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【roots】老年期 《34章》3日間

ルビーが目を覚まし隣のベッドを見て言った。
「デイブ…」
オスカーが代わりに答えた。「まだ眠ってるよ」
ルビーは温度の無い声で「なぜ弱虫に行かせたの?」と聞いた。
「ごめん。でも、ルビー。デイブは強い男だよ。チェイスに勝ったんだ」
「そんな事して欲しく無いわ」ルビーは悲しく答えた。
「僕たちを守るために戦ってくれたんだ。父さんは僕のために…」オスカーは涙を堪えきれず俯いた。オスカーだって本当は苦しんでいる。ルビーはわかっていても言わずにいられなかった。
「目を覚まして。デイブ」ルビーが体を起こしてデイブの髪を優しく撫でた。シャーロットがルビーの肩にガウンを掛けた。ありがとうと言って
「前にも3日目を覚さなかった時があるの。もしそれ以上起きなかったら私が閉じるわ。心臓が動いているうちにね…」とオスカーとシャーロットに言った。シャーロットが驚いて声を詰まらせた。
「オスカー、デイブは意識を失ったとして全てをあなたに頼めると思って行ったのね。私が閉じれば必ずまた会える。そうわかって…準備をするわ」ルビーは立ち上がってデイブの頬にキスをすると「ここをお願いね」と部屋を出た。
オスカーが急いで着いて行くと本棚から分厚い重厚な丁装の本の様な物を引き出した。
「ルビー、何をするの?」
「この旅を次の私に残して行くのよ。まだまだだと思っていたから、何も書いていないの」
と最初のページからペラペラとめくってみせた。
薄茶色に焼けた紙から古い匂いがした。中には綺麗なペンの文字がビッシリと書き綴られていた。
「これは何百年もずーっと続けてきたことなのよ」オスカーは重たい日記帳を代わりに持つとルビーの手を握った。「ごめん。ルビー」
「私こそ。さっきはごめんね。」2人は顔を上げて小さく微笑んだ。
「今までで1番寂しく無い閉じ方よ。会いたい人がいて、また始めるの。心配しないで、私は大丈夫。父さんをお願いね」
ルビーの言葉にオスカーは思わず「母さん…」と呟いた。ルビーは嬉しそうにオスカーを抱きしめた後、日記帳を受け取るとダイニングテーブルに広げて引き出しから年代物のペンを出して目を閉じた。
「わかった、何かあったら呼んでね」オスカーはそう言うとデイブの元に戻った。
シャーロットが泣いていた。
隣に座るとオスカーは
「デイブはきっと戻るよ。ルビーは万が一に備えて準備をしているだけだよ。居なくなったりしないさ。今は2人を支えよう」と言った。
シャーロットは泣きじゃくりながら、コクリとうなずいた。

リリーが食事を持って来てくれた。
シャーロットを抱きしめて「少しでも食べてね」と優しく言ってくれた。シャーロットはリリーも閉じる日が近づいているかもしれないのにと思うと「ありがとう」と答えるのが精一杯だった。

「ルビー食事にしない?リリーが作ってくれたのよ」シャーロットが声を掛けると「ありがとう。食べましょう」と老眼鏡を外した。

3人で穏やかな雰囲気で食事をする事が出来た。食後にルビーが「デイブの体を拭いてあげたいわ」と言ったので3人で着替えさせることに。
デイブはおじいさんにしては体格が良く3人でも時間がかかった。「気持ちが良いでしょ?」
「お寝坊過ぎよ」とルビーが時折声を掛けても反応は無かった。ベッドに寝かせると心臓に耳を当てて「元気ね」と微笑んだ。
「じゃあ、私は続きを…なにせ60年分だから大変なの」ルビーは明るく言った。
「ここにいるから心配ないよ」オスカーが答えると。「う…うう…」とデイブが声を出した。
「デイブ?デイブ?」と3人で声を掛けたが、それだけでまた静かになった。
家に帰って8時間後の事だった

夕方オスカーが料理をしようと台所に立った。
デイブに食べて貰いたかったあのパスタ。
せめて香りだけでも…。アリソンに貰った小麦粉を半分だけ使ってパスタをこねた。
「良い香りね」ルビーがダイニングから振り向いた。「デイブに食べさせたいわ」
「うん」気持ちは同じだ。

夕食を食べ終わって。23時になってもデイブは目を覚さなかった。オスカーは刻一刻と現実になる別れに押し潰されそうになっていた。その様子に
シャーロットがそっと隣に座り「パスタ凄く美味しかったわ。教わったパスタなの?」と声を掛けた。
「うん。似た味に作れたと思う」
「デイブに食べてもらうまで味を忘れないでいようね」とシャーロットが言ってくれた。「うん」
オスカーはそう返すのが精一杯だったけれど、側に居てくれるシャーロットの存在がありがたいと強く実感していた。

24時になり、ルビーが夜は2人にして。と言うのでそれぞれ自分の部屋に入った。
オスカーは、なんとも眠れず。結局リビングのソファーで寝転がった。天井をただ見つめて朝になっていった。

2日目。目覚めなかった。

そして、3日目も何も変わらず、デイブは目を覚ます事は無かった。

to be continue…

今日もワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀

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