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【roots】少年期 《六章》一番長い旅・2

落ちた穴を見回すと。
まだ緑の葉が付いた枝が落ちていた。
「僕のせいで手折られたのかな?」側の土に刺して「ここで大きく育つかな?」と枝に声を掛けた。
「何ぶつぶつ言ってる?」キツネの声がした。
「ねぇ、もしかして。この穴を作るほどの事を僕がしたって事なの?」
「…。」返事が無い。
「僕も知らない事ばかりさ。だから騙されたし。でも、知ろうとして騙された。無関心よりずっとましだよ」
大きな声で言った。
「だから怒ってるのか?」
「違うよ。ガッカリしてる。僕を知ってくれたら…よそ者を怖がる気持ちはわかるから…だから知ってもらいたいんだ」
「あいにく。お前だけが知ってもらいたいんだと騒いでも、俺らはお前と話すつもりが無い」
「君が一番上のお兄さん?お腹痛かった子が末っ子でバカと言ったのが真ん中だね」僕が言うと小さなもう一匹が穴へ顔を出した。
「やぁ!お腹はもう大丈夫?」
「嘘だもん」と末っ子が少し申し訳なさそうに言った。
「知ってるよ」僕はにっこり笑いかけた。
「ねえ、どうするの?この子ずっとここにいさせるの?」と末っ子が言うと、真ん中っ子が「おかしな歌を歌って俺たちの野苺を盗んで食べた」と言った。
「それに神様の祠で寝やがったんだ!」と1番上の兄さんが言った。
…なるほど。僕は知らないうちに『やってしまっていた』彼らの生活を脅かす事を沢山していた。
危ない存在だと思われても仕方ない。
そうだったのか…。
「ごめん!ごめんなさい!あの祠は大切な場所で、野苺も野生じゃなくて育てていた物だったんだね…君たちの大切な島で勝手な振る舞いをして…ごめんなさい」
この旅の全てが僕のためにあると、おごった考えをしたから。そこで生きている者たちの大切なものを汚してしまった。
皆んなここで生きているんだ。
王様か何かと勘違いしたような振る舞いはダメだったんだ。
知ろうとしてないのは、僕も同じだった。説明しよう。わかってもらおう!
「あの歌はね、ここに来る前にペリカンの兄弟に教わって。不安な時や寂しい時に歌うと元気が湧いて楽しんで行こうと、思えるんだよ」
伝われ!僕の気持ちをわかって!!
僕の生きている今に出会う皆んなの命や平和を守る事が自分を守る事になる。ディランの教えが胸に広がった。
「僕、君たちに何もしていないと思っていたんだ。思い上がりだった。知らなかったとはいえ、勝手な振る舞いをしてごめんなさい。これじゃ、仲良くしたくないと思われても仕方ない。穴に落ちて良かったよ」僕は心からそう思った。
「なんだって?」
「落ちたから君たちが本当を話してくれて、自分の犯した間違いに気付けたんだもの」
本当だよ。自分が特別な存在なような気になって恥ずかしいよ。
「兄さん、こいつ、僕を温かくて可愛いって…悪いヤツじゃないんじゃないかな?」
末っ子が言うと1番上の兄さんが
「とにかく。しばらくはここから出さない。これ以上荒らされたら困るんだ」と言った。この島の長らしい言葉だった。
「僕が悪かったんだ。出してもらえるまで待てるよ」と僕が言うとキツネ達が走って行く音が聞こえた。行っちゃったか…。ごろんと仰向けに寝て空を眺めた。

ピコっと穴からキツネが顔を出した。
「なぁ、海からきたのか?」
「うん。何故だかね」
「どうだった?」
「月と星が綺麗で風が気持ち良かったよ。広いって心に余裕が湧くのかな」
「俺も岬で海を眺めるのが好きなんだ」
「それも気持ち良さそうだね」僕が言うと
「あのさ、悪かったな」気まずそうにボソッと言った。
「僕こそ」短く答えた。
蔓を編んだロープが降りてきて三匹が顔を出した。「掴んで。引っ張るよ」と言ってくれた。
今の時間に蔓を編んでロープを作ってくれたんだと思ったら、兄さんキツネの「しばらく」が温かく感じた。
*****
穴から出ると三匹は並んで待っていた。一匹づつ丁寧に挨拶をしてにっこりと笑いあった。
「僕はデイビッド。どうぞよろしく」口から出た言葉にハッとした。僕はデイビッドだった!!
名前を取り戻すことが出来たんだ!!
「デイブ。愛される者の名前だ。愛を大切にする人にと願いが込められているんだよ」と兄さんキツネが教えてくれた。
「良い名前をつけてもらってたんだね。感謝しなくちゃ」と言うと
「名前って不思議とその人の道と合っているんだって」末っ子が可愛いく言った。
「僕はトレバー。物を調べるのが好きだよ。兄さんはタイラー。手先が器用なんだ。大工してる。弟はティム。神様を愛する可愛いやつさ」
「本当だね!すごいや!」名前を手にすると自分らしさの半分を手に入れたような気がした。
空っぽだったポッケが幸せで膨らんだ。
「デイビッド。家に招待するよ」
名前を呼ばれて喜びも増して感じた。
「ありがとう」

to be continue……

今日もワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀

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