月星ほい

生きています。

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最近の記事

いつかのこと

30代のはじめに卵巣のがんになった。 もともと生理不順だったけれど、がんがわかる一年前からは完全に生理がなかった。 夏、なんとなくおなかがでている気がして おふろあがりにへこましてみた。 太ったわけじゃない。 変だと思ったけどとりあえず、ダイエットをはじめた。 3キロほど痩せたけれど、おなかの違和感は変わることがない。 しかたなく清水の舞台から飛びおちる覚悟をして(キヨブタだ)はじめての婦人科に行くことにした。 婦人科というところは、からだの中に冷たい器具を入れられたりする

    • 宇宙のおわり

      乳がん疑いが晴れて「さあ!こんどこそ生まれ変わったのだ、新しい人生をはじめよう」と思っていたところ、謎の頸椎の激痛におそわれて半月ほど拷問のような日々をすごしていた。 人生で2番目に痛い。 ちなみに1番目は卵巣がんが捻転したとき、3番目は顎の矯正器具が締まりすぎて食い込んだときだ。 がまん強い方だけど、幾晩も眠れない日が続いてさすがに泣きそうになった。 もしかして精神的なものかしら、と疑う。 未来について、仕事について考えると苦しいから、具合が悪くなると都合がいいのだろうか

      • ベートーヴェン、うまれてよかった

        二年ほどまえに乳がん疑いで針生検をした。 胸に針を刺してズドンズドンと細胞を採られる。 もし乳がんでも初期だろうという見立てだけれど、やっぱり結果が出るまでの2週間のあいだ薄氷の上にいるきもちだった。 けれど検査が受けられることや、それを見守って心配してくれる人がいることを有り難く思う。 脳内で「われわれは、そっちのラッキーの方に注目したいと思っているのです」という解説の知らん人の声が聞こえてきた。 検査が終わると、「麻酔があってよかったー!」と先生につぶやいた。 5年来の

        • 鹿森さんのこと

          鹿森さんとはじめて会ったのは K病院の508号室だ。 がんの手術のために、わたしは4人部屋に入院しようとしていた。 てつづきをすませて母と一緒に荷ほどきをしていたら、カーテンの向こうから点滴を引きずって、となりのベッドの患者さんがでてきた。 それが鹿森さんだった。 はじめましてのあいさつを交わす。 わたしとおなじ手術をすでに受けた鹿森さんは、不安がこぼれでる母に 「私もできたから大丈夫ですよ」と言ってくれた。 母はその言葉ではりつめていたものが解けたと今でもいう。 同部

        いつかのこと

          わたしのカムパネルラ

          ある日、ふと思ったのだ。 Sちゃんとわたしは『銀河鉄道の夜』にでてくる二人みたいだなあ、と。 すべての色を含んで真っ暗にみえる、茫漠とした宇宙に刺すほど光る星々。そのあいだを縫うように走る線路を手をつないで歩くSちゃんとわたしのイメージが浮かんで消えた。 そんなイメージが浮かんだはいいけれど、『銀河鉄道の夜』がどんなお話だったのか、いつ出会ったのか、何回読んだのか、まるではっきりとは思い出せないのだった。 気がつけば知っている、空のほうに存在している物語みたいに思っていた。

          わたしのカムパネルラ

          夜に似ている

          夜はわたしが飼っていた雑種の犬だ。 だけど本犬に聞いたらじぶんのこと、雑種の犬だなんていわないと思う。 夜は夜だ。 誇りたかくて、自分勝手で、スターみたいな犬だった。 柴犬とスピッツがまざったような美しい顔をしていた。柴ピッツだ。 見るからに生きる力に満ちた夜のようだ。 夜がはじめてうちにきた日に、わたしは思った。全国に5000匹くらいいそうな犬だ、散歩中にすり替わってもたぶん気づけない、と。 そう思ったじぶんを今では懐かしくおもう。 たとえ人間に生まれ変わっても、ネズミ

          夜に似ている