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延命

夜はずっと深い。きっとあのカーテンの奥に月は見えない。
秒針に襲われるような、じっとりとした現実が私の上を横たわっている。

眠れない夜だった。
長い長い夜だった。
悪夢と現実の狭間で揺れて、悪夢では誰かが、現実では秒針が嗤っている。

ようやく朝になれば、今日と同じような仕事をして、また冷たい日々を繰り返す。
大人になった日を思い出せずにいる。昔は正しく笑えていたような気がする。

温もりを欲していた。

不眠の頭はまともな思考を許さなくて、走馬灯のように人生の辛苦を撒き散らす。


温かいものが欲しかった。

休日に母が焼いてくれたパンの匂いとか、いつも祖母がくれる少し湿気ったクッキーのパサつきとか。
友達と喧嘩して帰った日の温かいスープとか、湯気にそっと顔を隠して、人知れず湯船に溶けていく雫の音とか。

疲れて眠った先の微睡みで感じた、母の手のひらの温度とか。

当たり前の享受が当たり前でなくなって、
それでも当たり前の大人にはなれなかった。

日々が辛くて堪らないから、
辿って、縋って、
大人の自分の身体を憎んで今日も、
今日も朝を待っている。

まだ息をしている。

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