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嗣人
2024年5月26日 01:27
きっかけは些細な口論だった。 とある映画作品の挿入曲についての賛否を話していたのだが、私は結末を是とし、友人である彼はそれを頑として認めなかった。 互いに酒が入っていたのも良くなかった。 小さかった些細なすれ違いが加熱していき、あっという間に燃え上がってしまった。互いに引くことが出来ず、譲れないまま口論となり、最終的には掴み合いとなった。店で飲んでいれば止めてくれる第三者がいてくれた
2021年2月15日 23:11
急に降ってきた雨から逃れるように、路地裏へ入り込んだのがいけなかったのか。いつの間にか迷ってしまい、入ってきた場所にも戻れなくなってしまった。 屋敷町。古い武家屋敷の残る街並み。東西に近衛湖疎水の流れる、雨の似合う雅やかな街だ。「おお、ありがたい」 路地裏の先、少し開いた空間に一件の店が居を構えている。一見すると古い民家のようだが、よく見れば磨りガラスに屋号を記した紙が張り付いていた。夜行
2021年3月24日 00:24
夕刻。今日も1日の仕事を終えて、それなりに人の多い電車に揺られ、最寄り駅から家路につく。 イヤホンからは好きなアーティストが、日常や社会へのやるせなさを歌詞に込めて歌っている。ぼんやりと空を見上げると、乱立する雑居ビルの合間から覗く狭い夜空が群青に染まっていた。雑踏を歩く人々に混じって、こうして歩いている自分がなんだか羊の群れの一匹になったような気になる。「ただいま」 一人暮らしなので返事
2020年3月29日 15:27
まとわりつくような霧雨の中、睫毛から滴り落ちる雨粒を手で拭う。決して視線を外さないよう、瞬きひとつしないよう細心の注意を払いながら、視界の端で倒れる相棒に意識を向ける。 彼はぐったりと倒れたまま目を覚ます素ぶりはない。無理もない。あれだけの高さから地面に叩きつけられたのだ。骨の二、三本骨折していてもおかしくはない。最悪、死んでいる可能性すらある。本当なら今すぐ駆け寄って容体を診るべきだが、今
2020年5月17日 13:58
亡くなった祖父は戦後の動乱期に財産を成した人で、田舎とはいえ屋敷もかなり大きく、私が幼い頃には住み込みのお手伝いさんが何人もいたりした。当然、遺産も多いので、父たちは相当に揉めるものだと考えていたが、祖父はきちんと遺産を均等に息子たちに分配し、膨大な量の蒐集品も亡くなる前に売却してしまっていたという。抜け目がないというか、流石の采配に親族一同驚いたものだ。 その為、通夜も穏やかに進み、久しぶり
2020年5月19日 13:58
急に降り出した天気雨から逃れるように、私はとにかく軒先へと飛び込んだ。 路地裏へ入り込んだのが間違いだったのか、古い武家屋敷が建ち並ぶこの町は、裏路地があちこちで入り組んでいて思った方向へ進むことが中々できない。こんなことなら近道など無理にしようとせずに、大通りを歩いていくべきだった。 若い頃ならいざ知らず、還暦を翌年に迎えた今の齢となっては自らの体力に過信すると痛い目に合う。「しか