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【roots】少年期 《六章》一番長い旅・1

ディランにお礼を言うと夜が白々明けてきた。
夜通し海にいたのか。岸に上がるとすぐに小さな岩の祠があって少しそこで小さく横になって寝た。
鳥の声で目を覚ますとすっかり日が昇っていた。
祠から出て大きく伸びを一つ。深呼吸をした。
海の裏は森が広がっていた。気持ちが良い緑に囲まれている。
とにかく歩いてみないと。出会いもないし、発見もないよな。
少し歩くと野苺が沢山なっていた。
1粒、2粒食べてペリカンと歌った歌を歌いながら足取り軽く歩き続けた。
*****
「なぁ、なぁ」木にもたれたキツネ。さらに後ろから二匹のキツネが現れた。「なんだあいつ?」
「ふざけたやつだな」3匹はコソコソと話して3方向に散って走った。
僕はそんなことは知らずに陽気に島を歩き回った。
しばらくすると、キツネが一匹道の端にうずくまっていた。この島に来て初めて生き物と出会ったので僕は嬉しくなって声を掛けた。
「こんにちは!この島のキツネさん?」
「イタタ…」とキツネが言った。
「どうしたの?怪我しているの?」
「腹が痛くて」
「どこ?ここ?温めてあげるよ」と体を触った。
キツネは苦しそうに身を縮めた。
「お家はどこ?帰れるかい?」「…。運んで、運んでくれる?」「いいよ!案内出来る?」僕はそっとキツネを抱き上げて両腕で優しく包んだ。
「そこの森を入ってくれよ」「ここかい?」
鬱蒼と茂る森の中へ入って行った。
「温かいなキツネって。フワフワで可愛いな」僕は思わず口に出して言った。
「もう大丈夫!!」キツネは怒った様に腕から飛び降りて走って行ってしまった。
突然ポツンと森に取り残されてキョロキョロと周りを見回したけど、さっきの道へ戻るよりはこの森の中を行った方が面白そうだと思って。
キツネが走って行ったのとは別の方向へ歩き出した。
「あいつなんだよ!どこ行くんだよ!」キツネは作戦変更だと兄の元へ駆け出した。

僕の歩みは軽やかだ。
何かないかな?また誰かに会わないかな?
草木を組み合わせてドーム型に作られた家の様な物にでくわした。
覗いてみても誰もいない。
僕には入れない。小さな動物用かな?
「しかし、よく出来ているな。器用だなぁ」そう言って立ち上がると足元にキツネが二匹立っていた。
「あぁ、君たちの家?素晴らしくて見せてもらってたんだ。勝手にごめんよ」と言った。
「君?馴れ馴れしいな」
「お前どこから来たんだ?」早々に怒らせちゃったな。丁寧に話してみよう。
「僕は海を渡って、さっき来たんだ。この島の事を教えてもらえないかな?」
キツネ二匹は目配せして「とっておきを見せてやるよ!」「ついて来い!」と走り出した。
「待って!」僕も急いで走った。
「ここはキツネくんの島なの?さっきもね。キツネに会ったんだよ。お腹が痛いって大丈夫だったかな?」僕は走りながら聞いたが返事はしてくれなかった。
「あいつ何か言ってるぜ」「無視して走れ!」
キツネ二匹は急に左右に別れた。あまりの速さに僕は真ん中へ向かってストン!!
「わぁぁ!」穴に落ちてしまった。

*****
「イテテ…キツネくーん!助けてくれないか?」
大きな声で呼びかけてみた。
キツネ二匹が穴を覗いて「じゃあな」と言って見えなくなった。
「オーイ!オーイ!」どういう事だ?この旅は僕だけの旅。この島も僕の為の島のはず。それなのに穴に落とされて動けなくなるなんて。
僕を知らず、どんな相手かもわからないのに会ってすぐ穴に落とすなんて。僕を知ってくれたら怖くないとわかってもらえるはずだ。
ここから努力してみよう。
きっと、二匹は近くにいるはずだ。
「この穴は二匹で掘ったの?すごく広いよ」
返事はない。
「現実世界で僕はずっと暗い部屋にいたから。ここは土の香り、風も通る、空も見えて。ずっとましだよ」
「…。」
「僕は森や土、海に空、自然が好きなんだって最近知ったんだ」
「…。」
「友達を作れる事も知ったんだ。自分を正直に見てもらって、君たちと友達になりたいと思ってるよ」
「バカじゃねぇの?」やっと返事があった。
「話しもせずに、僕の何も知らずに、君たちに何もしていないのに。バカだって?」
「お前こそ、何も知らないヤツにノコノコついてきて穴に落ちてるんだぜ、バカだろ?」
もう一匹が続けて言った。僕も負けずに
「人を騙して、笑って楽しいなんてよっぽど楽しい事を知らないんだな」と言い返した。
この穴を作る、わざわざそんな事をしたのには理由があるのかな?

to be continue…

今日もワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀

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