![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/117361112/rectangle_large_type_2_bb52ad127c06e82da0bd97fdcc171940.png?width=800)
『猿蟹後日譚 : 一名・猿蟹弔合戦』をネットの海に残す
前回紹介した『猿蟹後日譚 : 一名・猿蟹弔合戦 (幼年文学 ; 第2)』だが、神アプリである『みを』のおかげでどうにか読み終えることが出来た。
猿蟹合戦の別バージョンといえば芥川龍之介のものが有名だが、今回の猿蟹弔合戦はそれとは全然違う後日譚だったので、なかなか楽しめた。
(芥川龍之介の猿蟹合戦は、カニが復讐とはいえサルを殺したため、裁判で死刑になるというお話)
さっと調べた感じでは、この猿蟹後日譚 : 一名・猿蟹弔合戦の内容を書いているサイトもなさそうなので、自分がネットの海に残しておくとしよう。
(需要はなさそうだが)
後日譚の前に、まず猿蟹合戦の内容をおさらいしよう。
カニがおにぎりを持って歩いていると、サルが柿の種と交換しようと言ってきた。
カニは最初嫌がったが、「柿の種は植えたら実が一杯実るからお得だぞ」とサルが言ったため、交換することにする。
カニは「早く芽をだせ柿の種、出さなきゃ鋏でちょん切るぞ」と歌いながら柿の種を植えて、のちに柿の木は実をたくさんつけた。
そこにやってきたサル。
「俺が登って柿を採ってやるよ!」と木に登り、パクパク美味しく柿を食べ始める。
カニが「ちょっと!僕にもおくれよ!」というと、サルはカニに渋柿を投げつけ、それによってカニは怪我を負ってしまうのだった。
傷ついて寝込むカニからその顛末を聞いて憤った蜂や臼や玉子らは、サルに対して復讐を決意。
彼らはサルの家に忍び込み、帰ってきたサルをボッコボコにしたのだった。
めでたしめでたし。
実は他にも「カニが死んで子ガニが産まれて復讐するパターン」や、栗やら牛ふんやらが登場したりと色々バリエーションがあるのだが、今回は猿蟹弔合戦に合わせる形で上記のものにした。
では、巌谷小波による猿蟹合戦の後日譚を見ていこう。
あ、もちろん原文ママは難しすぎるので、独自翻訳したものです。
本物が読みたい方は、国立国会図書館デジタルコレクションに登録登録!!
むかしむかし。
旅人の落とした握り飯(おにぎり)と、子供の吐き出した柿の種が、川の辺りで偶然出会った。
二個(ふたり)とも猿蟹合戦以来の再会だったので、当然会話に花が咲く。
そして、「なんで猿蟹合戦は始まったんだろうか?」という話題になった。
「うーむ……元を正せば、カニとサルがおにぎりと柿の種を交換したことが全ての始まりだったよな」
「そして、その後柿を実らせたばかりにあんな争いが生まれたのだ」
「それをいうと、おにぎりが食べられて消滅しちゃったのも悪いな」
「「つまりは俺たちが悪かったということだな……」」
おにぎりと柿の種は、自分たちのせいであの争いが起きたのだと反省する。
「よし、俺はもうサルやカニに拾われても柿は実らせないことにする!!」と宣言する柿の種。
「よっしゃ!じゃあ俺も、食べられても消滅しないようにする!!」と宣言するおにぎり。
ふたりは固く約束をするのだった。
そんなわけで、まさかの「柿の種」と「おにぎり」が主役だった。
![](https://assets.st-note.com/img/1695820058057-IiKkN427iq.png?width=800)
確かに本家の猿蟹合戦で最序盤に出ていたのは彼ら(?)だが、これを登場人物に据えるなんて常人の発想ではない。
そして彼らは議論の末、猿蟹合戦の原因は自分たちにあるという結論に至り、「もう地面に植えられようと柿の実はつけない」ことと、「食べられても消滅しないおにぎりになる」ことを固く誓う。
前者もすごいが、後者はもう魔法である。
『消滅しないおにぎり』って何?
こんなぶっ飛んだことをさらっと書ける巌谷小波、やはり只者ではない。
そして時はきた。
向こうからサルとカニがやってきたのだ。
しかも、まさかの猿蟹合戦で争った当事者のサルとカニである。
サルは柿の種を拾い、カニはおにぎりを拾った。
カニがサルに話しかける。
「おいサル公(笑)おにぎりと柿の種、交換してやろうか?(笑)」
サルはそれを聞いて怯えたように手を左右に振り、
「いえいえもう懲りてますので!私は自分で柿の木を育てて食べます!おにぎりはあなたが召し上がってください!私は少しも欲しくないですから!」
カニはそんなサルを見てニヤニヤしながら、
「怯えてるねぇ(笑)まあ当然おにぎりは食わせてもらうが。あ、柿の実がなったら俺によこせよ?」
「も、もちろんです!言うまでもなく何個でもごちそうしますとも!!」
「また渋柿なんざ投げたらどうなるか、わかってんだろうな?」
「もももももちろんです!玉子殿や臼殿も呼んでくださいまし!!」
そんな会話の後、サルは自分の家に逃げるように駆け出した。
カニはそんなサルの後ろ姿を高慢にせせら笑いながら見送り、おにぎりを抱えて自分の住処に戻るのだった。
もうカニのファン辞めます!!
