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短編小説✳︎青い朝顔

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記事一覧

短編小説✳︎青い朝顔 ❶ 真夏の夜

短編小説✳︎青い朝顔 ❶ 真夏の夜

タイマーは切れていた。

エアコンからの風は途切れ、首筋の汗を手の甲で拭う。
「あっつ!」

北の方の生まれの小夜《さよ》には
東京の夏は耐え難い。

節電と言われても、エアコンは止められない。
と言っても朝までかけると体調が悪くなるからタイマーにしてみるが、案の定真夜中に目が覚めてしまう。

薄明かりの中、朝顔の青が浮かぶ。

明日の花火大会に
雄介《ゆうすけ》と行くため
引っ張り出した浴衣の柄

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短編小説✳︎青い朝顔 ❷ バイト

短編小説✳︎青い朝顔 ❷ バイト

東京の大学に入学し、すぐに見つけた雑居ビルの中にある、居酒屋の厨房でアルバイトを始めた小夜。
基本、女子はお運びに回されるが、料理が好きなのとなるべく喋らなくて済む仕事を希望した。

東北訛りがどうしても気になって、極力おしゃべりはしない様にする。
だから大学でも、なかなか友達も出来なくて、せっかく東京に来たのに、いつも一人でアパートの周りを散歩するくらい。
地下鉄もよく分からないし、スマホで調べ

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短編小説✳︎青い朝顔 ❸ 彼氏

短編小説✳︎青い朝顔 ❸ 彼氏

大学2年になって、友達も出来ないと思っていた小夜にも『彼氏』が出来た。

色が白くて、少し訛りのある話し方が、雄介はとても気に入ってるからと言ってくれたので、彼の前では訛りを気にせず、小夜もたくさん話ができた。

サーフィンにも小夜はよくついて行くようになった。
サーフィン仲間の友達もずいぶん増えた。
気にしていた訛りも、誰も笑う人はいないし、むしろ可愛いと言ってくれる仲間達。
ただ色白の小夜は、

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短編小説✳︎青い朝顔 ❹ 握った手

短編小説✳︎青い朝顔 ❹ 握った手

まだまだ日が落ち切らない夕どき。
小夜のアパートの最寄駅改札で、雄介も甚平姿で待っていた。お互いいつもとは違う雰囲気。
「なんかさ、良いよね、こういうのも」
「そだね」
「浴衣とか持ってんだ」 
「母ちゃ……お母さんが正月に家帰った時に、持っていけば?って言ってくれて」
「ヘェ〜。似合ってるよ。可愛い」 
「あ、ありがと」

花火大会会場には、すでに仲間たちが
ブルーシートを広げて待っていてくれた

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短編小説✳︎青い朝顔 ❺ 夏の歌

短編小説✳︎青い朝顔 ❺ 夏の歌

他の仲間とも駅で分かれて、あてもなく並んで歩く夜道。
公園の電灯に、虫がチラチラ飛び回る。
だんだんと歩みがゆっくりになる。
離れ難い二人の気持ちは一緒。

「もうこんな時間か」と雄介。
「待ち合わせが夕方だから、あっという間だね」と小夜。
「どうするこれから」
「どうしよっか?」
「俺んち、来る?」
「良いの?」
「散らかってるけど」
「そんなの気にしないけど」

初めて雄介のうちに、招かれた小

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短編小説✳︎青い朝顔 ❻ 届かない

短編小説✳︎青い朝顔 ❻ 届かない

飲み物を一口飲んだ後、雄介が小夜の肩に手をかける。
小夜も麦茶なのに、体が火照ってきて心臓が激しく鼓動する。
雄介は小夜にささやく。
「あのさ、浴衣、小夜は自分で着たの?」
「え?うん。自分で着られるよ」
「あぁ。そう」
少しホッとしたような顔を、小夜は見逃さなかった。
(そう言うこと?)
雄介は一つ年上だけど、ちょっと可愛いと小夜は思った。

キスをしながら、小夜の頭を優しく枕にのせた。
浴衣の

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短編小説✳︎青い朝顔 ❼ 花言葉

短編小説✳︎青い朝顔 ❼ 花言葉

「あっつ!」
今夜も夜中に目を覚ます。
夏の夜になると、初めてのあの日を思い出す。
青い朝顔の花言葉
『短い愛・儚い恋』よろしく
雄介とは彼が社会人になって、いつの間にか連絡が少なくなり、小夜も就活で忙しくなり始めて会えなくなった。

さよならを言うこともなく終わった恋は、親からもいい加減結婚しないのかと、言われる歳になっても、何かの拍子に思い出す。
「雄介、どうしてるかな?」

東京での暮らしに

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