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ある日こんな二人があらわれた

「いいですか」
声をかけてわたしの正面にドカッと座った男
30代前半くらいか
背が高く体格もいい
甘い雰囲気はなく男くささを感じさせ
若さそのままのパワーにあふれ確固たる意志が表にビシビシと感じられた
隣の席についたのはお人形のような可愛らしい目鼻立ちのはっきりした女性
こちらは20代にみえる
控えめにほほ笑む口元のローズピンクのルージュがとてもよく似合っていた
ただ彼女もまた自分の意思を持ったまっすぐな瞳をしていた
二人とも似たようなロック調の服装だがペアルックではなく
それぞれに似合った着こなしでなかなかセンスもいい

お二人の相性でも見るのかなとおもっていたら
男はいった

「自分占いは全く信じてないです、今日はどんなもんなのかなって思って
参考までに覗きに来ました」
男は肩を広げ背もたれにもたれながら
お手並み拝見とでもいうようにそのサングラスの奥からまっすぐにわたしをみた

******

「今日は何を見ましょうか?」

「そうだなあ
これからの運勢とかみれますか?」

「わかりました」
わたしはいつものようにカードをシャッフルして一枚出した

皇帝

まさに今の彼そのもののように思えた
これからも自分の城を守り築いていくのだろうか

未来のカードにはペンタクルがでたので
現実主義の話を加えながらわたしは話しはじめた

男は
茶化すことなくふんふんと話を聞いてくれた

風貌とはうらはらに、彼の口調やちょっとした気の使い方に紳士的な部分がうかがえたのと、意地悪さは感じなかったので、わたしは下手にビビることをせず、彼の視線に正直に今の自分の姿勢を見せて返した

皇帝は自身で自分の人生を切り開いていく男っぽいカードだ
ただ、あまりに男性性が強く出すぎると頑固だとか融通が利かないなどの困った点が目立ってしまうが彼らしいカードではないかなと思いながら皇帝のカードの世界観やそれにまつわる話をした
彼は興味を示したようで身をのりだしてきた
反応がとても正直だ

ひととおり話を聞きおえてから彼はまっすぐにこう言った
「自分の人生は自分で切り開くものだって思っているし、これからも俺はそうしていく
だからいままで占いなんかに頼ったことはないし、これからも頼ることはしないです」

「しないと思います」ではなく、「しないです」と断言した

すごく自信に満ちているその姿はほんとうなのだろう
そして未知の世界に対してのほんの少しの虚勢もみえた

彼は続けた
「言い方は悪いかもしれないけれど占いって心が弱い人が来るところだと思ってるんです
だけど知らずにいるより何でも自分の目で見て決めていきたいし、まず覗いてみようって思って…」

「そうなんですね」

まさに皇帝そのままを生きてる
ただ男くさい男性はなかなか自分の弱さには気がつきにくい
占いを覗きに来る気になったのは本人にもわからない心の動きがあったのかもしれない
最初の座り方にはほんの少し虚勢というかけん制みたいなものがみえていたが真摯に話を聞いてくれるその姿勢には好感が持てた

そして体育会系なのだろうか
話の内容からして先輩とか後輩とか上下関係をしっかり持っていて
このしがない占い師にも敬意をはらってくれている

隣の女性も彼の距離感と同じくらいの熱量で会話に加わった
同じく現実主義のようだ

「彼女さんは…」とわたしが彼女に向かって話を振ると

いやこの子は彼女じゃない友達だ、と彼は即座に言い切った
男と女が揃っているとすぐにカップルと決めつけるな!そういう視線がとんできた
(お似合いだったのでついそう感じていたのだが…)

座り方もそれぞれに自立して座っていて
どちらかがどちらかにもたれかかっているような空気はなかった

思想の波長が合うもの同志ということなのだろうか
呼称には気を付けよう

わたしは皇帝のカードから派生する話をさらにつづけた
彼からも自分の仕事の仕方、自分の考える人生についての話が返ってきて
そのうちカードの話しから横道にそれて人生観の雑談になっていった

一息ついて
タロットの絵柄をゆっくり眺めていた彼女は聞いてきた
「タロット占いとトランプ占いはどう違うんですか」

わたしは口ごもってしまった

その様子を見て彼はすぐに
わからないことは聞かないように(女性に)
すみません気にしないで
と言った

人の表情や空気を読む速さがすごい
頭の回転も速いんだなあ

「トランプ占いをほとんどしたことがないので詳しくなくてごめんなさい
わたしは主に時期を数字で見たりオラクルカード代わりに使ったりオリジナルな使い方をしています」とだけ答えた

鑑定時間が終わるころ
人生の先輩からモラルの話を聞いた気分だったと感想をいってくれた
(なんか説教めいたことを話したかしら?)
霊感で視ることはできないわたしはスピリチュアル系の話より
けっこう現実主義寄りで話をする傾向がある
ただあまりやりすぎると説教になってしまうので気を付けてはいるのだが

それでも二人はそれなりに満足していただけたようだ

来てよかったです
面白かった
もう来ることはないけど

やはり断言して
二人はにこやかに帰って行った

******

…ほとんど雑談だったけど良かったのかなあ…
モラルの話しってわたし説教臭くなかったかなあ…
もしかしてもっと霊感的なものを期待されていたのなら申し訳ないな
せっかくなら霊視できる方のところへ行った方がよかったんじゃないのか?
ああいうのはめったにできない経験だし…一回きりならなおさら…
…でも満足してもらえたのなら ま、いっか…

人生はいつも順風満帆ではない
幾度と困難を乗り越えてもその先迷うこともでてくるだろう
だがたとえ弱くなっても彼の場合は自分で何とかしていくのだろうな

彼が占いにかかわるとすれば、彼の仲間が弱ってしまったとき
抵抗なく回復の一つとして占いを勧めてくれるのかもしれない
彼は一度その目で確かめに来たのだから、人に勧めるくらいの抵抗は失くなっているかもしれない

とにかく本人はもう来ないと思うけど(笑)



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