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小説✳︎「月明かりで太陽は輝く」第40話


結里子ー会いたい

ケイの乗った新幹線が遠ざかって行く。
ケイの唇は
「愛してる」
って言ってくれた。

ドアが閉まる前に、言ってよね。
軽くツッコミたくなるけど
恥ずかしかったんだろうな。
ふふふと、思い出し笑い。

なのに涙が出てきちゃう。
帰り道で、繋いだ手の温もりを
思い出していた。

♢♢♢♢♢

あれから半月程して
奏くんと歌織ちゃんが
元ケイの部屋に引っ越してきた。
つわりがかなり強くて
一日中気持ち悪くて仕方ないと
歌織ちゃんは言う。
でもおしゃべりしていると気がまぎれる様で、お呼ばれするので私はしょっちゅう遊びに行かせてもらった。

ケイが名古屋へ行ってからも
毎日LINEで「お早う」「おやすみ」を
送り合う。
週末はビデオ通話で話しながら、食事をしたりして。
昔の遠距離恋愛は大変だったろうなあ。
こんな事できなかったんだもんね。

でも、心の温もりは感じる事が出来るけど抱きしめてもらったあの温もりは、リアルにはならない。

やっぱり会いたい。

電話のビデオで顔見た後に
逆に淋しくなるのは、何故なんだろう。

仕事なんかで忙しくしていると忘れてるけど、うちに帰るとチョビがすっかり
ケイの寝袋がお気に入りで
しまえずにいるものだから
いつもケイがいる様で淋しさが募る。

やっぱり会いたい。

数週間して
ケイから連絡があった。
東京の本社に出張で
3日間程、帰ってくるとの事。

もう一気に
テンション上がる私。

カレンダーに印を付けた。
3日間、会社近くの
ビジネルホテルに泊まるけど
最終日は土曜だから日曜の夜に
名古屋に戻れば良いって。
土曜の夜は、私の部屋に
泊まってくれる。
引っ越しの日、残していった
ケイのパジャマも
もう一度、洗濯しておこう。
後は何を用意したら良いかな?

ウキウキと、遠足前の小学生みたいに
カレンダーを眺めては、指折り数える。
なんだかそんな自分が可笑しくて
笑っちゃうけど
会えない時間は、かえって幸せを
運んでくるものなんだと
思えてくる。
♢♢♢♢♢
ケイがエントランスホールの
インターホンを押し
「俺だよ」って言った時
チョビの耳がビクッと動く。 
わかるんだね。
私も嬉しくて
スキップしながらドアまで行き
チョビを抱きながら待つ。
ドアホンが鳴り
モニターがケイの顔を映す。
会いたかったその笑顔に
私は、泣きそうになってる自分に
ちょっと驚きながらも
ドアを開けた。

この瞬間は嬉しすぎて
私、フリーズ。
すぐにケイは、私を抱きしめてくれた。
大きな胸と腕の中で溶けていく私は。
幸せってこういう事なのかって
本気で思っていた。

折角だからと、奏くん達のお部屋にも
呼ばれていたので
歌織ちゃんの負担にならない程度に、二人で
お邪魔した。
もうすぐ家族が増える素敵な空間に、こちらも
幸せな気持ちにさせてもらえた。

あの、最後の1週間のケイと私の生活も
楽しかったからこそ、たった1日で離れちゃうことが悲しくて、複雑な思いにも
なってしまった。

でも今は、二人で一緒にいられる
この時間を大切にしよう。

次の日、まだ眠るケイの顔を
しばらく眺めてから、そっとベットから降りて洗面所へ行き洗顔する。
タオルを外し鏡に自分の顔を映すと
すぐ横にケイの顔も映った。
「わっ!びっくりさせないでよ〜」
「あははは、驚いた?」
そんなお茶目なケイは
「充電」と言って笑いながら
長い腕を私に絡みつける。

出発するまでの時間を
私達は目一杯
触れ合いながら過ごした。


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