猿蟹合戦を終えて、両者の立場は完全に逆転しているらしい。
なんかもう、カニがめっちゃ嫌なやつに変貌している。
いやもちろん当時酷いことをされたのは事実だけどもさ……!
そして当然のように柿も要求するカニ。
お前、変わっちまったな……。
そんなわけでカニの住処にておにぎりをもしゃもしゃ食べるカニ。
しかし柿の種との約束ゆえ、おにぎりは消滅する訳にはいかない。
おにぎりは食べても食べてもなくならないのだった。
カニはそんなおにぎりを不思議に思いつつも、「お天道様のお恵みだな!」と喜んで食べ続けた。
一方のサルはというと、
柿の種を庭に植え、肥料をやったり水をやったり、丹精込めてお世話をし、やがて柿の木は見上げるほどの大木に成長した。
しかし柿の種は「実は絶対につけない」と約束しているのだ。
そのため、柿の木は8年経とうが9年経とうが、枝葉が茂るばかりで花すら咲かない。
おかしいなと思いつつも、サルは毎日お世話を続けるのだった。
無限に食べられるおにぎりが爆誕してしまった。
そしてサルは9年以上お世話しているのに、柿の木は実をつけない。
だがこれも争いをさせないための約束ゆえ。
仕方がないのだ。
「おーいサル公!そろそろ柿出来たろ?食いに来たぞー!」
もう柿の実が食べられると思ったカニが、サルの家にやってきた。
そんなカニに対して、「いやそれがどうも実が出来ない柿の木みたいでして……」というありのままの事実を告げるサル。
「こんなでかい木で実がならないわけがないだろ? どうせお前が全部食べたんだよな? 俺に食わせたくなかったから!!」と怒るカニ。
「み、実がならないのは本当ですし、どうしようもないのです!」
サルは続ける。
「私はもう以前の件で懲りていますので、実がなったら一番いいものをあなた様へお渡ししようと、日々お世話をしております!」
「実ができるようにと、最近は他の果物を食べることすらやめたくらいです! それなのにそんな言い方は……!」
そんなサルに対してカニは、
「あ~言い訳とかいいんで。サルは口が上手いのは知ってんだよ。でも俺はもう騙されないよ? こりゃ玉子や臼さん呼んで、また懲らしめたほうが良いかな~?」
サルはそんなカニの発言に怯えて、
「お待ち下さい!私は臼の”う”の字を聞くだけで身の毛がよだつんですよ!?」
しかしカニは認めない。
「実らない柿の木なんざないんだよ!! さ~て、臼と玉子を呼びに…」
「わ、わかりました!この4~5日の間に実らなかったら何をされても構いませんから、どうか今日は許してくださいまし!!」と、必死なサル。
カニはそれを聞いて、
「面白い。じゃあ4~5日待ってやるが、もし実がなかったら覚悟しとけ?」
「もちろんです!!」サルはそう答えてしまうのだった。
……サルがめっちゃ不憫。
そして基本的に他人の力を笠に着てサルを威圧するカニ。
き、気に入らない……!
