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【roots】老年期 《26章》大切なもの

デイブが湖へ行かないかとオスカーを誘った。
オスカーはすぐに「はい!」と立ち上がった。
そのオスカーの様子を見てルビーが
「後からお弁当持って行くわね」と言うとニッコリとルビーに頭を下げた。

オスカーは少しずつ、この生活に慣れて来ている様子だった。釣竿を出すデイブに駆け寄ると「僕が持ちます」と言った。
「ありがとう。じゃあ頼むよ」と釣竿二本をオスカーに渡してデイブはバケツを持った。

気持ちの良い緑の風を感じながら2人はゆっくりと歩いた。
「気持ちが良いですね」オスカーが立ち止まって深呼吸をした。デイブも空を見上げて
「初めてこの森を歩いた日を思い出すな」と言った。デイブは顔を下ろすとオスカーに微笑みかけて何も言わずにまた2人は歩き出した。
言わなくても気持ちが寄り添えるくらいに
デイブとオスカーは波長が合って来ていた。

パァっと目の前が開かれて青々とした湖が現れた。
「こんな所があるんですね」オスカーは大発見に嬉しそう。デイブはオスカーが感情を受け取れる様になって来た事を嬉しく思った。
あの日、ディランが座っていた所へ座って自分の釣竿には針をつけずに湖へ垂らした。
オスカーはそれに気づかず、自分の竿に餌をつけて湖へ投げ入れた。
2人は並んで静かに揺れる水面のちゃぷんと言う小さな音と鳥たちの声を聞きながら何も話さず、ただ湖面を眺めて過ごした。
オスカーは次々と釣れてデイブは全く釣れない。
それもそのはず。針を付けていないのだから。
オスカーは3匹目を釣り上げると
「すみません。僕ばかりが釣れてしまって…」と申し訳なさそうに言った。
デイブはニッコリ笑って糸の先をオスカーに見せた。
「え?針付いて無かったんですか?」
「付けてないんだ」「?」オスカーは意味がわからなかった。
「釣るのはオスカーに任せて、僕は魚と話す時間にさせてもらっていたんだ」とデイブが言うと
「釣りたく無いから?」とオスカーが聞いた
「釣る時はありがたく頂いてるよ。今日は話をしたかったんだ。ディランと」と言ってデイブは湖の遠くを見つめた。
「ディラン?どこにいるんです?」オスカーはキョロキョロと周りをみた。
「もう亡くなってね。多分。ずっと前に旅に出たきりでね。僕はディランに沢山教わってね。ここに初めて来た時に再会出来て針のない竿で釣りをしていた」デイブは幸せそうな顔で話す。
「思い出の湖なんですね」そう言うオスカーにうなづいて「ありがとう。大切な場所なんだ」と言った。「教わった事を聞いても良いですか?」

オスカーは真っ直ぐデイブを見て言った。
「もちろん。僕がディランに初めて会った時は臆病でオドオドしていて…そんな僕に優しく接してくれた。2度目に会った時にもディランは美しいものを沢山見せてくれたんだ。目に見える美しさも、心の美しさも両方だよ。どんなに小さな命も輝いている。自分を守ることを知ってるって」
オスカーは黙って聞いていた。

「僕も輝く命を持っていて、自分を守ることを知っている。全ては自分の中にあるって。」
オスカーの真っ直ぐな目はますます力をおびていた。
「ディランにとって自分を守るって何?って聞いたんだ。そうしたら、自分は大きく強くなり過ぎたから静かに黙って小さな命を守っているんだって。それがいつの間にか、巡り巡って自分を守る事に繋がるって」
オスカーは小さく何度もうなづいた。

「まず、自分を知って。自分はどんな人間で何を持っていて何を持っていないのか。どんな風になりたいのか。そして、誰かを守る事が出来るのか。その為には、より沢山を手にする事だよって。ちゃんと考えて生きると手にする数が違うって。見ようと感じようと手にしようとする事が大事だと。デイブならすぐ両手いっぱいになるって言ってくれたんだ。」

デイブは一度、目を閉じてディランを思い浮かべた。「いつも僕を優しく包んでくれる存在だったんだよ」デイブがそう言うとオスカーはおそるおそる声にした。
「デイブはそれで…手にしたもので、智恵や友情や、沢山使って皆んなを…守ってくれたんだ…」
やっぱり、本当の話だったんだとオスカーは小さく震えた。
「そんなカッコよく行かないけどね」とデイブはクスリと笑って「でも頑張ったよ。精一杯ね。ディランも褒めてくれたんだ。何より嬉しかったな」と言った。
「僕もそんな風に強くなれるかな」
オスカーが呟いた。

to be continue…
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今日もワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀


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