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【cinema】ありがとう、トニ・エルドマン

2017年54本目。ドイツ映画。

この映画の感想が書きたくて、書きたくて、堪らなかったのに、ずっと溜め込んでいて、今やっと手をつけることができた。

正反対の性格の父娘が織り成す交流をユーモラスに描き、ドイツで大ヒットを記録したヒューマンドラマ。陽気で悪ふざけが大好きなドイツ人男性ヴィンフリートは、ルーマニアで暮らす娘イネスとの関係に悩んでいた。コンサルタント会社で働くイネスは、たまに会っても仕事の電話ばかりしていて、ろくに会話もできないのだ。そこでヴィンフリートは、ブカレストまでイネスに会いに行くことに。イネスはヴィンフリートの突然の訪問に戸惑いながらも何とか数日間一緒に過ごし、ヴィンフリートはドイツへ帰っていく。ところが、今度は「トニ・エルドマン」という別人のふりをしたヴィンフリートがイネスの前に現われて……。(映画.comより転記)

この作品は、多分2017年マイベスト10に入ります。入れます。ともすれば、ウザイだけでしかない心配性の父親とバリキャリウーマンの娘の物語。「ドイツ版お父さんは心配症」だな。

何でここまで自分の中で響いたんだろうと思う。私はイネスのようなバリキャリウーマンではない。彼女のように自分に自信があって、仕事に対して突き進む姿勢はない。また、私の父はヴィンフリートのような陽気な父親ではない。むしろ彼らほども歩み寄れていない父娘だと思う。共通点があるとしたら、イネスと私はほぼ同世代だと思う。だから解るのか。彼女の気持ちが突き刺さるほどに解るのだ。それが最高潮に達するのは、イネスがホイットニーになる時だ。あの時、私は泣いた。泣きすぎるくらい泣いた。彼女は、父のことなどどうでもよかった。でも気づくのだ、私は私だけのものじゃないんだなって。
↓そりゃホイットニー・ヒューストンのオリジナルがベストだけど、ここまで歌詞の意味まで突き刺さるシーンもなかなかない。

どちらもとても不器用な父娘。言いたいことを言えるのだけが良い関係とも限らないし、父は愛する娘のことがとても心配で、立ち去ることができない。異国の地で身も心もトゲトゲになった娘を放っておくことができないのだ。決して叱ったり、諌めたりはしない。あらゆる手を使って、とにかく和ませたり、ビックリさせようとするんだけど、空回り、空回りしながら、ジワジワとイネスの心を揺り動かすのだ。

イネスの周りにいる同僚たちも何だか微笑ましい。SATCばりの女友達もいれば、従順な美人アシスタントもいるし、やり手の男性上司も何だか憎めないキャラだし、セフレ的な同僚もどちらかというと間抜けだ。そんな中でイネスは生きている。

父は娘の仕事にプライベートにズカズカ踏み込んでいく。娘の視点から見ると大変居心地が悪い。でも彼女はもう自分ではどうにもならないところまで到達していて、はたしてそれが彼女自身が心底望んでいることなのかさえわからなくなっている。これは誰だって同じなのかも。私も今の仕事が自身にとってベストだとは思えないけれど、半分は惰性でやっている。「それってホントに正しいこと?おかしくない?」みたいなことを誰かが外から声をかけてくれたら、踏み止まれるのかもしれない。イネスはそんな声をどこかで待っていたんだと思う。

それにしてもイネスがプッツンくるシーンが、笑えて泣ける。さすが、ドイツ。やるな、と思わせてくれる。あそこで彼女に合わせてくれた部下や上司は、きっとやさしい人だ。それがわかっただけでも彼女は救われたのかもしれない。彼女はただ独りで闘ってきたんじゃないんだなって。

↑この後に例のシーンへと突入する。見ていたら笑えるけど、彼女はとにかく真剣で後戻りできなかったのだ…。

色々書いたけど、素敵な素敵なお話でした。途中まで鬱陶しい存在でしかないトニ・エルドマンに、心の底から、ありがとう!って言いたくなった。多分イネスと同じようなバリキャリウーマンでなくても、いや女性じゃなくても何かしら共感できる映画。なかなかヴィンフリートのようになれる人はいないけれど、皆どこかで彼のような存在を待っているんだと思いました。

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