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【roots】少年期 《五章》広い海の上で

1回目と同じだと海だよな。鯨に会えるかな。
と思った瞬間に足元がぐーんと上に上がって
体がよろけた。「おっと」足元から目線をうえに上げた途端に大きな満月が現れた。
目をうばわれているとプシューっと潮が吹き上がった。
僕、鯨の上に乗ってる。
そっとしゃがんでから大の字に寝転んだ。
天から星が降って来ている。波の音と時折跳ねる小さな魚のポチャンという音がする。
「どこに行きたい?」鯨が声を掛けてくれた。
僕は出来るだけロマンあふれる様な答えがしたくて
「海の底って秘密があったりするの?」と聞いた。
「どうかなぁ?行ってみるか。少し早く進むぞ」と鯨はスピードをあげた。僕は嬉しくて
「鯨さん。僕、会いたいと思って来たよ」と言った。
「俺の名前はディラン。会いたくて来てくれたなんて嬉しい事を言ってくれるな。君は名前を思い出せるといいな。名前あるだろ?」
そう言われて、名前…あるはずだけど全く覚えていない。
「思い出したら、すぐに教えるよ」と明るく言った。

何時間も海を渡って気持ち良く風に吹かれていたら、ゆっくりとディランの動きが止まった。
「海の中を覗いてごらん」僕は腹這いに寝転んで顔だけ海に出してみた。白くキラキラと光る無数のプランクトン。宝石箱をのぞいている様だ。
「うわぁ、綺麗だ」思わず声を上げた。
「どんなに小さな命も光り輝くってことなんだ」
手を伸ばして水の中にそーっと入れた。
静かに水をかくとそこだけ光が消えた。
いけない!と思ってサッと手を戻した。
「ごめん。余計なことをして…」と僕が言うとディランは潮を吹いて「大丈夫だ。気にするな。君が手を入れたくらいで死んだりしない。自分を守って光りを消して隠れただけさ」と教えてくれた。「そうなの?」と海を覗くと「今はもう光っているよ」とディランが言った。
キラキラと動く光を見ながら僕は話し出した。

「僕さっきね。影に消されそうになったよ。自分を守るって知らなかったんだ」そう告白するとディランはフーっと潮を吹いて
「ここに来れたって事は、自分を守れたんだな」
と言った。僕はしみじみありがたく。
「うん。友達が助けに来てくれたんだ。だから僕の力じゃないんだけどね…」とオーウェンを想って言った。
「友達が来てくれたのは君の力さ。そういう良い友達を持っているって事だよ」と言ってくれた。
「ありがとう、ディラン」オーウェンも褒められて僕は嬉しくなった。ディランには素直になれた。何でも聞いてみたくなった。「ディランにとって『自分を守る』ってどういう事?」
ディランは落ち着いた声で
「俺はこの海の主みたいなものだから。強くなり過ぎたんだ。だから身を任せてる。威張らず、驕らず。さっきみたいな小さな命を守ることが、いつの間にか自分を守ることになると思ってる」と言った。
「誰かを守る事が自分を守る事に?」
「そうだよ。今は自分の事しか考えられないかもしれないけれど世界は繋がっているんだ。だから巡り巡って自分に返ってくる。そう、知る日が来るよ」ディランは優しく教えてくれた。
「僕も誰かを守ってあげたい。やれるのかな?」
「自然と出来るようになるのさ。まず自分を手にして。自分を大切にする事。そう思って生きるのと、何も考えずに生きるのとでは手にする数が違うよ。君ならすぐに両手いっぱいになるさ」
ディランはとても優しい。大きな心を惜しみなく見せて僕を励ましてくれた。
ディランの背の上はとても居心地が良い。
僕もこんな人になりたいと思った。
月明かりの中に岸が見えてきた。
「僕、1回目は海に潜ったけど。岸につくなら歩いてみたいな」ディランが少し体を揺らして「よし岸へ行こう。自分で切り拓いて行くんだ」と岸に向かって泳ぎ出した。

to be continue…


今日もワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀


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