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【roots】老年期 《31章》案内人と守り番・守り番2

昨日の続きから

ゆっくりと森を歩いた。
時折、顔を見合わせてニッコリと笑い合い。特別何も話さずに歩いた。
湖に着いて2人は座って湖面を眺めた。
「昨日と今日で全く違う所にいるなんて。不思議」とシャーロットが言うと「そうだね」とオスカーが答えた。まるで言葉が風に乗って軽やかにふわっと横を通り過ぎて行ってしまう。
シャーロットは続けて「オスカーの生まれた場所はどんな所?」と聞いた。
「工場が沢山立ち並んでいて、煙で前が良く見えないんだ…ガタンガタンと機械の動く音が一日中どこからか聞こえていて…男の怒鳴る声が聞こえて…そんな所だよ」
オスカーは冷たく寂しそうに答えた。
「そうなの」
「空気が綺麗で。水が澄んでいて。…静かで。ここは心が安らぐ」
「本当ね」
「シャーロットは都会にいたんじゃないの?戸惑うだろ?」
「どうして?」
「お店も無いし」
「何も不自由してないわ」
「デイブのおかげだ」オスカーは、なぜだか心を閉ざし掛けていた。
シャーロットは察して
「オスカー。私、ずっとあなたを待っていたって言ったでしょ?だから今凄く嬉しいのよ。負担に思わないで」と言った。
「僕もシャーロットを守れるようになりたい」
「私たちまだ16才だもの。これからは、私もオスカーを守ってあげるわ」
「頼もしいな。一緒に作って行こう」
「うん。どんな時も2人でね。」
オスカーは『どんな時も』と言ってくれたシャーロットに感謝した。ずっと持って来た寂しさをシャーロットが少し一緒に持ってくれていると感じた。湖の優しい凪を眺めながら
「まずは、畑を作る。出来た物を料理して人に届ける仕事をしたいと思ってるんだ」
「良いわね、心がこもった仕事。オスカーらしいわ」
「ありがとう、でも何年かかるか…」
「私たちには時間がたっぷりあるわ」
「そうだね。でも…僕ら2人で生活出来るようになるのはずっと先だろうな」どうしてもオスカーは後ろ向きだ。シャーロットが
「なんで2人?デイブとルビーがいてこその私たちでしょ。ずっとご恩返しして行きたいわ。」と強く言った。
「良いの?」
「もちろんよ。オスカーの、私たちのするべき事だと思うから」
「ありがとう、僕の気持ちを気遣ってくれて。僕もシャーロットの気持ちに気づいてあげられるようになりたいよ」オスカーは勇気を出して精一杯の飾らない気持ちを口にした。
オスカーの言葉足らずな性格をシャーロットが察してくれる。
それが心底ありがたかった。

夕陽が沈み始めた。
キラキラとした陽のカケラが湖に入り始めた。
「お散歩に来て良かった。こうして沢山話してね」シャーロットがオスカーの手を取った。
オスカーはキュッと握り返して。
「僕たちは会ったばかりだからね。僕はまだ未熟だし」と言った。
「私も同じよ。」とオスカーを見つめてニッコリと笑った。

to be continue…

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