【タロット小説】 〜Ⅱ 女教皇 女司祭 〜


どこかから響いてくる

ひとつの声


遠く...

はるか遠くから...


その落ち着いた声のトーンは空間に

穏やかに

風に乗り広がっていく

「......&#@%*  よ  」

でも
何を言っているのか
遠すぎてまだ聞き取れない

「・・・ここは...どこだ...?」


目がかすんでいるのか
周りの景色はぼんやりとしか見えてこない
自分の動きも緩やかだ
機敏に動けない

・・・ああ
夢の中か・・・


浅い夢を見ている?
半分頭が起きているのだろうが
全く体が動かない


目覚めきれないわたしの脳は
まだぼんやりとあたりを漂っている


やがて

川のせせらぎが聞こえてくる

緑の匂いも鼻をくすぐる


…どこかの…森…?

ん…甘酸っぱい匂いもするけど…



少しづつ視界もはっきりしてきた

やがてはっきり見えてくる

見たことのない景色

それはとても雄大で穏やかで

空気がとても綺麗


空は青く澄み切っていて高い

見たこともない植物が生い茂り

半ばジャングル状態

ただ懐かしいにおいもする


どうやら私は
再び深い眠りに落ちていったようだ

と言っても深いらしいのでこう考えている自分はもう夢の産物


やがて映画のフィルムのように

ツギハギ状態で過去の思い出が流れ出す

オフィスで働く私・・

そういえば


朝から何か嫌な雰囲気を感じた時

必ず嫌なことが起こってた

虫の知らせっていうやつ?

それも回避できるものかできないものかまでわかっていたっけ


舞台稽古の最中・・・

ダンスシーン


危ない!

とっさに声が聞こえて

危うく舞台上から足を踏み外すところを

怪我せずに済んだ

その日は全員の自主練で皆舞台にあがっていて

舞台外外側から見ている者は誰もいなかったから

私が落ちかけていたことは誰も気づいていなかった

あれは誰だったんだろう…


よくわからないが賑やかな場所・・・

ここどこだっけ…


人と会ったとき

その人とは長い付き合いになるか短くなるか

肌で感じてたな

ああそうか

何か閃いた感覚を持つときもあった


思い出してみれば

たくさんの直感で行動していたな


だけどこの頃はそういうカンを使う場面が減っている

仕事が忙しくなり

考えが偏っている

というより経験値が上がっているので

そちらで対応出来ることが多くなった

仕事はそれでいいのかもしれないけれど

どうもこの頃感度が悪い


一昨日

突然身体中に蕁麻疹が出てきた

両腕

お腹

あらゆるところに
手のひらサイズや小さいサイズの茶色いシミ

内出血をしたかのような赤い花のようなしみ
そしてぶつぶつ

わたしにとってはじめてのことだった

行きつけの診療所に行ってもわからないという
少し先の総合病院で診てもらうと
蕁麻疹だという診断だった
ストレスだろうと

自分としては胃腸にも精神にも来ていないように思える
もしかしたら仕事の様式が変わり新しい時間の使い方にかなり苦慮していたからそれかもしれない

新しい時間の使い方を使いこなしていないストレスだと思うのだけれど…

最近ヨガもサボり気味だし…


あ…そういえば昔

何もかも無くしてしまったと感じてたあの時

これからどうしようかなとつらつらと考えてた時

いきなり

大きな石でできた

ヨ  ガ  

の二文字を天から投げつけられて怒られたこと…

あったなあ…

そうはじめ人間ギャートルズのあのアニメのように

二文字の石が頭に落ちてきた

ほんとそんなんだった

「そう

あの時それを投げつけたのはこの私だ!

目覚めよ!」


え!?


ピピピピ!  ピピピピ!

…んごっ!

突然の目覚まし時計の音と自分のいびきでたたき起こされた

ピピッ  プチン!

(目覚ましを止める音)


 「お前遅刻すっぞ? 今日休み?」

「……ん…ふぁ…おばよお~…」


シャッ

カーテンが開けられ

日の光が勢いよく部屋の中に入ってくる

夏の朝は早い


…夢か…

枕元にウエイト版のタロットデッキが散らばっている

ノートは開けたまま寝てしまったようだ


そして散らばった中から離れてポツンと一枚だけ

わたしの枕元に落ちていたカード

女司祭が静かにこちらを見つめていた



布団の上にすわり

ぼさぼさの頭のままぐっと両腕を延ばしおおきなあくびをする

「ふあ~い」

思わずそのカードを見ながら生返事をした


隣のリビングからとぽとぽとコーヒーを作る音がする

ん~いい香り

今日もまた仕事だ

明日はお休みだからちょっと仕事から離れよう

少しマシになった蕁麻疹をポリポリ搔きながら思った





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