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【cinema】サーミの血

2017年77本目。

これは2016年の東京国際映画祭で上映されて、その時は見れなかったので、一般公開されて、ものすごく嬉しかった。本当に知りたい事だったので。

私が初めて「サーミ族」のことを知ったキッカケは、セレクトショップで見かけた皮のブレスレットでした。トナカイの皮を鞣したもので、留め金ボタンがトナカイの角だったか骨だったか。皮地には独特の文様が織り込まれていて、綺麗だなぁと思って、調べてみたらサーミ族独特のアクセだと。今ではそんな風に、「オシャレ」なファッションの一部として取り入れられている彼らは、その昔、北欧で虐げられてきた先住民族でした。この映画は、そんなサーミ人、エレ・マリヤの若かりし頃、彼女がサーミ族を捨てた過去を描いた話です。

エレ・マリヤ自身は、家族といる場所から何とかして逃れたいと思っている。サーミ族の子達ばかりが集められた学校では、他の子がそうではないのに、スウェーデン語も率先して勉強して「優等生」となっている。それでも、違う。「スウェーデン人」にはなれないのだ。見た目が違う。言葉が違う。名前でサーミとわかってしまう。何もかもが違う。バカにされて、侮蔑されて、それでも彼女は、その「バカにする側」に行きたがったのだ…。

見ていて、いい気持ちのするものではない。全然前向きな話でもなくて。エレ・マリヤが、なぜ自分のルーツを捨て、スウェーデン人になりたかったのか。そういう細かい説明や原因は描かれていない。年老いた彼女が、妹の葬儀へ訪れるためにラップランドへ再訪するところから始まるこの物語は、過去を振り返ろうとしない彼女が、ただひたすら卑屈で、好きになれなかった。

だけど、私が今年唯一買ったパンフレットはこの映画のだけです。とにかく知りたかった。今でこそ大切にされている彼らの文化は、昔は差別の対象でしかなかった。主人公エレ・マリヤ役の子も、その妹役の子も実際にサーミ族の姉妹で、演じる傍ら、生活の糧でもあるトナカイの放牧にも精を出していたし、彼女にとってはそれが生きがいだそうだ。何か、ホッとした。映画見て、救われなかったけども、パンフレット読んで、ホッとした。

また、老女クリスティーナ(=エレ・マリヤ)の役の女優さんもサーミ人だ。彼女は演じながら、何を感じていたんだろうか。今よりもっと辛く苦しい時代を見てきただろうし、演じている時の彼女の瞳は、もう演技ではなかったな、となぜか思ったんだよね。

エレ・マリヤは、ただ自由になりたかっただけなんだろうか。「文明の進んでいる」世界を見たかったんだろうか。行く先々で、侮蔑や憐れみの目で見られて、故郷に戻りたいとは一度も思わなかったんだろうか。少しでも自分のルーツに誇りを持つことはできなかったんだろうか。

そんな疑問ばかりが頭の中を駆け巡りましたが、遠い国の人間として思うことは、いつ自分が、そのどちらの側に立つことになろうとも、人の気持ちを慮ることのできる人でありたいと。心無い言葉は、どんな鋭利な刃物より容易に、人の心を引き裂き、深く傷つけてしまうのだということを感じたんです、この映画を見て、強く。エレ・マリヤはそれを誰よりもわかっていたんだと、映画を見た大分後になって気づきました。

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