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小説✳︎「月明かりで太陽は輝く」第30話

結里子ー今のまま

ケイからの、素直な心の言葉に
私は即答出来なかった。
何もなければ
「私も、あなたの事大好き!」って答えたのに。

ケイ……
ごめん。本当にごめんなさい。 

公園デートの後、ひさしぶりに帰った実家。
仏壇に、お線香あげる。私が国資に合格した年に、祖母は亡くなった。
いつも優しくて私の味方だった祖母は
遺影も同じ笑顔で、私を迎えてくれる。
「ただいま」
「お帰り。夕飯は?」
いつもと同じ母の言葉。
「うん。食べてく」
「泊まってく?」
「いい。チョビ居るから夕飯食べて帰るわ」
「そっ」
「お父さんは?」
「夜釣りだって」
「相変わらず、やってるんだね」
「まぁ、お母さんは楽だけどね」
「あのさ、お母さん。井の頭公園で昔.私の泥団子食べちゃった男の子、覚えてる?」
「あれねー。覚えてるわよ。あの子どうしてるんだろうね」
「あの子、元気だったよ」
「ん?何よそれ」
♢♢♢♢♢

母にケイの事を話した。
すごくびっくりしていたけど
ケイからの思いを聞いた事も伝えた。

「佳太さんは、結里子の病気のことも
知ってて、言ってくださってるの?」
「もちろん」
「そうなのね」
母は、良く話し合ってみる事。
私の気持ちや想いを、きちんと伝える事。そして、自分で決めなさいと言ってくれた。
帰り際、お父さんが帰ってきて
顔を見る事は出来た。
「なんだ、結里子が帰ってくるなら、もっと早く帰れば良かったなぁ」
「ごめんね。またゆっくり帰るから」

「お父さんには佳太さんの事、まだ言わないでおくから」
母は、そう耳打ちした。

自宅に戻り、チョビにごはんをあげながら
ケイに電話をした。
「もしもし。今帰りました」
「おかえり」
「遅くにごめんなさい」
「良いよ。大丈夫」
「今日は本当にありがとう。すごく楽しかった」
「良かった。ご実家でみんなに会えたの?」
「うん。久しぶりにみんなに会えた。
ケイの事、母に話したらびっくりしてたよ」
「だろうね」
「あのね。ケイが引っ越すまで
私達、このままでも良いかな?」
「引っ越すまで?」
「そう。それまで時間が欲しい」
「良いよ。リコの思うまま。それで良いよ」

ケイのいつもの笑顔が見えた気がした。
私も安心した。
「じゃ、おやすみなさい」
「ん。おやすみ」

友達以上恋人未満
リミットは3ヶ月
もしも転勤が無ければ、そのままずっと
このままの関係だったのかもしれない。
でも一つの締め切りが降ってきたのも
きっと意味がある。
私も想いをちゃんと伝えられるように
しなくちゃ。
♢♢♢♢♢
ケイは、公園デートの後も、色々な所へ連れて行ってくれた。
そして、約束していた新しいDIORの香水を
プレゼントするからとケイの会社の近くで待ち合わせ。

ノー残業の日。
一斉に社屋ビルから従業員が、出てきた。少し離れたベンチのある場所で、待っている私。長身のケイは、頭一つ出ているので、遠くからでも気がついてしまう。

私に気づいたケイも、男性と談笑しながらこちらに歩いてきた。

「これはこれは、林くん。これからデートかい?」ケイの隣の男性が話しかけてきた。
「はい。なので、ここで失礼します」
「あははは。素直に認めるんだなぁ。
初めまして。林くんと一緒の部署の高橋と言います」
「初めまして」
私は戸惑いながら挨拶した。
「いや、こんな可愛い彼女がいるからかぁ。最近、仕事もバリバリ頑張ってて、名古屋に栄転だもんな」
「そういう訳では」
「照れなくていいよ。あれだな、またうちの女子社員が何人か泣くなー。
林くんが、新入社員で入ってきた時、社内の女子がざわめいたもんだよ。
『何?あの脚長のイケメン!』ってね。しかも、歓迎会のピアノバーで、たまたまピアノ弾ける奴いないか?って話になって、林くん指名したらあっさり弾きやがって。
そこにいた女子、全員目がハートになってさ」
「ちょっと先輩!」
「あははは。こりゃパワハラになっちゃうか?いやセクハラ?訴えられる前に、退散するわ。じゃつ!」
そう言いながら、駅に向かう高橋先輩さん。
「ごめんね。いい先輩なんだけどさ。
ちょっと喋りすぎな人で。あんな事言ってるけど、社内で一番人気と噂された秘書課の女性と結婚してるんだよね。
モテるのは先輩じゃないかって思うけどね」
「うふふ。やっぱりケイは、もてるよね。」
「そんな事ないよ。先輩、話盛ってるだけだよ」
「はいはい。分かりました」
「あのさー」
「うふふ。いいからいいから。
それよりお店行きましょ」
「そうだ!行こう行こう」

会社から駅とは真逆の方向に
お店があるらしい。
ケイと並びながら、何故かまた
紘太と並んで歩いた日が
フラッシュバックしてしまった。

「確か、この辺だったはず」
「ケイ、DIORのお店が近くにあるって
よく知ってるね。駅とは反対だから、わざわざじゃなきゃ分からない場所なのに」
「ああ、前に一度行ったことあって」
「へぇ、そうなんだ。ケイがDIORの物、買うなんて意外」
「いや、俺じゃなくて、以前付き合ってた子が
DIOR好きで、付き合わされた事があって」
「あ、そうなんだ……」
何気なく悪気もなく、ケイが口にした『元カノ』に少し心がチクリとした。
そりゃそうよね。
これだけカッコイイんだもん。今まで彼女さんなんて、たくさん居たよね。


「あ、あった」
ケイは、先にお店の前に行き 
ドアを開けて待っていてくれた。

私もあまりこういうお店には、来ることも無いからちょっと緊張しながらお店の中へ入って行った。

買い物を済ませてキラキラ眩しい店内から
歩道に出た時、少し息を吐いた私に
ケイは笑いながら
「なんか慣れないから
こういうお店は緊張するね」と言った。
DIOR好きの元カノとは、そんなに何回も来てないのかな?
「うん。ちょっと緊張してた。でも、本当にありがとう」
「どういたしまして。じゃ、帰ろうか」
「うん」

新しい香水の香りが、二人を包みながら
また来た道を並んで歩く。
元カノとも一緒に歩いたのかな?
自分は、紘太を思い出しておきながら
ケイの元カノが、気になるなんて、私ってなんて自分勝手だろうと思いながら
せっかく、プレゼント貰えたのに、なんか凹んでる私。
「まだ緊張してる?」
ケイが尋ねる。
「あ、うん。大丈夫」
ちょっと言葉が少なくなった私に
気遣いしてくれるケイ。
「お腹すいたのかな?」
「え?あ、うん」
「いつもランチで行くイタリアンが
近くにあるんだけど行ってみる?美味いよ」
「わぁ行きたい!」
途中にも、仕事帰りに寄るお店や、職場の人と行くお店。ケイの仕事振りを想像しながら
ひとときを過ごした。


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