白猫のペースに飲み込まれてる。
オスカーは急いでついて行った。
角を曲がると目の前に街が広がっていた。キョロキョロとしていると白猫が振り向いて「車に気をつけて」と言ってくれた。
突然襲われた心細さに参りかけていたから。白猫の優しい言葉を聞いて思わず「ありがとう」と言った。

見たことのないようなビル群。人が多くて、車はうるさくて。排気ガスとこの街の匂いが苦しく感じた。
歩くのも大変な道だった。
白猫はスルスルと人をかき分けて進んで行く。オスカーは、ついてゆくのが精一杯。
早くここから移動したいと思った。
その瞬間。全ての動きが止まった。
「あら、都会は苦手?皆一生懸命に働いているのよ。ほら、あのビル」猫が見上げる方を見た。

高いビルからブランコが降りていて窓を掃除している人がいた。グルッと周りを見渡すと、どのビルの窓からも人が働く姿が見えた。
1階のカフェも花屋も。
道にはタクシー、バス、自転車のメール便。
この道を歩いている人は皆スーツ姿でビジネスマンだ。
「この街はみんなが仕事しているんだね」
「そうよ。1分1秒を大切にして仕事しているの」
「働くってこんなに忙しないんだ…」
白猫はふふっと笑って
「そうしてあなたの全てが出来ているのよ」
「え?」オスカーが驚くと
「髪は美容院、服は洋品店、食べ物だって生産者さんがいて流通しているから買えるでしょ。病院、警察に市役所、学校。みんな仕事してくれる人がいるからあなたは手にしてるのよ」
「あぁ。本当だね」オスカーは考えてもみなかった。初めて自分の将来が何かしらの職業に繋がっているのだと知った。
「心が見えたら、自分に出来る仕事を探さないとね。」白猫に言われて素直に「そうするよ」と答えた。

突然に街に動きが戻って。目の前にいた猫はもういなかった。この街で急にポツンと1人。
どうしようかな…と思っていると駅が目に入った。電車…乗ってみようかな。改札はない。自由に乗れた。どこまで乗るかは自分次第なんだなと思った。

車窓から外を眺めた。しばらく都会の中を走っていたが、だんだんと長閑な風景になっきた。
風車小屋が立つ丘が見えた。行ってみようとすぐ次の駅で降りた。
テクテクと丘を目指して歩くこの道がとても気持ち良かった。林の中から鹿が出てきた。

「うわぁ。見事なツノだね」オスカーが思わず呟いた。「ありがとう、君は….その良い人そうだ」
と答えてくれた。
「ありがとう。丘に行こうと思ってるんだ」
「あぁ、あの風車の。景色が良いよ」と鹿が言うとパン!パン!と銃声が聞こえた。
「猟師がウロウロしてる」「大丈夫かい?」
「僕のツノが立派だから、狙われるだろうな」
「え?逃げなくちゃ!!」とオスカーが言うと
「その途中だよ。人は自分の欲のために武器を使って追い詰めるんだ」鹿は冷静に言った。
「僕が一緒にいようか。僕の鹿だって言えば撃たれないんじゃない?」オスカーは鹿に近づいた。
「僕はオースティン。君は?」
「オスカーだよ。よろしく」と頭を下げた。

丘を目指しながら一緒に歩いて
『どうしてこんな所にいるのか』の話になった。
オースティンは真剣に聞いてくれた。
「自分に必要なものか。じゃあ、足りない物を考えれば良いんじゃないの?」とオースティンが言った。「足りなさすぎて…」とオスカーが言うと
「オスカーは本当に自分がわからないんだな。この少しの間でも僕には君の良い所がわかるよ」とオースティンは笑った。
「本当に?」オスカーは嬉しくなった。
「まず、正直だ。偉そうにもカッコつけたりもしない。優しいし、気を遣ってくれてるのも伝わるし、安心して一緒にいられるよ」沢山褒められてびっくりしたオスカーは「そ、そんなに沢山…ありがとう」と恥ずかしそうにお礼を言った。
「何か、好きな事はないの?」オースティンに言われてオスカーは改めて考えて
「そうだな。料理は楽しい。作っても食べても楽しいし。喜んでくれるのも嬉しいな」と答えた。
「すごいじゃないか!好きな事があれば自分を大事に出来る」オースティンは嬉しそうに少し跳び跳ねて言った。
「自分を大事に?どういう事?」オスカーにはわからなかった。オースティンは優しくオスカーを見て話し出した。
「例えば。辛い事があっても料理をすれば気分転換になるだろう?悩みも煮込み料理と一緒に煮込んだりさ。好きな子にとびきり美味しいのを作ってあげたりも出来るだろ?」
「なるほど…でも、それが自分を大事にってことになるの?」
「ちゃんと自分を守る時間が持てるってことさ。
武器を持ってるっていうのかな」
「好きな事が増えたら、自分の中の武器が増えるってわけか…オースティンにもあるの?」
オスカーは自分の中の好きな事を見つけられると鹿に聞いた。
「僕はね…歌かな。よく歌うよ。嬉しい時も悲しい時も」
「誰かのためにも歌えるよね!」オスカーがはしゃいで付け加えると「そうだな」と優しく答えた。

優しい空気が一変した。ガサガサと林が鳴った。
「君!その鹿から離れて!!」姿は見えないけれど男の人の声だ。猟師!
「待って!僕の鹿です!!」オスカーが叫んだ
「君の鹿?鹿を飼ってるなんて聞いた事ない。」
「とにかく!やめて!やめて下さい!」
オスカーはオースティンにしがみついた。猟師は林から少し姿を見せてオスカーたちを眺めると舌打ちして林に入って行った。
「そうだ。ハンカチ。これを首に巻いていい?僕の鹿って印にさ」オスカーはハンカチを持って来ていた。ルビーがアイロンをかけてくれたグリーンのハンカチだ。「ありがとう」
「野蛮な人間っているんだな。僕は優しい人の中にいたからびっくりだよ」オスカーが言うと
「それはオスカーが幸運だったんだよ」とオースティンが悲しそうに答えた。オスカーは
「僕さ、苦手なんだ…人も街も…」と勇気を出して告白した。誰にも話してなかった事を素直に言えた。
「地球は広いんだから、無理することはないさ。自分にあった居場所を見つけたら良いんだよ。」
オースティンに言われて心がホッとするのを感じた。

to be continue…


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