そんなサルとカニの会話をしっかり聞いていた者が居た。
それは柿の木である。
柿の木は思った。
(カニの横柄さが本気で気に入らない)
(だがサルの意気地のなさも歯痒くて仕方がない)
(しかしこれって、自分が実をつけないせいで起きてるんだよな…)
その夜、柿の木は葉っぱを一枚落とし、その葉っぱをカニの住処へ向かわせるのだった。
カニはおにぎりの爆食いに疲れたのか、すっかり眠っていた。
葉っぱはその隙にカニの住処へ侵入し、おにぎりとの再会を果たした。
「おにぎりよ、俺がサルに拾われてから11年経ったが、あいつは実のならない俺なんかのために毎日毎日世話をしてくれている。正直もう実りたくて実りたくてたまらんのだが、約束があるからと必死に堪えて、実るのを我慢している日々だ」
そして葉っぱは今日やってきたカニとの会話内容もおにぎりに話した上で、
「カニは臼や玉子の加勢があるのをいいことに、今や傍若無人すぎる。正直ひっぱたいてやりたいくらいだった」
「それにだ、こんなに世話しても渋柿一つ成らさない木なんて、大抵の者は腹を立てて薪にでもしそうなものだが、あのサルは朝から肥料やら水やら害虫駆除やら、すっごい親切なのだ」
「このまま俺が実をつけなければ、サルが大変な目に合わされてしまうし、それでは争いを防ぐために約束をしていた意味がないんじゃないか?」
おにぎりはそんな話を聞いて、
「そういう理由なら一日でも早く実を成らしたほうがいいな。それにカニときたら、他人の力で威張り散らした挙げ句、一日中俺にへばりついて食い続けているんだ。そろそろ食いすぎで死ぬんじゃないかと思うくらいに」
葉っぱはそれを聞いて、
「じゃあお前も消滅してカニを懲らしめてやったらどうだ?」という提案をした。
しかしおにぎりには何か考えがあるらしく、今のところ消滅する気はないようだ。
「まあなんにせよ、一刻も早く実をつけるがよかろう」と、おにぎり。
そんなわけで、葉っぱはカニの住処をあとにして、また柿の木に戻るのだった。
そうだった。
最初に出てきた柿の種とおにぎりのことをすっかり忘れていた。
思えば今回の事件は彼らの約束がきっかけで起こっているのだ。
どうにかカニの酷さを葉っぱがおにぎりに伝え、約束の終了と相成った。
柿の木が葉っぱを使って外出しているのは、もう魔法ということにしてスルーしよう。
(なんかもう普通に擬人化してるし)
![](https://assets.st-note.com/img/1695823182828-RhjOZlEkuu.png)
そしておにぎりに対して、「お前も消滅すれば?」という提案を平然としているのは面白かった。
どういう仕組みなんだ彼らは?
世界のどこかに別のおにぎりが存在していれば、この場所のおにぎりは消滅しても問題ないとかそういう概念……?
「作者の人そこまで考えてないと思うよ」という幻聴が聞こえたので、ここまでにしておこう。
なんにせよ、これでサルは助かりそうである。
サルはどうやって柿を実らせようかと思い煩い、結局一睡もできないまま夜を明かした。
「もう朝だ…肥料をあげないと…」
サルがいつものように世話をしようと、柿の木へ向かうと……?
柿の木には、紅く色づいた美味しそうな柿が実りまくりだった!!
それを見たサルは、嬉しいやら呆れたやら複雑な心境になりつつも、山王様のおかげだろうということで伏して拝み、試しにと一つ食べてみた。
その柿の美味いこと!!
頬も落ちるばかりの甘露に、気づけば3つ4つとパクパクしちゃうのだった。
「そうだ、これをカニに持っていかねば!!でもこれでどうにか、玉子と臼の襲撃は回避できるぞ!!」
サルは急いでカニの住処へ向かう。
しかし留守なのか、呼んでもカニの反応はない。
もしかしたら眠っているのかもと思い、サルは中に入った。
そして部屋の中でサルが目撃したものは……!
甲羅が二つに破れ、
目玉は飛び出し、
両手のハサミにはおにぎりを掴んだまま、
泡を吹き出したカニの姿……!!
食べ過ぎで死んだようである。
~おしまい~
……いやちょっとこれ、
新感覚でなかなか良かったんじゃない?
序盤からぶっ飛んだ設定はありつつも、教訓めいたものは本家の猿蟹合戦より多かったような気がする。
「増長してはいけない」とか、「人(サル)は変われる」とか、「良い行動をちゃんと見ている人はいるよ」とか、なんかそんな感じで。
じゃあなんでこの作品が世間に全然知られていないかといえば、どう考えても本家のカニを台無しにするからだろうな、とは思う。
最初から最後まで嫌なやつだもんな……この作品のカニ。
いやしかし、元の猿蟹合戦の「早く芽をだせ柿の種、出さなきゃ鋏でちょん切るぞ」というセリフからは、カニの暴力性の片鱗が見えているのかも?
そして当たり前のように作中で10年以上過ぎるのがまたすごい。
いってみれば、小学校卒業の頃に「柿食わせろよ!」と言った約束を、大学卒業後に要求してるみたいなもんである。
そしてよく考えたら10年食われ続けているおにぎりも相当だ。
ラストが食べ過ぎというのもこれまた斬新でいい。
……ああ、やはり古典はぶっ飛んでいて面白いなあ。
『みを』アプリのおかげでどうにか読めなくはないし、これからも漁り甲斐がありそうだ。
しかも最後の方に付いていた宣伝ページを見ると、何やら興味深い昔話がまだまだいっぱいあるらしい。
![](https://assets.st-note.com/img/1695822016538-c592P6rPTB.png?width=800)
『舌切雀後日譚』に、『鬼桃太郎』?
おいおい……
盛りだくさんだな……!!
鬼桃太郎は国立国会図書館デジタルコレクションにも存在し、『みを』で読めそうな感じなので、そのうち読もうと思う。
みなさんも暇すぎた時はぜひ国立国会図書館オンラインを漁ってみて欲しい。
誰かが紹介したことのない古い本が、まだまだ眠っているはずだから……!
サポートには感謝のコメントをお返しします!